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【CAST@NET vol. 002】 虹を見てカメラを考える

こんにちは!
私たち東大CASTは、「科学の面白さを、多くの人に伝えたい。」をモットーに、実験教室やサイエンスショーなどのイベントを実施している東京大学の学生サークルです。
この科学コラムでは身の回りの不思議から数学まで、科学にまつわる幅広いテーマを楽しんでもらえるように書いています。
よろしければ、他の記事も見ていただけると嬉しいです。

今回のテーマは物理で「光」についてのお話です。


皆さんは最近、虹を見ましたか。


虹はなかなか出会えないものですが、その鮮やかな色彩はとても美しいですね。私の趣味はカメラで写真を撮影することなのですが、虹の写真をカメラで撮ったことはありません。虹を見つけたときにカメラを持ち合わせていたことがないからです。虹に出会いたいですね。

虹はどうやってできる?

光はなぜ、さまざまな色に分かれて虹をつくるのでしょうか。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、しばらくお付き合いください。
虹は、空気中を漂う水滴によって引き起こされます。光は物質によって進みやすさが異なるので、ある物質から別の物質に入るときに進路が曲がります。このような現象を屈折といいます。


光の屈折

その曲がり具合は屈折率という量で表現されますが、屈折率は物質の種類によって異なるだけではなく、光の波長(すなわち色)によっても異なります。波長が短い青色の光は、波長が長い赤色の光よりも大きく曲がります。

色による曲がり具合の違い

空気から水に入った光は屈折を起こしますが、屈折率が波長によって異なるため、それぞれの色で曲がり具合が異なります。そのため、光が出てくるときの角度が色によって違っていて、その影響で赤から紫の色に分かれた虹が見えるというわけです。

水滴に入った光

レンズで光は曲がるけど

しかし、「光の波長によって屈折率が異なる」というのは、私たちが光を扱う上で、少し不便があるようにも思えます。
中学校の理科や高校の物理で、凸レンズがつくる像について学んだ人は多いと思います。そのとき、光がレンズによって曲げられる様子を、一本の線で描いたのではないでしょうか。しかし実際には、波長(色)によって屈折率が異なるため、曲げられ方もわずかに異なることになります。さまざまな色が混合した光の経路は、一本の線にならず、ある程度の幅を持った帯になるはずです。
カメラはレンズによって光を曲げ、被写体の実像をスクリーン上につくり、それを写真にします。青色の光と赤色の光が、レンズに向かってまっすぐ進んできたとしましょう。レンズによって、青色の光は赤色の光より大きく曲げられるため、青色の光はレンズに近いところに集まり、赤色の光はレンズから遠いところに集まってしまいます。

レンズで光はどう曲がる?


ピントが合った写真を得るためにはスクリーン上に像を結ぶ必要がありますから、すべての色が同じところに集まるのが理想です。しかし実際には、色によって集まる位置が異なるということになります。これは困ったことです。

理想とのズレ=「収差」

実は、レンズによって得られる像は、理想的な像とはいろいろと異なっています。理想的な像とのズレのことを「収差」といいます。先ほど述べたような、屈折率が波長によって違うことに起因する収差を「色収差」と呼びますが、これ以外にも、さまざまな理由で収差は発生します。
19世紀ドイツの数学者・光学者、ルートヴィヒ・ザイデルは、レンズの収差について研究を行いました。レンズの収差のうち代表的な5種類は、彼にちなんで「ザイデル収差」と呼ばれています(ここでは詳細は説明しません。興味のある方は調べてみてください)。

ルートヴィヒ・ザイデル
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Philipp_Ludwig_von_Seidel.jpgより引用)

凸レンズ1枚できれいな像を得ようというのは、そもそも無理な試みなのです。
収差を克服するために、レンズを製造する光学メーカーは知恵を絞ってきました。色収差を解決する方法として、簡単なものには「凹レンズと組み合わせる」というものがあります。凸レンズの後ろに置いた凹レンズによって、凸レンズと逆向きに光を曲げることで、色収差をなくそうという方法です。

色収差を凹レンズで修正する

さまざまな収差を解消するためには、追加のレンズが必要です。そのレンズがまた別の収差を生む場合もあります。レンズをつくるにはそれらを総合的に勘案しなければなりません。カメラのレンズは、画角などの機能的な要請を満たすため以外にも、収差をできる限り小さくするために光学的な計算を行った上で設計されています。

カメラ用のレンズは、ひとつの「レンズ」として販売されていても、内部では複数のレンズが組み合わさった構造をしています。多いものでは20枚程度のレンズで構成されるものもあります。(レンズの構成はメーカーのサイト等で知ることができます。例として、ニコンのレンズの一つを載せておきます。https://www.nikon-image.com/products/nikkor/zmount/nikkor_z_70-180mm_f28/spec.html)スマートフォンの小さなカメラであっても、5枚程度のレンズでできているのが普通です。


虹と光の屈折、そしてカメラのレンズにまつわる科学をご紹介しました。私たちは日常的に撮影を行っていますが、その行為がいかに光を精緻に制御したものであるか、実感していただけたでしょうか。

ちなみに、写真撮影を趣味とする私ですが、カメラ以上に身近なレンズが眼鏡に使用されているレンズです。私はほぼ常に、眼鏡のレンズを通して世界を見ています。では目線を横にやって、レンズの縁付近から見える景色に注目してみると……?
波長による屈折率の違いで光が分かれ、虹のような光の帯を見ることができます。自然が作った虹に出会えないときでも、私は視界の縁にその鮮やかな色彩を捉えています。


今回もお読みいただきありがとうございました。
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