滝谷かつひろ (バンデンピピ)

滝谷かつひろ (バンデンピピ)

記事一覧

短歌十二首「独り占めする」

ドンドンドン 叩いたところで応じない壊れたテレビも引きこもりも 助手席の人の形に空いた穴埋めようとして大きくなって 「こっちかな」と歩き出して遠回り迷子になって…

短歌十一首『パン派』

向かい合うか弱い二人もう会わぬ夢置き去りにしてしまえ電車 空を飛ぶ鳥に混ざって流転する 自由、開放 忘れ物は 言わないで 次の言葉を知っている受け入れるから言わ…

僕は黙る。

僕が沈黙したからといって、「ぐうの音も出なくなった。」とか「言い負かしてやった。」とは思わないでほしい。 僕の沈黙は大抵、呆れによく似た諦念である。 全く理解出…

選択の天秤

「過去と現在と未来は、同時に存在する。」 これは物理学の言葉。でも僕は、本来の意味と違う意味で、この言葉を思い返すことがよくある。 まず、人生にはとてつもない量…

ワードウルフ幸福論

ほんの少しだけ、話が噛み合わない。 多分、ほんの少し。 気付いている。自分が違う「お題」だということ。 ワードウルフは人狼とは少し違い、最初に自分が「市民」か「ウ…

辛いでええやん。

「好きの反対は無関心」とか 「傷ついた分だけ人は強くなる」とか 「明日はきっとよくなる」とか そういうのは全部、嘘。 好きの反対は嫌いだし 傷つくことも強くなるこ…

5回数えて、正。 14回数えて、誤。 一画目を書いたところから誤っていた。 真横に長い一本を書くべきだったのに、筆を下ろして点を書いただけだった。 楽をした。 本当は…

パフェ

僕は甘党で、それはとても甘かった。 辛さの一切ない甘さ。 甘いだけの空間。 視界がぼやけてしまうほどの空間への着色。 ただ少しの違和感。少しだが大きい違和感。そこ…

散歩する鯨

いつからか、上空に一頭の鯨が游いでいた。 鯨が現れた正確な日時は不明のままだ。なぜなら、人によってそれが現れたとする日時がバラバラなのだ。学者によると空を飛んで…

祈るくらいなら

僕はバンドを組んでいた。僕らは俗に言うロックバンドで反抗的な尖った歌詞で、少々の人気を得ていた。だが、バンドが波に乗り出した時にボーカル兼リーダーが酔った勢いで…

多元宇宙論

僕が住んでいる場所には真っ青な空と、澄んだ空気と、なんとなくな憂鬱がある。 テレビを付けて情報番組にチャンネルを合わす。そこには、通り魔殺人事件が起こり犯人が未…

生活転生

僕の部屋は物で溢れかえっていた。僕は物が捨てられないのだ。 例えば、高校の修学旅行でベトナムに行った時に、その場のノリだけで買った猫か熊か分からない置物。その場…

向こうの彼

三日後に私と会う約束をして、彼は自殺した。 私と彼の関係は、ただバイト先が同じというだけで、深い関係ではない。でも、状況が状況なので気になっている。 もしかする…

ロマンティック呪詛

ロマンティックな呪いにかけられた。 血の色が薄れていく感覚が心地よく、別の色に染まっていく感覚に歓喜する。 つまらない話に耳を傾け、悪戯な嘘を真にする。 呪いが解…

異端村

小さい頃、戦隊ごっこが流行っていた。僕はいつも悪役を選んでいた。信念を持っていて、敵が多くても屈せず、自分の願いを叶える為に努力する。そんな悪役が好きだった。友…

憂鬱な土曜日

猛暑日のクリスマス、暗い朝。 広い四畳半の部屋、静かなアラームで起きる。 いっぱいの腹が鳴って、難しいトーストを食べる。 何もしない多忙な時間が過ぎ、冷静に取り乱…

短歌十二首「独り占めする」

ドンドンドン 叩いたところで応じない壊れたテレビも引きこもりも

助手席の人の形に空いた穴埋めようとして大きくなって

「こっちかな」と歩き出して遠回り迷子になってから地図をみた

正解なんてない素晴らしい世界 僕だけずっと間違えている

褒め言葉だと受け取った 気を遣って謝る君のそういうところ

ブロックをされたのではとスタンプをプレゼントするそういうところ

一人ーーだと優雅にみえてぼっちーー

もっとみる

短歌十一首『パン派』

向かい合うか弱い二人もう会わぬ夢置き去りにしてしまえ電車

空を飛ぶ鳥に混ざって流転する 自由、開放 忘れ物は

言わないで 次の言葉を知っている受け入れるから言わないでいて

日常の起点を知らすエンドロールもし永遠に流れていれば

雨忘れ抜ける風々心地いい迫る終わりを君だけが知る

パラパラと音も立てずに流れゆくこれが終われば全て忘れよう

アラーム音鳴って初めて朝と知る目を覚ますまではシュレデ

もっとみる

僕は黙る。

僕が沈黙したからといって、「ぐうの音も出なくなった。」とか「言い負かしてやった。」とは思わないでほしい。
僕の沈黙は大抵、呆れによく似た諦念である。

全く理解出来ない意見はもちろん、簡単に論破出来てしまう意見や全く道理が通っていない意見、そのような意見に対して、僕は黙る。そこに至る思考回路に絶望して、会話を諦めてしまう。
小学生の時、先生が怒っているのを反論せず、やり過ごしていたように、「無難な

もっとみる

選択の天秤

「過去と現在と未来は、同時に存在する。」
これは物理学の言葉。でも僕は、本来の意味と違う意味で、この言葉を思い返すことがよくある。

まず、人生にはとてつもない量の選択があり、日々、正しい選択を強いられている。
ただ、選択肢はいずれも、平等に選ばれているわけではない。

中学で野球部に入っていた人が、高校でも野球部に入るように、夕食をパスタに決めた人が、フォークを手に取るように、選択の天秤は、過去

もっとみる

ワードウルフ幸福論

ほんの少しだけ、話が噛み合わない。
多分、ほんの少し。
気付いている。自分が違う「お題」だということ。

ワードウルフは人狼とは少し違い、最初に自分が「市民」か「ウルフ」かを知らされていない状態でゲームが始まる。そして、会話の中で自分の立場を考察しなければならない。

市民の勝利条件はウルフを処刑すること。

だから、ウルフである者が生き残るには、誰よりも早く自分の立場を悟る必要がある。

その点

もっとみる

辛いでええやん。

「好きの反対は無関心」とか
「傷ついた分だけ人は強くなる」とか
「明日はきっとよくなる」とか

そういうのは全部、嘘。

好きの反対は嫌いだし
傷つくことも強くなることも必要ないし
明日もどうせクソだよ。

そういうのって多分、
嫌われずに
傷つかずに
今日がよかった人の言葉だよ。

ほっといてくれればいいのに

そういうのって全部、
辛いでええやん。

5回数えて、正。
14回数えて、誤。

一画目を書いたところから誤っていた。
真横に長い一本を書くべきだったのに、筆を下ろして点を書いただけだった。
楽をした。

本当は5回だけ数えれば良かったのに。
14回も数えたのに。
キリも悪い。

僕はこれから、14回、28回、42回、56回、70回、、、と誤っていくんだろうな。

14の段の掛け算だけ上手くなる。
しょうもない特技。

みんなはちゃんと「

もっとみる

パフェ

僕は甘党で、それはとても甘かった。
辛さの一切ない甘さ。

甘いだけの空間。
視界がぼやけてしまうほどの空間への着色。

ただ少しの違和感。少しだが大きい違和感。そこに確かに存在するが妥協を繰り返した違和感。
コーンフレークだ。
コーンフレークは甘いだけの空間の中の完全な異物だった。
いつの日かコーンフレークの量増しによって、それが容器から漏れ出してしまわないかと不安になっていた。

それは見た目

もっとみる

散歩する鯨

いつからか、上空に一頭の鯨が游いでいた。

鯨が現れた正確な日時は不明のままだ。なぜなら、人によってそれが現れたとする日時がバラバラなのだ。学者によると空を飛んでいること以外、普通の鯨なのだそうだ。そのことで動物愛護の観点から保護しようとする声が上がったが、空を自由に游ぐ鯨を神と崇める者達がそれを拒んだ。

鯨が大々的にニュースで報じられるようになり、人々のほとんどは見上げながら生活をした。色々な

もっとみる

祈るくらいなら

僕はバンドを組んでいた。僕らは俗に言うロックバンドで反抗的な尖った歌詞で、少々の人気を得ていた。だが、バンドが波に乗り出した時にボーカル兼リーダーが酔った勢いで店の店主に難癖をつけた上に暴行を加え、逮捕された。
解散理由は数少ないファンに「一身上の都合」として発表されたが、SNSで少し検索すれば逮捕されたニュースが出てくるし、居合わせた客が撮影した動画まで出てくる。

今は心機一転、使っていたギタ

もっとみる

多元宇宙論

僕が住んでいる場所には真っ青な空と、澄んだ空気と、なんとなくな憂鬱がある。

テレビを付けて情報番組にチャンネルを合わす。そこには、通り魔殺人事件が起こり犯人が未だ逃走中だというニュースが流れていた。最近は暗いニュースが多い。貧困により不健康な生活を強いられているだとか、厄介な病が流行してるだとか。

遠い場所の話。

テレビを消す。黒くなった画面に暮らしが映る。

カレンダーを見ると家賃の支払い

もっとみる

生活転生

僕の部屋は物で溢れかえっていた。僕は物が捨てられないのだ。

例えば、高校の修学旅行でベトナムに行った時に、その場のノリだけで買った猫か熊か分からない置物。その場に誰が居て、どんなノリで買う事になったかは覚えていない。この置物は、もしかすると猫でも熊でもない現地における神の使いのようなキャラクターなのかもしれない。そうだとすると、捨てると縁起が悪いので捨てられない。

他にも、勝てなくなって辞めた

もっとみる

向こうの彼

三日後に私と会う約束をして、彼は自殺した。
私と彼の関係は、ただバイト先が同じというだけで、深い関係ではない。でも、状況が状況なので気になっている。

もしかすると自殺では無いのかもしれないと思った。なぜなら、よく探偵もののドラマや映画で、自殺だと思われていた人物が死ぬ前に再配達をしていたり、コーヒーを淹れていたりして、実は自殺に見せかけた他殺だった。というのをよく見るからだ。だか、彼の遺体を調べ

もっとみる

ロマンティック呪詛

ロマンティックな呪いにかけられた。
血の色が薄れていく感覚が心地よく、別の色に染まっていく感覚に歓喜する。
つまらない話に耳を傾け、悪戯な嘘を真にする。
呪いが解けないように、血の流れは逆流する。
不健康であると知っていて、延命するように呪われる。

「キャンドルが欲しい」と言われれば、走ってキャンドルを買う。「その匂いは好きじゃない」と言われれば、謝罪をし、どんな匂いが好きか尋ねて走る。刃を向け

もっとみる

異端村

小さい頃、戦隊ごっこが流行っていた。僕はいつも悪役を選んでいた。信念を持っていて、敵が多くても屈せず、自分の願いを叶える為に努力する。そんな悪役が好きだった。友達は戦隊ごっこをする度に悪役を選ぶ僕を不気味がった。ある日、いつも通り戦隊ごっこをしていた時、僕はどうしても負けたくなかった。その場に落ちていた石を拾ってリーダー格のヒーローに目掛けて投げつけた。石はヒーローの顔面に当たった。僕はヒーローが

もっとみる

憂鬱な土曜日

猛暑日のクリスマス、暗い朝。
広い四畳半の部屋、静かなアラームで起きる。
いっぱいの腹が鳴って、難しいトーストを食べる。
何もしない多忙な時間が過ぎ、冷静に取り乱す。
外出用のダサい服に着替え、忘れ物ばかりをする。
新品のガラクタを、捨てるように大事に持つ。
エアコンを点けて、開き難いドアを開く
何も運べない電車で、空っぽの体を運ぶ。
輝かない電飾、一人しかいない人混み。
分かりにくい集合場所で、

もっとみる