【Twitter連携企画】クイズ★進振りケース(CASE27)・最終回
オンライン授業が始まって早1ヶ月。新しい生活様式での「大学生活」に慣れてきた人も多いのではないだろうか。しかし一方で、定期試験や成績評価、そして特に、進学選択、いわゆる「進振り」には不安を抱えているだろう。コロナ禍の影響を完全に取り除くことはできないが、我々にできるのは進学条件を今一度確認し、問題なく志望学部・学科に進む準備をすることだ。
UT-BASE公式Twitter( https://twitter.com/UtBase )で行われている、進振りのあれこれを具体的な例を用いて理解する「クイズ 進振りケース」。第27回(最終回)は「文三規制」についての出題だ。解説もあるので、ぜひ参考にしてみてほしい。
CASE27 【第1~3段階】
【問題】
学生A~Dは、第一段階で経済学部を志望した。第一段階の結果が以下の画像に示す通りであったとき、A~Dのうち、第一段階で【確実に】内定を得たと言えるのは誰か?次に示す選択肢から正しいものを1つ選びなさい。
【選択肢】
① A・B・C・D
② B・C・D
③ C・D
④ C
(Twitterでの出題はコチラ)
知識の確認
今回はいわゆる文三規制についてみていこう。文科三類生向けの内容が主だが、経済学部を志望する学生全員に関わってくる内容もあるので、科類の垣根を越えて読んでほしい。
■文科三類のアドバンテージとディスアドバンテージ
文科三類は、進振りで高い基本平均点を誇る学生が多い。これは、学生本人の実力も然ることながら、制度的なアシストもあるからだ。文科三類は、総合科目の単位の枠組みが「L系列+A~C系列」17単位と、「D~F系列」6単位となっていて、前半部分が他科類と異なっているところである。これにより、文科三類生はL系列を13単位(最大15単位か?)履修することができる。
L系列の科目は、特に第2外国語、第3外国語の授業を履修しまくることで高得点を量産できるという特徴がある。というのも、第2外国語は、一度文法や単語を勉強してしまえば後は少ない勉強量で複数科目をこなせるのでコスパがよく、第3外国語は、時間的な制約からそこまで難しいことは行わないので、頑張れば頑張るだけ得点にそれが反映されやすいからだ。文科三類生は語学が得意な人も多く、そういった学生にとって、L系列の単位は魅力的であるということができる。
すなわち、そのような学生はL系列の単位を取りまくることで、基本平均点を高めることができる。これが文科三類生のアドバンテージだ。
<参考>
CASE04(基本平均点の考え方の基本)
CASE09(総合科目A~Fの追い出し)
CASE14(総合科目L系列の追い出し)
CASE16(特殊な追い出しその2)
対して、文科三類生のディスアドバンテージ(そしてこれが大きいのだが…)は、進学先の受け皿が小さい、ということだ。科類と進学先となる学部にはある程度の対応関係がある。(以下の<参考>を参照。)文科三類には文学部と教育学部が対応しているが、ここで、この2つの学部の定数を見てみよう。
文科三類の定数は485人であるところ、この2学部に進めるのは約390人にとどまる(※)。したがって、全体の約20%にあたる100名程度の文科三類生は、文学部にも教育学部にも進学できないことになる。
(※)全科類枠で内定する文科三類生を枠全体の約半分とした場合。
文科一類生で法学部に進学しない学生は45人(10%)程度、文科二類生で経済学部に進学しない学生が70人(20%)程度であることを考えると、文科三類の「受け皿」が小さいことが分かる。この受け皿の小ささも、文科三類生の基本平均点を高くし、熾烈な進振り戦争に誘う要因の一つだ。「受け皿」以外の学部を志望する場合、そもそも募集人数が少ないので、競争に耐えられるように高い進振り点が必要になる。
<参考>
「入学者選抜方法等の概要」, 東京大学, https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/adm-data/e01_02_10.html, アクセス日:2020/07/11
■文三規制
進振りには「文三規制」というトラップが仕掛けられている。これは、文科三類からの内定者の数を制限するシステムで、現在は経済学部でのみ採用されている。なお、「文三規制」は通称であり、表向きには文科三類を差別するような制度は存在しないことになっている。
●経済学部
経済学部は次のような制限を設定している。
文科二類以外からの進学内定者は、各科類の基本科類定数の6%を上限とする。(『進学選択の手引き』9ページ)
基本科類定数は『進学選択の手引き』8ページに記載されており、
文科一類 415名 理科一類 1,147名
文科二類 365名 理科二類 551名
文科三類 485名 理科三類 100名
である。したがって、これらの数(文科二類を除く)に0.06を掛けた数が経済学部に進学できる人数になる。
なお、2020年度の進学選択(2019年夏に実施されたもの)は、上記の基本科類定数のもとで、経済学部に進学できる上限は
文科一類 25名
文科三類 30名
理科一類 69名
理科二類 34名
理科三類 6名
(「経済学部への進学を希望している文科二類以外の科類のみなさんへ」, https://www.c.u-tokyo.ac.jp/zenki/news/kyoumu/20190809_shingakusentaku_daiichi_henkou.pdf, アクセス日:2020/07/11)
とされている。このことから、0.06を掛けた時は小数点以下繰り上げを行っていることが分かる。2021年度の進学選択(2020年夏に実施)の基本科類定数もこの時と変わらないので、30人の文三規制が行われるはずである。
なぜこれが文三規制と呼ばれるのか。それは、この制限が実際にはたらくのは文科三類に限られるからである。基本的に、文科一類から経済学部を志望する学生は25人もいない。理科生も同様だ。経済学部に行きたい学生が多いのは文科三類である。これは、文科三類生のディスアドバンテージから考えれば納得がいくだろう。
☕Coffee Break ~なぜ文三規制が導入されたのか~
文三規制が経済学部に導入された原因は、文学部のクレームである。文三規制が導入されるまでの経緯を見てみよう。
・平成19(2007)年度以前の「進学振分け準則」は、文科二類の希望者全員と文一・三から6名、理科から6名を内定させるものであった。すなわち、文科二類から経済学部への進学は事実上、「進振り」がなかった。
・平成20(2008)年度からは、進振り制度が改革され、以下が確認された。
① 融合科学の重要性が高まりつつある状況で,大学入学時にではなく,教養学部における学習を経て専門を選択できる東京大学のシステムのよさを,より積極的に発揮しうる進学振分けのあり方が求められている.意欲のある優秀な学生には,より広い進路の選択肢が提供されることが望ましい.
② 「全科類進学枠」を進学定員の3割以内で設定する.
③ 科類と学部の基本的対応関係は維持する.
・これを受けて同年、文科二類から経済学部に内定できる人数(指定科類枠)が270名に限定され、~70名を他科類から受け入れることとなった。
・結果、文科三類からの進学者が急増した。これを受けて“他学部”が、この現状は上記③「科類と学部の基本的対応関係は維持する」に反するということを主張してきた。(文科三類と対応するのは主に文学部なので、優秀な文科三類生が経済学部に引き抜かれることを憂いて文学部が申入れたのだろう。)
・それを受けた施策として、平成22(2010)年度より文三規制が導入。
表向きには各科類平等に扱っているように見えて、目的は完全に文三規制なのであった。
<参考>
「自己点検・評価報告書」, 東京大学大学院経済学研究科・経済学部, p. 64, http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kenkyuka/report/H2703.pdf, アクセス日:2020/07/11
●後期教養学部 教養学科 総合社会科学分科
平成29(2017)年度以前の進振りでは、後期教養学部の総合社会科学分科(総社)にも文三規制が存在した。
教養学科の総合社会科学分科においては、特定の科類からの第一段階での上限は15名とし、第二段階を含めても17名を超えて受け入れない。(「平成27年度進学振分け手続きについて」, http://www.c.u-tokyo.ac.jp/zenki/news/kyoumu/file/2014/h27_shinfuritebiki.pdf, アクセス日:2020/07/11)
これが文三規制としての機能を果たしていたのだが、平成30(2018)年度の進振り制度改革(受入保留アルゴリズムが導入された年と同じ)により、この規定はなくなることとなった。同年度、今までは全科類枠しかなかったところに「文科一・二類」と「文科三類」の指定科類枠が設けられたことにより、文科三類生の受け入れ人数を直接指定できるようになったからだ。
なお、総社の文科三類枠は第一段階11名+第二段階1名であり、全科類枠も各段階1名ずつであるため、文三規制が行われていた時代よりも文科三類生の定数が削減されている。(厳密には、2017年度以前は分科ごとで定数を奪い合う規定があったため、単純な数値の比較はできない。)
<参考>
「平成30年度 第一段階進学定数」, http://www.c.u-tokyo.ac.jp/zenki/news/kyoumu/shingakusentakudaiichikouhyou20170619-2.pdf, アクセス日:2020/07/11
「平成30年度 第二段階進学定数」, http://www.c.u-tokyo.ac.jp/zenki/news/kyoumu/20170821_dainiteisu.pdf, アクセス日:2020/07/11
■文三規制の意義
文三規制の帰結を、文科三類生視点とそれ以外の科類の学生視点で考えてみよう。
●文科三類生にとって
経済学部志望者にとってはいい迷惑でしかない。文三規制のおかげで経済学部の底点は高くなるし、ほぼ毎年、文三規制が発動するので、経済学部の第二段階はないに等しい。(文三規制発動後、文科三類生は第二段階では経済学部を志望できない。)文三規制が発動されなかったとしても定数1くらいで激戦である。発表・推測される底点は、文科三類生以外も含めた底点なので、見た目だけはまだ簡単に見えるがそれは大きな罠である。経済学部志望者は、基本平均点80点は確実に欲しい。
経済学部志望者でない学生にとっても、第二段階ではこの文三規制で弾かれた、点数の高い学生と競うことになるので、できるだけ基本平均点を高めておこうというインセンティブが働く結果、全体的に競争が厳しくなる(はず)。
●他科類の学生にとって
経済学部の全科類枠は、文科三類生を除いて考えていいことになる。そうすると、第一段階は42-30=12人の枠、第二段階では18-0=18人の枠を争うことになる。文科三類生という強敵と分離される結果、少々楽な進振りになる。実際、文三規制発動時、第一段階の底点は文科三類生の底点よりも低いし、第二段階は第一段階の底点よりずっと低くなる。
経済学部以外を志望する学生にとっては、この文三規制で溢れた基本平均点の高い文科三類生が、第二段階の全科類枠に流入してくることになるのでいい迷惑である。文三規制がもしなかったらそのまま経済学部に内定してくれていたような文科三類生と戦わないといけないので、余計な敵が増えてしまった、という状況である。
問題の解説
【問題】
【選択肢】
① A・B・C・D
② B・C・D
③ C・D
④ C
【解答】
③ C・D
【解説】
●学生Aについて
学生Aは文科二類生であるため、まずは指定科類枠で内定するかを判断し、もし指定科類枠で内定しなければ、次に全科類枠で内定を判断する。(CASE24)
学生Aの基本平均点は72点であり、これは指定科類枠の底点73点よりも低い。よって指定科類枠では内定していない。次に全科類枠で判断するが、同様に底点よりも低いのでここでも内定しないことは明らかである。
●学生Dについて
学生Dは理科生であるため、まず指定科類枠、そこで内定しなければ全科類枠を判断することとなる。
学生Dの基本平均点は76点であり、指定科類枠の底点81点には及ばない。そこで、全科類枠を見ると、全科類枠の底点は学生Dの基本平均点よりも低いので、学生Dは全科類枠で内定していることが確実にわかる。(もちろん、内定者数は基本科類定数の6%未満である。)
●学生B・Cについて
学生B・Cはともに文科三類生であり、文三規制の対象になる。画像によると、文科三類の基本科類定数は500であり、これの6%は30である。(実際の基本科類定数は485名であるが、小数点以下の扱いで混乱が生まれないように500名とした。)よって、文三規制のラインは30名である。文科三類の志望者の中で31位以降の学生は経済学部に内定しない。
画像の表より、第一段階での志望者は31名であり、内定者は30名であるから、文三規制が発動された(か、あるいは31位の学生の基本平均点が底点を割っていた)ことが分かる。このとき、学生Cの基本平均点は学生Bの基本平均点よりも高いので、少なくとも学生Cは文科三類生の志望者31人の中で30位以上であることが分かる。よって学生Cは内定していることが確実に言える。
対して学生Bは、それより基本平均点の低い文科三類の志望者がいた場合には内定していることになるが、学生Bが31位の可能性も残されている。したがって、学生Bが内定しているかどうかは、画像の情報からは判然としない。
以上より、「学生C及びDは内定、学生Aは内定せず、学生Bは不明」である。学生Bが内定していなかった場合、たしかに学生Bの基本平均点は底点よりも上であるが、文三規制により内定を逃したことになる。この時、文科三類の底点は少なくとも77点よりは上であることが分かる。学生BとCの間に誰もいなければ、文科三類の底点は80.0点だ。
(終)
おわりに
今回のCASE27をもって「クイズ 進振りケース」の連載は終了になる。wordファイル標準のレイアウトで225ページ、約10万字にも及ぶ超大作(卒論かな?)になってしまったが、何か困ったことがあればぜひ振り返って読んでほしい。挿絵も多いので通読も余裕ですね☆彡最後に、ライターの紹介をして終わりにしよう。
メインライター:void(Twitterの中の人)
サブライター :taiga(CASE24, 25担当。UT-BASE代表)
karin(CASE19担当。UT-BASE編集部 記事作成班長)
Special thanks to 内容チェックを手伝ってくださった皆さん