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米国株式投資で必須の武器!SEC開示分析講座⑨〜第4の災害「有償増資」〜

みなさん、こんにちは!

アメリカ株式義塾です。「米国株式投資で必須の武器!SEC開示分析講座」第9回を始めましょう。

今回は損したくない投資家なら必ず抑えておくべき「有償増資、Offering」についてです。

前回から「連結損益計算書(Consolidated statements of operations)」の読み方をお伝えしてきました。連結損益計算書には会社が今回どれだけのお金を稼ぎ、営業費用としてどのくらい費やしたのかなどが書かれています。
連結損益計算書にはもう少し項目が残っていますので引き続き見ていきましょう!

前回(第8回)はこちら



最後には収益性を最も分かりやすく示す指標についてもご説明します。



前回見たTELLの連結損益計算書にはなかった項目を見ていきます。その中でも皆さんが必ず一度は遭遇する、天災地変!「オファリング(Offering)」と「有償増資(Rights issue)」について見ていきます。

いずれも企業の株価に直接的に大きな衝撃を与えるイベントであるため、特に上限、下限がない米国株式投資をする際に必ず知っておくべき内容です!
会社が緊急にお金が必要になったとして、お金を作る方法は大きく2つあります。

(1) 新しい株式を発行して株主にお金をもらう方法-有償増資

有償増資にはいくつかの種類があります。
ㆍ新株予約権無償割当(Rights offering)
・直接株式発行(Direct offering)
・公募増資(Public offering)


(2)お金を借りて、後で元本と利子を返済する方法ー会社債発行(Corporate bond)

ㆍ無保証社債(Non-guaranteed bond)
ㆍ保証社債(Guaranteed bond)
ㆍ担保付社債(Mortgage bond)
ㆍ転換社債(Convertible bond, CB)
ㆍ新株引受権付社債(Bond with warrant, BW)
ㆍ交換社債(Exchangeable bond)



今回は、(1)新しい株式を追加で発行して株主からお金を受け取る方法(有償増資)のうち、まず、新株予約権無償割当(Rights offering)について説明します。直接株式公開(Direct offering)、公募(Public offering)については、後ほど説明します。

思い返してみるとアメリカ株式に挑戦して、突然のオファリングや有償増資に、してやられた人もいるでしょう。

そうです。オファリングや有償増資は、基本的には会社が何か新しいものに投資をしようとする時や、他社を買収しようとする時、あるいは会社の資本金の規模を増やしたいときに発表するものです。例えば、100万ドルをかけて新規事業を行って収益性を改善したいが、金融機関にお金を借りたくないのに、現金及び現金等価物が10万ドルしかない場合、残りの90万ドルは株主から資金を集めて用意しなければなりません。これを行うには、追加で株式を発行して株主に売却する必要があります。これは基本的に有償増資です。後でもう少し詳しく説明します。

※注意!!!新株予約権無償割当は、英語で「Rights offering」、直接株式公開も公募も英語では「Direct offering、Public offering」で、どちらもオファリングという単語が使われています。しかし、米国の株式投資家がよく言うオファリング(=直接株式公開、公募)と新株予約権無償割当は状況によって異なる概念であり、混乱してはいけません。

今回は有償増資が行われると何が起こるのかを見ていきます。


米国株投資家の方々にはおなじみのオファリングの話から始めましょう...

オファリングは天災地変であり、思っているより頻繁に遭遇することがあります。

我々がオファリングを天災地変と呼ぶ理由をお教えしましょう。まだ所有している株式でオファリングを経験していない方も、オファリングが行われるとどんなことが起きるかをチェックしておけば、いざというときに備えられます。

通常、オファリングをするときには、実施株価と実施金額が決められます。「1株あたりAドルで合計Bドルをオファリングする」といったような公示が出されます。


このような公示は上の写真のようにSEC公示の「8-K Current report」の項目において一番最初に発表されるので、そこで見ることができますし、あるいはYahoo!Financeのようなサイトでもオファリング公示が上がるやいなやすぐにお知らせされるので、そこでもご覧いただけます。
オファリングを行うと、株価が短期的にどのように動くのかを示す2つの例を見てみましょう。


(1) Tellurian Inc (TELL)


TELLは2021年8月4日に、1株3ドルで35,000,000株、合計1.05億ドル規模のPublic Offering(公募)を実施すると発表しました。オファリングの種類には、直接株式公開と公募がありますが、公募が何かを説明します。手始めに、TELLのチャートから何が起こるのかを見てみます...


写真の出典: Yahoo!ファイナンス

オファリングの発表の一日前に3.51ドルだったTELLの株価は発表当日、すぐに3ドルに暴落し、回復するまでに1ヶ月近くかかりました。当時、TELLの時価総額は16.5億ドルでしたが、オファリング規模は1.05億ドルだったので、おおよそ当時の6%の規模のオファリングを打ったわけです。

(2) PharmaCyte Biotech Inc (PMCB)


写真の出典: Yahoo!ファイナンス

上でTELLが行ったのは公募でしたが、PMCBは2021年8月19日にDirect Offering(直接株式公開)を行いました。 1株当たり5ドルで14,000,000株、合計7,000万ドル規模の直接株式公開を発表しましたが…株価はどうなったのでしょうか?


写真の出典: Yahoo!ファイナンス

前日にPMCBをターゲットにした勢力が株価を300%も上げて揺さぶっていたのですが、10ドルを突破して引けた翌日、1株あたり5ドルでの直接株式公開を発表したところ、株価はすぐに4ドルまで暴落しました。

もし10ドルで購入した人がいたら、たった一日で口座に-60%がついてしまったわけです。これがアメリカ株の危険性です。実際、上限・下限がない米国株で、株価を意図的に数十~数百%上げてから、翌日にオファリング公示を打って再び引き下げるというのは、かなり多くの悪徳業者がやっている手口で、この過程で違法要素があった場合、SEC(証券取引委員会)に捕まったら上場廃止の処罰が下されることもあります。

とにかくオファリングが天変地異と言われるのは、公示が出るとすぐに(5分以内)に株価がオファリング価格まで一気に暴落するので、対応も何もできないからです。
災害が起きてなす術がなくなるのと同じです。

時価総額に対してオファリング金額の規模が非常に小さい場合、そして会社が良い会社である場合、TELLの例で見たように株価は一時的に-17%程度急落するものの、すぐに回復してオファリング価格を上回ります。このような場合には、むしろオファリング公示のために出てきたパニック売りを拾い集めながら、「ああ、こんなチャンスが来るなんて!」と安心していることができます。

逆に、会社が、悪態をつきたくなるような悪いことをして(PMCBはFDAの承認を一発狙ったバイオテーマ株です)、時価総額に対して大きな金額のオファリングを叩き出してしまうと、PMCBで見たように一発で-60%まで行ってしまい...。非常に長期にわたって株価が回復しません。 今も3.06ドルですね。


今回はここまで。

有償増資が発表されると株価が急落すること、そして急落後に回復の可能性のある株とない株があることを学んでいただけたかと思います。

もし皆さんが当該銘柄を持っている状態でオファリング公示が出された場合、すべき選択は2つあります。どのような選択肢があるかは、オファリングと増資の両方について詳しく説明したあとに、最後にお伝えします。

ひとまず次回は、会社がお金を調達する方法、その中でも有償増資の一種、新株予約権無償割当について説明します。

今回もお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿までしばらくお待ちください。

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