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2019.12.24
自動ドアなのに、手動でしか開かない扉。
入るとすぐそこにウェルカムボードがあった。
「クリスマス会 2階へどうぞ!※案内人がいない場合、右おくの”階台”をのぼってください。」
めちゃくちゃ寒い部屋、途中まで剥がした床、そこにあったはずのピアノ、無造作に置かれた本。
あまり長居はせず、言われた通り、右おくの階段を上った。
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扉を開けると、そこはパーティー会場。今日は、クリスマス会でもあるし、塾生の卒業式の日でもあるし、この塾自体の最後の日でもある。
そういうこともあって、生徒さんのご家族も来ていた。
『自分のアタマで考え、自分の手で創り出す。
これからを生きる私たちの、新しい探究型学習塾』
そんな塾の生徒さんが、企画から実行までまるっと担当し、作られた今日のこの空間。壁に貼られた写真、綺麗に装飾された窓、膨らました風船、机の上にあるピザやジュース。
そこに並ぶものや雰囲気が、なんだかすごく愛おしい。まずは、冷めたピザを頬張り、甘い甘いコーヒー牛乳を流し込んだ。
「新しいお客さんのためにプレゼンもっかいしてよ。」
先生がそう言うと、生徒の1人が、自分で研究し製作した「魚の罠」と「ロケット」について、ホワイトボードで図示しながら説明してくれた。
これは結構ショッキングなことだった。小学生の時の自分は、何かを説明するときに図を書いてわかりやすく説明するだなんてことはできなかったし、なんなら今だってできるかわからない。
「僕は塾に来た時は、全然こんな風に話したりできなくて、泣いてばっかりだったんですけど、今はこうやって話せるようになりました。」
少し恥ずかしそうに、でも、堂々と話す彼のプレゼンはすごくよかった。聞き手の様子をきちんと伺いながら進行する、彼の人となりが伝わってきて、「この子がこのまま生きていける世界でありますように」と思った。
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そうそう、ちなみに今日はクリスマスイブ。
「シャトレーゼで買ってきました。」
生徒の男の子が、自信満々にケーキを出してくれる。
比較的多い人数が来てもいいように、カット数が多くて、フレーバーがミックスしているケーキを選んできてくれたよう。
嬉しそうな顔に思わずほっこりする。
そうして、次はもう1人の生徒の発表、というか「先生のいいところ、悪いところ」を集計するアンケートを始めた。
小学生、ちょっとふざけたいお年頃。案の定めちゃくちゃに言われていた。彼女、彼なりの愛情表現なのだろうなと感じたし、先生と生徒というよりも、もう少しフラットな、優しく不確かな何かだったんだろうな。
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何かを手放すのは勇気がいる。
侘しさや、寂しさ、そしてほんの少しの宿願がある。
卒業証書を受け取る彼・彼女たちの、寂しさにも似た、言葉にはできない感情を
彼・彼女たちを見送る先生の後ろ姿を
わたしは、今日の風景を忘れたりはしない。
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色が綺麗だって言う、その塾の名前。
色味なんてわたしには見えないけれど、
春の日の木漏れ日のような、じんわりと温かい時間が、
これからずっと、彼らにふりそそぎますように。