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2024年度東大入試結果総括① 〜国私立校編〜

はじめに

2024年3月10日、天気は晴れ。この日、東大一般入試合格者2993名が発表されました。筆者は安田講堂前のベンチで自分の合格を確認したのち新宿へ向かい、鉄緑会マインズタワーの11階で各高校の合格発表速報に胸を躍らせていました。

東大・安田講堂

新制東京大学の入試は75年目を迎え、東大合格高校史に新たな1ページが刻まれたわけですが、今年も激動の入試でした。

本会は、各校のホームページと『サンデー毎日』を参照し、また独自調査も加え、2024年東大合格者(推薦合格を含む)3047名の出身高校を特定しました(判明率98.80%)。このデータを元に、2024年東大入試結果を様々な面から振り返っていきます。

(東京大学高等学校進学教育研究会 作成)

1.  絶対王者、開成

東の雄・開成は今年もトップを譲りませんでした。1982年より続く東大合格者数首位をキープし、43年連続と記録を更新しました。

しかし、初めて合格者数150人を超えた1985年より数えると、150人を下回ったのは1987年、2006年、2009年、2021年、2023年の5回しかなかったのですが、今年は149人と下回ってしまいました。200人を超えることもあった1990年代の黄金期から比較するとやや不安を覚えますが、まだ安泰でしょう。
開成を王座から引き摺り下ろす刺客は現れるのでしょうか?

開成中学校・高校校章「ペンと剣」(学校HPより)


2.  大躍進の聖光学院

それは2024年3月13日のことでした。聖光学院、東大合格者数100人達成──。

速報値では97人、第2報では99人であり、灘と筑駒を押さえ初の2位浮上ということでひとしきり界隈が盛り上がったのですが、3桁合格達成の知らせはそれを上回る勢いで界隈を震撼させました。

3桁合格達成高校に新たな高校が入るのは、1990年の桐蔭学園以来、34年ぶり13校目のこと。聖光的な校風や教育方針が現在の受験生や保護者のニーズに合い、数字を伴ってそのメソッドの成功を証明したのですから、今後聖光人気はさらに加速するでしょう。聖光学院の1学年人数は約230人。140,150人の合格者数なら見込める人数です。
開成の牙城を崩すのは、聖光学院かもしれません。

3.  渋幕・西大和─どこまで伸びるか、共学新興校

渋幕に西大和。私立別学校が東大合格高校市場を寡占していた中で、近年大成長した東西の私立共学校の2巨頭です。

30年前の東大合格者はたったの2人だった渋幕は2002年に東大合格者数ランキングで千葉県王者の県千葉を破ると、勢いそのままに2012年にTOP10入りして以来ランクインし続けています。
30年前は6人しか東大合格者がいなかった西大和は、2021年に前年より23人増の76人を達成、突如東大合格者数6位に浮上したのち、安定して合格者を出しています。

破竹の勢いで躍進してきた2校ですが、しかし、ここ数年の実績の推移にのみ注目するとどうでしょうか。今年は両者とも前年比減、60〜80人程度で停滞しているような印象も受けます。さらに成長を続けるのか、はたまたこれ以降伸び悩むのか、大人数の私立共学校を代表するこの2校に今後も目が離せません。

左:渋谷教育学園幕張 校章 右:西大和学園 校章(各学校HPより)


4.  理三合格者数ランキングに「異変」─桜蔭の登場、灘・筑駒の時代は終わり?

理三合格者数ランキングにも毎年ドラマがあり、筆者は見るのを欠かさないのですが、今年は異例の年でした。灘・桜蔭・開成が12人の合格者数を出し、1位タイとなったのです。

灘が圧倒的なのはいうまでもありませんが、開成が1位となったのは2007年以来17年ぶりのこと。東大合格者数では1位を取れる開成ですが、理三では灘・筑駒に敗れる状況が続いており、今年は画期となりました。
桜蔭は2022年に1位を取りましたが、理三1位校に新たな高校が名乗りを上げたのはラ・サールが1985年に1位となった年以来でした。その桜蔭が今年も1位を取った。灘・筑駒が寡占する理三市場。復活の開成。新参の桜蔭。これからも目が離せません。

5.  TOP10常連、麻布・駒東は大幅減

麻布は79人→55人で前年比24人減、駒場東邦は72人→44人で前年比28人減と、大幅に減少しました。麻布が60人を割るのは1961年以来63年ぶりのことでした。駒東も、直近30年で三番目に少ない数でした。

近年の男子校の逆風による凋落、とする見方もありますが、実際のところはわかりません。麻布や駒東のように浪人志向の強い学校では、前年に現役生が受かり過ぎてしまうと浪人が減り、全体として合格者数が大きく減って見えるという傾向があるからです。来年は浪人パワーでV字回復?

(「進学校データ名鑑」より作成)


6.  どうなる「神奈川御三家」─浅野vs栄光へ?

「神奈川御三家」は、その時々によって姿を変えてきました。元々は栄光学園一強だった神奈川に、桐蔭学園、聖光学院が追随し、「御三家」と呼ばれだしたのが最初。桐蔭学園の全盛・凋落を経て、浅野が新たに加入しました。栄光vs聖光という「神奈川2光」の対決構図が長らく続いていましたが、前述の通り聖光が頭一つ抜けました。

そして直近の東大合格者数では2023年は浅野43人栄光46人、2024年は浅野45人栄光47人と、浅野が栄光に迫り続けています。神奈川御三家の中の序列は今後どう変化していくのでしょうか?

左:浅野中学校・高校 右:栄光学園(各学校HPより)


7.  時代は「御三卿」へ─止まらない早稲田

最近、某Twitter界隈などで「御三卿」という単語が聞かれるようになりました。1990年代頃に呼ばれるようになった「新御三家」(海城・駒場東邦・巣鴨)を改めた新たな学校群として、海城・駒場東邦・早稲田をまとめて「御三卿」というようです。

早稲田大学の系属校(附属校ではない!)である早稲田は過去より東大合格者を輩出し続けていましたが、今年は43人合格と初めて40人代の大台に乗せ、過去最高を記録しました。学年により受験志向か早大への推薦進学志向かはバラつくようですが、2023年に鉄緑会指定校に新たに指定されたことも後押しして今後も早稲田の成長は続くでしょう。

(「進学校データ名鑑」より作成)


8.  渋幕に続け─渋渋の台頭

今成長を続けている高校として、異論なく挙げられるのは渋谷教育学園渋谷でしょう。
2002年に初めて東大合格者数を出して以来、文字通り右肩上がりの増加を見せ、直近3年間では33人→38人→40人と実績を着実に向上させていた渋渋でしたが、今年も43人合格と過去最高を更新しました。
中受偏差値もインフレを続けています。自由でありながら生徒の興味関心を伸ばす校風が現代にマッチしているという見方や、都内私立の共学校となると渋渋、広尾学園、穎明館程度しか選択肢がないため、昨今の共学需要に応えているという見方もあります。先に超進学校化した渋幕に続き、超進学校となった渋渋の今後に注目です。

9.  渋幕を倒せ─市川の成長

市川高校は前年より16人増加の31人合格で、初の30人代に乗り過去最高を更新しました。今年は東邦大付属東邦が10人、昭和学院秀英が6人と、千葉県私立は軒並み好調でしたが、特に市川は大きく数を伸ばしました。

市川はもはや滑り止めではない──千葉私立の2強として、渋幕と肩を並べる日が来るかもしれません。

市川中学校・高校(学校HPより)


10. ”種類物”とは言わせない─古の「御三家」、芝のプライド

「種類物」という用語も、最近聞くようになったスラングです。巣鴨や城北、攻玉社など、毎年東大に10人程度の合格者を出すレベルの都内私立男子校を指すマイナスの言葉です。

芝もこの「種類物」に含まれることがしばしば()ですが、今年は合格者数を増加させて18人に達しました。芝といえば、1930年ごろには開成・麻布と並んで「御三家」と呼ばれていたように、戦前は都内私立筆頭の進学校でした。今年の18人という数字からは、「種類物」という蔑称に対抗する芝のプライドをしみじみと感じました。

芝中学校・高校(学校HPより)


11. 新星、洗足学園

川崎市の女子校である洗足学園中学高等学校は、昨今界隈を賑わせている新興校の一つです。初めて2桁の東大合格者数を出したのは、なんと2021年。その翌年の2022年には20人の合格者を出し、2023年は22人と驚異的な右肩上がりを見せていた洗足は、今年も14人と安定した実績を出しています。学校の内部改革や帰国生の受け入れ、交通アクセスが良いことなどが後押しして成長を続けています。

「神奈川御三家」といえばフェリス、横浜共立、横浜雙葉の3校を普通指しますが、これら女子校を颯爽と抜き去った洗足の今後に期待です。

洗足学園中学校・高校 ミネルヴァ像(学校HPより)


12. 急成長の鷗友学園、女子校は「オワコン」ではない

豊島岡女子、吉祥女子とともに「女子新御三家」とされる都内女子校の鷗友学園女子中学高等学校は、今年13人の東大合格者を出し、過去最高を記録しました。これは都内女子校の中では、桜蔭、女子学院、豊島岡に次ぐ4位の多さであり、毎年東大に多くの合格者を出す雙葉やフェリス、白百合などを凌いでいます。

女子校の盛岡白百合学園中学高等学校が2026年からの共学化を決めたことは記憶に新しく、女子校はもはや「オワコン」という風潮もあります。逆風の中健闘を続ける女子校名門校の勇姿にはあっぱれです。

13. 初の2桁合格達成、須磨学園

神戸市の私立共学校である須磨学園は今年、歴代最多であり初の2桁となる10人の合格者を出しました。一方で、今年は教諭の不祥事が複数明るみになるなど、須磨学にとって試練の年となりました。2桁合格の達成は決して簡単なものではないので、失速してほしくないものです。

14. 学芸大附属国際中等教育学校─国立校の戦い

東京学芸大学附属国際中等教育学校は、2007年に開校した国立の中等教育学校です。初めて卒業生を出した2013年以来、東大合格は途絶えておらず、今年も5人の合格者を出しています。

学芸大附属といえば東大合格者数TOP10常連だった東京学芸大学附属高校が最近不振であることが思い起こされます。工夫を続ける国立校の一つとして、今後の動向に注目です。

東京学芸大学附属国際中等教育学校(学校HPより)


15. 早慶だけじゃない!─東洋英和女学院

都内女子校の東洋英和女学院は、今年3名の東大合格者数を出しました。そのうち1人は理科三類、1人は法学部推薦と、驚きの内訳です。
都内女子校のあるあるとして、早慶GMARCH私立医学部合格者数が多くを占めるというものがありますが、東洋英和は東大も圏内。今年の実績からは伝統校の底知れなさを感じました。

16. MARCH附属という道

今年は中央大附属横浜が3名、明治大附属中野が2名、青山学院高等部、青山学院横浜英和がそれぞれ1名の東大合格者を出しています。
少子化が進み受験人口が減る一方で、MARCH大は受け入れ数を拡大、さらに中学受験は過去に類を見ない激しさとなっている近年。

MARCH大とMARCH附属中高の学力の乖離は拡がり続けています。MARCH附属から東大を目指す受験生は今後増加していくかもしれません。


最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回は、「2024東大入試総括② 〜公立校編〜」です!お楽しみに!


本記事が2024年最後の記事となります。
2025年も引き続き東大進学校研をよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年を。
(2024/12/31)

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