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魔法使いのジュリア9 さらわれたジャルゴン

 竜のジャルゴンが、盗賊たちの一味にさらわれた! ジュリアとみんなでホウキに乗って、助けにいったときのお話です。
 いうまでもなく、ホウキで空を飛ぶのは、ジュリアにとって、まっ先にやってみたかったことの一つでした。《魔法全書》を手に入れる前でさえ、家の近くで、飛ぶ練習をしていたものです。
 木の上の動物たちもいっしょに、岬の森の上を飛ぶのはとても気もちのいいもの。森のみどりや沼の水の広がりを見渡しながら、岬の灯台のまわりをぐるっと回って帰ってくるのが、お決まりのコースです。
 でも、それ以上遠くまで行くことはめったにありません。だいたい、ホウキに乗って空を飛べるなんて、人に知られたらめんどうなことになるからです。
 ジャルゴンを助けにいったときが、ほぼ初めての長距離飛行となりました。しかも、たいそうな長距離です。

 その日、ジュリアが学校から帰ってくると、待ちかねたようにひょうが紫陽花の植え込みの陰から飛び出してきました。ふだんは木の上の隠れがにいるはずなのに、どうしたのでしょう。
「ジュリア、大変です! 竜のジャルゴンがさらわれてしまいました!」
「まあ! いったい何が起こったの?」
 ジュリアはおやつもそこそこに、急いで木の上へ出かけていって、動物たちに詳しい話を聞きました。
 竜のジャルゴンは、ジュリアの家の果樹園に迷い込んできて以来、岬の森の隠れが、ジュリアの魔法の木の上に、彼らと一緒に暮らしていました。時々、森の上をふうわり飛び回って散歩することもありました。
 この日も、そんなふうに、のんびり散歩していたんです。すると、遠くの方から、ヘリコプターの音が聞こえてきました。この辺はときどきヘリコプターが通るのでふしぎはないのですが、このところ、何だかずいぶん頻繁にそれがあったのです。ひょうは気になって、気をつけなさいよ、とジャルゴンに言って聞かせていました。見つからないように、音が聞こえたら姿をお隠しなさい。ここに竜が住んでいるなんて、人に知られたらめんどうなことになりますからね。
 けれどものんびりやのジャルゴンは、まあ大丈夫でしょ、と言って、いつもあんまり気にしていなかったのです。それでもひょうは少し心配で、この日も、枝の上からようすを見ていたんです。
 そしたら、ヘリコプターはどんどん近づいてきたかと思うと、飛んでるジャルゴンの真上までやってきました。さすがに気になったジャルゴンが木の間へ逃げ込もうとしたとき、突然上からしゅるしゅるっと何かが降りてきたかと思うとぱっと広がって、ジャルゴンの体を包み込みました。魚を捕るみたいな大きな網です。
 暴れるジャルゴンをよそに、網はきゅっとすぼまります。そして、大きな球体のような形になったジャルゴンをぶら下げて、ヘリコプターはあっというまに飛び去ってしまいました。ほとんど一瞬のできごとです。
「あっ!!」
 ひょうたちは、枝伝いに一生懸命、ヘリコプターが飛び去った方へ追いかけていきましたけど、すぐに岬の端まで来てしまい、それ以上は進めません。沼の上を彼方へ飛んでいく姿を、無念に見送るばかり。
「あいつら、ゴンザレス盗賊団の一味だよ」
と、近くの梢にとまっていたかささぎが言いました。
 かささぎによると、悪名高いゴンザレス盗賊団は、はるかかなたエルナーダ山の中腹、誰も近づけない岩山に掘り抜かれた岩窟を本拠地としているそうです。
 何でも彼らは、竜やグリフォンなど、珍しい生き物たちをさらっては、闇ルートで売りさばいているらしいのです。
「もう! だから用心なさいと言ったのに、あのばかな竜のやつ!」
 ひょうはやきもきしています。
 ジュリアは隠れがのひみつの棚から、小さな鏡のかけらを取り出しました。
 いつかガラス山の魔女のところへ行ったとき、おみやげにもらったのです。遠く離れた場所にいる人のようすが見られるというものです。
 ジュリアは心を集中させて、ジャルゴンのことを思い浮かべました。
「鏡よ鏡、竜のジャルゴンが今いる場所を映して、お願い!」
 すると、鏡はぼやんと白く煙ったかと思うと、ごつごつと険しく切りたった山々の景色が現れました。ゆっくりと近づいていくと、岩壁をくりぬいた小部屋がいくつも見えます。頑丈な鉄格子をはめられた中に閉じ込められた竜たちが吠え声を上げ、谷じゅうにその声が響きわたっています。
 さらに近づくと、岩窟のずっと奥のほう、おもても見えない薄暗い小部屋のなかに、ジャルゴンの姿が見えました! しょんぼりうなだれて、涙をこぼしています。それを見て、ジュリアは胸を締めつけられる思い。
「ジャルゴン! 聞こえる? 今助けにいくからね!」
と呼びかけますが、聞こえているようすはありません。
「まあ、とにかく行ってみましょう。エルナーダ山の場所は分かっているのだし、私たちにはジュリアの魔法の力がありますから、きっと何とかなりますよ」
 ひょうは念のため、前にキャンプに行ったとき、テントに使ったパッチワークの布を取り出してきました。レッサーパンダはバスケットに食料を詰め込み、子グマは磁石や双眼鏡を持ちました。
「さあ、出発よ!」
 ジュリアはホウキのうしろに動物たちを乗せ、大枝を力いっぱい蹴って、空へ飛び立ちます。はじめて沼の上を超えて、盗賊たちがねじろとする山岳地方を目指し、高く高く飛んでいきました。
 眼下にかなたまで広がる田園や、豆粒のような家々、蛇のようにうねる銀色の川すじ、はじめはすべてが目新しく、ジャルゴンの窮状も忘れて、わくわくが尽きません。
 けれど、二時間も飛びつづけると、さすがに疲れてきて、全身を切る風は冷たいし、ひと休みしたくなりました。そこでゆっくり高度を落としながら、どこかいい場所はないかと探します。
「食料ならありますよ」
とレッサーパンダが言いますが、
「暖かいところで休みたいのよ。温かい飲み物もほしいな、お店に入りたい」
とジュリア。
 けれど、もうずいぶん辺鄙な地方へ来ていて、なかなかお店らしきものもありません。やっと見つけたのは、山道ぞいの小さなドライブインのようなところでした。
 ジュリアたちはお店の裏手の目立たないところへ降り立つと、ホウキを植え込みの陰に立てかけて、建物の中に入りました。
 中に入ると、壁に貼られたこんな注意書きが目に留まります。

 盗賊に注意!! このあたりには、盗賊が出没します。
 ・戸締りはしっかりと
 ・ひとけのないところを、ひとりで歩かない
 ・夜は出歩かない
 ・万一盗賊に出くわしたら、争わず、金品を引き渡すこと。命には替えられません
 ・とくに、ゴンザレス盗賊団の本拠地とされるエルナーダ山付近にはぜったいに近づかないこと!
 情報をお持ちの方は警察まで!

「もう、遠くないわね」
 ジュリアが言うと、みんな、真剣な顔でうなずきます。
 カウンターでは、お菓子や軽食を売っていました。
「エンパナーダって何?」
 ジュリアは、おいしそうなものの並ぶケースを見ながら尋ねます。
「パイの包み焼き、この地方の名物ですよ」
 お店の人が教えてくれました。
 そこでジュリアはお財布と相談して、みんなの分のエンパナーダを買い、それから豆のスープもひとつ注文して、みんなで分け合って食べました。おかげで体があったまってきました。
 食べながら、作戦を考えました。
「どうやって助け出そうか?」
「どうせなら、ジャルゴンだけじゃなくて閉じこめられているものたち全部、逃がしてやりたいな」
「鉄格子をやすりで切る?」
「ずいぶん時間がかかりそうだな」
「トンネルを掘り抜くとか?」
「もっと時間がかかりそう・・・」
 決定打が見つからないまま、お店を出がけに、この地方一帯の地図が貼られているのを見つけました。
「エルナーダ山、ここだね! 我々が今いるのがこのあたり? よし、もう少し!」

 だんだん日が落ちてきます。
 ジュリアたちは再びホウキに乗り込むと、盗賊たちのねじろを目指します。やがてひときわ高くそびえる、槍の穂先のようなエルナーダ山の姿が見えてきます。
 ばら色と紫に染まる雲の向こうに、ゆっくりと日が沈んでいきました。
 目的地に近づくと、敵に見つからないよう山陰に隠れながら、ジュリアは慎重に降下していきました。そして、岩窟群のすぐ向かい、でも向こうからは見えない手頃な岩場を選んで着地し、そっとようすを伺います。竜たちの咆哮が聞こえてきます。
 そして、先に鏡で見たときには気づかなかったのですが、岩窟群のさらに上の方には天然の地形を生かした見張り台があって、屈強な兵士たちが配置されているのでした。そこには、あのヘリコプターも置かれています。
 魔法の鏡のかけらを取り出して、再びジャルゴンの姿を映し出してみると、さっきよりさらに暗くなった岩牢の中にうずくまっています。
「ジャルゴン! ジャルゴン!」
 けんめいに呼びかけると、こんどは聞こえたようす。はっとして周りをキョロキョロ、でもこちらの姿は見えません。
「私たち、すぐ近くまで来ているのよ。どんなようす? 大丈夫?」
「ああ、いやはやもう! 一体何が起きたのやら」
 ジャルゴンは、どっちに向かって話したらいいのか分からぬままに当惑しながら、声をひそめて答えました。
「こんなみじめな境遇にあったためしはありません。考えられます? 文字通り、蹴り入れられたんですよ、この中に。私が何をしたっていうんです?」
「まあ、気の毒に。すぐにも助けにいってあげたいんだけど、どうしたらいいかしら。その中はどうなっているの?」
「せまい廊下が各部屋をつないでいて、奥の方には大きな広間があります。そっちが、盗賊たちの拠点になっているらしい。奴らは危険です、全員銃で武装していますからね」
「困ったなあ・・・」
「あ、何か来るみたい」
 ふいにジャルゴンが口をつぐみました。足音が聞こえてきたと思うと、ガチャガチャと鍵が開いて、盗賊のひとりが入ってきました。食事と水を置きに来たようです。
「じゃあ、また連絡するね」

 ジュリアたちも岩場の上にテントを張って風を避け、コーヒーを沸かしてひと休み。
 と、そこへ突然、ザザザザッ! 翼をもつ、ふしぎな姿をした獣たちの群れが現れて、ジュリアたちを取り囲みました。すわ盗賊か!と思いきや・・・
「お前たちも盗賊の一味かっ!」
「あら、私たちは違うわ。いっしょに暮らしていた竜がさらわれてしまったので、助け出しにきたのよ。あなたたちこそだれ?」
「我々は、代々この山に暮らす魔獣だ。このところゴンザレスの一味がエルナーダ山を勝手にねじろにして、さらってきた竜どもを閉じこめているので、うるさくてかなわん。俺たちみんな寝不足だ」
「竜たちも、ここから逃げ出したいのよ。私たち、力を合わせて何とかできないかしら」
「あの竜ども、火を吹いて鉄格子を焼き切れないのか?」
「少なくとも、私たちのジャルゴンは火を吹けないわ。たぶん、ここに囚われているのはみんな、火を吹けないタイプの竜なんじゃないかしら。できるならとっくにやっているでしょうから」
「ふむ」
 魔獣の首領は、腕組みをして考え込みました。
「俺たちなら焼き切れるぞ」
 別の魔獣が、ゴーッと口から火を吹いてみせました。
「わーっ、すごい!」
 ジュリアは感嘆の声を上げます。
「あなたたち、あの鉄格子をぜんぶ焼き切ってくれないかしら」
「だが、あいつら、武装してるんだよ」
「そうそう、それが問題なんだ」
と、魔獣たち。
 ジュリアと魔獣たちは膝を突き合わせ、話しこみました。そしてその結果、みんなの持つありったけの技と力を合わせた、総合戦でいくことになりました。

 まずはジュリアと動物たちが、姿を消す魔法を使って現地の調査に向かいます。
 姿を消す魔法は一応勉強して呪文も覚えていますが、それまで試したことはありませんでした。姿を消したものの元に戻れなくなってしまったら、と考えると、ちょっと勇気が出なかったのです。
 けれど、今は事態が事態、そんなことを言っていられません。
 ジュリアとひょう、子グマ、レッサーパンダの4人は、輪になって手をつなぎます。

 アブラカダブラ、プイプイプイ
 空気みたいに、姿消せ!

 しっかり目を閉じて呪文を唱え、目を開けると・・・あらら! 動物たちのしっぽだけ、まだ見えてしまっています。レッサーパンダのしましまのしっぽが、当惑してひょこひょこと動いています。
「あちゃー、失敗した! もう一回!」
 ジュリアは必死に気もちを集中させました。

 アブラカダブラ、プイプイプイ
 しっぽもまとめて、姿消せ!

 こんどは、成功。みんなすっかり、姿が見えなくなりました。
 自分の体を見下ろしても、ただ地面があるばかりで、何も見えません。何ともいえず変な感じでしたが、いまはあれこれ言っているひまもありません。
「よしっ、じゃあ、行くよ!」
 4人を乗せたホウキは、すぐさま岩陰を飛び出して、竜たちの閉じこめられている岩窟群へ向かいます。
 体が小さい子グマとレッサーパンダは、鉄格子のあいだから何とか体をねじこんで、盗賊たちのねじろのようすを偵察に。姿が見えないとはいっても相手は武装したならず者たち、勇気のいる任務です。
 一方、ジュリアとひょうは、おもてに鉄格子が見えている限りの岩屋をひとつひとつ回って、驚かさないよう注意しながら格子越しに竜たちに話しかけます。自分たちが来た目的を説明し、全部で何頭くらいがどのような状況で閉じこめられているのか、情報収集につとめます。話しかけるのに、姿が見えない状態なのは都合悪いことでしたが、見張りの兵士に銃撃されないためにはやむを得ません。
 やがて分かったのは、竜たちはぜんぶで12頭、おもてから見える岩屋に8頭、ジャルゴンも含め、奥の窓のない岩屋に4頭いること。
 そして、ねじろには少なくとも数十人の盗賊が暮らしていること、今晩、ボス格のだれかの誕生日で、酒盛りするらしいことです。
「それはチャンスだわ!」
と、ジュリアは手を叩きます。
 自分たちが見聞きしてきたこと、それに子グマたちから得た情報をもとに、ジュリアは地面に石のかけらでねじろ内部の見取り図を描きました。それで全員が、中がどうなっているのか知ることができました。
 それから魔獣たちも交えてさらに話し合い、各自の任務も決めて、計画を練り上げました。

 そののち、ジュリアと動物たちは、再び飛び立って、ねじろへ。
 ジュリアとひょうは、再び竜たちに話してまわって、計画を説明し、協力してもらえるよう頼みます。
 一方、子グマとレッサーパンダは、盗賊たちの厨房に忍び込むと、そっと物陰に隠れます。そして、料理人が見ていないすきを狙って、テーブルへ運ばれるばかりになっていた料理に、たっぷりのコショウや激辛トウガラシをぶちこみます。
 さらには、ぶどう酒蔵へ忍び込み、ぶどう酒の樽に、洗濯場で見つけた洗剤をたっぷり注ぎ込みました。
 やがて月が昇るころ、いよいよ盗賊たちの宴が始まります。

 見張り台の上では、兵士たちが暇をもて余してぼやき顔。
「あーあ、ぱっとしねえなあ。俺たちも、酒盛りしたいよな」
「どうせ俺たちは下っ端だから、使われるばっかりよ」
 そこへ、堂々たる声が響きました。
「おい、見張りの者ども! 今日は特別に許可を与えるから、任務中に飲み食いしていいぞ。お前たちも、存分に楽しむがよい」
「あれ、お頭の声じゃないか?」
「姿が見えないけれど、どこにいるんだろう?」
 兵士たちは、あたりをキョロキョロ。見ると、見張り台の上に出されたテーブルの上に、ぶどう酒と豪勢な料理が用意されています。
 実はレッサーパンダが、せいいっぱいの声まねをしていたのです。
 そうとは知らず、大喜びの兵士たち。
「お頭じきじきのお許しだ!」
と、持ち場を離れ、テーブルに集まりました・・・。

 そのころ、ねじろの食堂の間では、盗賊の頭ゴンザレスがどなりつけています。
「おい、この肉は、辛すぎるぞ! どういう味つけをしているんだ」
 料理人たちは謝るものの、首を傾げます。そんなに辛くした覚えはありません。
「このぶどう酒は、味が変だぞ! ぶどう酒蔵の責任者は、何をやってるんだ」
 責任者は、そんなはずはないと言い張ります。ぶどう酒の品質には、いつだって誇りを持っているのです。
 盗賊たちは丈夫な胃腸をもっているので、めったに潰れることはありません。
 けれど、そのうち、さすがにひとりまたひとりと、青い顔をして席を外しはじめます。
「当局のスパイが毒を入れたんじゃないか?」
と、誰かが言い出し、みんな仲間のことを疑い出して、しまいに互いに殴り合いを始めました。
 お腹をこわして動けなくなったり、仲間に叩きのめされて気絶したりして、ほぼ全員がすっかり潰れたのは、真夜中をすぎてからのこと。

 さあ、ここからが、いよいよ魔獣たちの出番です。いっせいに岩場の陰から飛び立って、岩窟群のところへやってきます。
「さあさあ、みんな、奥へ下がって! やけどしないように!」
 中の竜たちに注意すると、ゴオーッ!! 火を吹いて、鉄格子を溶かしにかかります。まずはおもてから見える8つの岩屋を、そのあと、焼き切った鉄格子の間から侵入して、奥の4つの岩屋にかかります。次々と救出された竜たちは、喜びの声を上げました。
 頑丈な鉄格子でしたので、思いのほか難航しつつも、作業は休みなく続きます。ジャルゴンは、いちばん奥の岩屋です。
「奴らが復活するまでに、間に合うかしら」 
 ジュリアは、はたで見守りながら、はらはら。おもては、だんだんに明るんできます。
 魔獣たちがさいごのジャルゴンの岩屋にかかるころ、向こうのほうで転がっている兵士たちがうんうんいって、今にも意識を取り戻しそう。
「早く、早く!」
 ジュリアはぴょんぴょん飛び跳ねながら、せかします。
「うるさいな! 全力でやってるよ!」
 ゴゴゴゴゴーッ!! 魔獣たちはいっそうの気炎を上げて、突貫工事を進めます。
「よしっ! ちょっと狭いけど、ここから出られる?」
 魔獣の首領は、額の汗をぬぐいます。
 ジャルゴンはびくびくしながら、
「いやはや、ありがたい・・・あちっ!」
 焼き切ったばかりの鉄格子のすきまを抜けようとして、わき腹を少しやけどしてしまいました。それでも、とにかく脱出成功です。
 それと同時に、見張り台の上では、さいごのひと仕事。
「うんしょ、うんしょ・・・せえの、よいしょ!」
 ガラガラガラッ!
 子グマとレッサーパンダが、力を合わせて、ヘリコプターを谷底へ突き落としました!
 ミッション完遂、あとは逃げ切るだけ。
「よしっ、急げ!」
 みんなはおもてを目指して走り出しました。
 侵入口の岩屋のところから飛び立つと、まぶしい朝陽が岩肌に射し染めています。
 そこへ、ダダダダダ!!
 息を吹き返した盗賊の兵士たちがいっせいに射撃してきました!
「いやーっ!」
 ジュリアは悲鳴を上げます。
 と、向こうの岩山のほうで、何か強烈な光がひらめきます。何だろう?!
「うっ・・・!」
 盗賊たちは思わず銃を取り落とし、目を覆います。
 それは、魔獣の首領が夕べのうちに応援を頼んでいた、別の山の大猿たちでした。みんなして鏡を掲げていっせいに朝日の光をはね返し、盗賊たちの目をくらましたのです。
 そのすきに、ジュリアと動物たち、ジャルゴン、それに魔獣たちの一団は、からくも逃げおおせることができました。
「ふーっ!」
「助かったー!!」

 ここまで来ればもう大丈夫、というあたりまで来ると、みんなはようやくスピードをゆるめ、テラスのようになった広い岩場を見つけて降り立ちました。
「いやー、なかなかの大仕事だったぜ!」
「火を吹きすぎて、喉がガラガラだ!」
「俺もだよ」
と、口々に、魔獣たち。
「みんな、ほんとにありがとう」
 ジュリアたちは、お礼を言います。
「これに懲りて、奴らが二度と竜の密売なんかに手を染めないことを祈るわ」
 レッサーパンダたちはバスケットを広げ、作戦成功を祝しての朝ごはん。
 近くの滝から水を汲んできて、コーヒーを沸かすと、いい香りがあたりに広がります。
「みんなも飲む?」
と聞くと、魔獣たちもコーヒーを飲みたがったので、たくさん沸かして、レッサーパンダが持ってきた5つのマグカップに注いで、順ぐりにまわしました。
「ほらね、」
と、レッサーパンダは、得意顔。
「君たち、マグカップを5つも持っていくなんて荷物多すぎだって言っていたけど、これでも足りないくらいじゃありませんか」
 それから、岩場の上にパッチワークの布を広げ、バスケットの食糧を並べました。チキンサンドと、レーズンビスケットがひと箱、それにくるみのタルトです。みんなは旺盛に食べ、きれいになくなりましたので、荷物はすっかり軽くなりました。
「ああ、記念すべき長距離飛行だったわ!」
と、ジュリアは大満足。
「それに、姿を消す魔法をマスターできたのも、大きな収穫ね。のるかそるかの大挑戦だったけど、よかった!」
「まだ、帰りの行程がありますよ」
と、ひょう。
「ここでゆっくりしていて大丈夫なんですか、ジュリア?」
「今日は学校が休みだから、大丈夫。パパたち、まだ私が寝てると思ってるわ。10時くらいまでに階下へ降りていけば、変に思わないはずよ」

 やがてジュリアたちはバスケットを片づけ、魔獣たちに別れを告げて、帰路につきました。
 いっぱいのお日さまで、ぽかぽかいい天気。青空の下、風を切って飛ぶのには最高の朝です。みんなくたくたでしたが、心充たされていました。
 ただ、ジャルゴンだけは恐怖が冷めやらず、いつまた盗賊がやって来るかと、折に触れキョロキョロ。
「やれやれ、こんどヘリコプターを見たら、一目散に逃げだしますよ。もうこんなことは、こんりんざいごめんです!」
「そうそう、それくらいがちょうどいい」
 そう言って、ひょうは笑いました。
「あなたはちょっと、警戒心なさすぎだったんですよ」

 

 
 

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