The Voice
ふとしたきっかけから、地域FMで約1時間マリノスに関して話すことになった。
まだ、だいぶ先の事なんだけど、パーソナリティのマリサポの方から
「ゲーム前に聞いて気分を上げる曲があったら教えてください。話の途中でいれますから」と言われたのだけれど、そういう習慣はあまりないので、ちょっと考えてPay money To my Painの「Voice」という曲でお願いすることにした。
これにはちょっとした理由があるので、番組内で話す前に忘備録としてまとめておこうと思う。
◻️「Voice」
実はあまり詳しくはないのだけれどPay money To my Painは日本のオルタナティブ・ロックバンドとしては一部のファンからは神格化されているバンドでプロミュージシャンとの交流もありファンも多いと聞く。
ほぼ全曲がUSで作られ、歌詞もほぼ英語だ。そんな人気絶頂の中、ボーカルのKが心不全で31歳の若さでこの世を去った。
その遺作が"gene”というアルバムだ。このアルバムは製作途中でKが亡くなったため未完成だ。そのアルバムの中にこの「Voice」が収録されている。
ボーカルはONE OK ROCKのTAKA。作詞も担当している。
ファンの方がいたら大変に恐縮だがざっくりとした内容としては急逝したKを思うTAKAの想いを綴った曲だ。
あえてリバーブもかけず「声」を伝えるためなのだろうか、生声で歌うたまたま出会ったとても美しい曲だ。
◻️サポーターが持つ「声」という力。
僕は横浜F・マリノスのサポーターだ。サポーターは当たり前の事だけど、試合でボールを蹴る事もできない。できる事といえば目の前に拡がるフィールドでプレーする僕らのプレイヤーを鼓舞する事だけだ。
僕らサポーターは僕らの声で選手たちの気持ちや数ミリ先の一歩を出す事ができるはずだと信じている。鬱憤晴らしという方もいるかもしれないがそう信じている。いいじゃないか。思い込みでも。
◻️僕らが聞いた選手の"Voice"
プレイヤー達が声を発する事もある。喜田キャプテンの珠玉のようなお言葉は別として印象的なものが多い。
僕にとって印象的な「Voice」はこの3つだ。
一つ目はゴールを外した奥大介の雄叫び。ミドルからのゴールが僅かに枠を外す。点を仰ぎ苛立ちが満ちた叫び。連覇をするちょっと前。中位が指定席だったマリノスの時代。僕らも「ああ、またか」のような諦め半分だったが、今改めて考えると彼は常勝クラブであるジュビロからやってきてマリノスを強くしたい一心の裏返しの叫びであったのかもしれない。
彼がいなかったら今のマリノスは無かったんじゃないだろうか。
二つ目は有名すぎるこの松田直樹の不器用であるがそれ故に最もピュアなこのVoiceだ。
「俺、サッカー好きなんすよ!」
移籍が決まった選手だ。そして僕らが最も認めたくなかった移籍ではあったが、なぜかいい意味でそんな悲しみも超越してこれからの彼のサッカー人生を心から応援したくなった。
現実は残酷だったけど。
そして3つ目は個人的なもので恐縮だがマリノスというクラブに「闘う」DNAを埋め込んでいった彼のあるVoiceだ。
彼の事については自分の拙文を参照していただきたい。
幸運なことに実は病魔に犯されながらもあの日産スタジアムを訪れてくれた翌日に直接彼に逢える機会を得た。
一対一で話ができた時彼に
「また会えるよね」
と聞いたら、射抜くような力強い目で
「当たり前じゃないか。また会えるさ。俺は諦めないよ。」
とはっきりと言った。
あのセレッソ戦で魅せた執念のゴールに乗せた気持ちそのものに。
僕は彼の気持ちを信じた。現実が気持ちを踏み躙ったとしても。
彼のこの言葉は自分にとって一生の宝物だ。
そして我々ができること。紡いでいく事。
フットボールにはVoice、声が大きな意味を持つ。選手の背中を押す。球際の数ミリを変えうるかもしれない。
そして今はこの世界にいないプレイヤー達の声は永遠に残り、そしてそれはやがてクラブの血となり肉となる。それを語り継ぎ紡いで行き、やがてフィールドへの声に変える。選手達の背中を押す。それが我々サポーターの使命の一つだ。
冒頭のPay money To my Painの「Voice」の一文を引用してこの駄文を終わりにしたい。
「鳴り終わる
その音はその後も
まだ僕らのカラダん中
残響が埋め尽くしている
そこから聞こえてくるモノは
言葉やメロディではなくて
今も僕の中で生きている彼の声」
「僕らはあなたの声だ
僕らはずっとあなたと一緒だ
言いたいことがありすぎるのに
あなたが何も話せないときでも
ひとつの言葉以上のもの
ひとつのメロディ以上のもの
あなたが残してくれたもの
僕が心の中で感じていること
僕らは孤独じゃない
僕らは孤独じゃない」
終