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魔法使いのジュリア4 島へキャンプに

 7歳の少女ジュリアは、魔法を使える女の子。
 大きな木の上に秘密の隠れががあって、棚の中には魔法全書や魔法の薬が並んでいます。
 隠れがを守るのはひょう、子グマ、レッサーパンダの心づよい三人組。ジュリアがやってきて口笛を吹くと、縄ばしごを下ろして迎えてくれます。
 ここには竜のジャルゴンもいるし、ほかにも色んな鳥や動物たちが、入れ代わり立ち代わり遊びにやってきます。
 それだけでなく、ときにはみんなでどこかへ出かけたこともありました。今回は、そんなときのお話です。

 あるとき、ジュリアはおうちにあった色んな色や柄の端切れを集めて、派手なパッチワークの布をつくりました。一週間ほどかかって、一枚一枚、縫い合わせたのです。
「よし、素敵にできた! 何に使おうかな」
 考えたすえ、
「そうだ、テントにしよう!」
 そこで、友だちのマーシャとその妹が遊びに来たとき、ジュリアはこの布を持ち出し、家のとなりの原っぱに支柱を立てて、テントを張りました。三人で楽しくキャンプ遊びをしていると、通りがかった車がわざわざスピードを落として、テントをじろじろ眺めていきます。布の柄があんまり派手なので、気になったみたいです。
「なに、あの車!」
 マーシャがころころ笑いました。
「わざわざスピード落としてまで、見なくても!」
「よほど気になったんだね!」
 みんな、おかしくてころころ笑いました。
 お昼になると、マーシャと妹は家でお昼を食べるために帰っていきました。
 ジュリアはテントを片づけながら、考えました。
「でもやっぱり、じろじろ見られるのはちょっといやだな。そもそも、家の隣にテントを張るって違うのかも。キャンプって、遠くへ行ってやるものよね?」
 そこで考えたすえ、
「そうだ、沼の向こうの無人島へ行こう! あそこなら、誰にも邪魔されないわ」
 そこでさっそく、隠れがの木の上の動物たちや、竜のジャルゴンにも声をかけて、磁石とテントと毛布と、ランプやお鍋や食材などの荷物を、みんなで船着き場まで運びました。
「でも、船はどうするんです?」と、ひょうが尋ねました。
「まあ、見ててごらんなさい」
 ジュリアはポケットから水色のひもを取り出すと、自分のぐるり、岸辺の草の上に伸ばしはじめました。みんなの乗る場所と、荷物を置くスペースも考えて、船の形に置いていったのです。
「こんなものかな?」
 舳先の形なんかを少し直したあと、ひもでつくった船の形の中にしゃがみこむと、目を閉じて心を集中させました。

アブラカダブラ
ヘイ・ヨー・ヨー!
大海原へ漕ぎいだせ!

 呪文を唱えるまに、靴の下の地面が盛り上がって、草の感触から、だんだんに固い木の板の感触に変わったのが分かりました。
 目を開けると、ジュリアは綺麗な水色の、ちょうどいい大きさの船に乗っています。動物たちは、いっせいに拍手しました。
 さっそく船を水に浮かべ、荷物を積み込むと、一行は岬の船着き場から出発しました。ジャルゴンは翼を広げ、のんびり浮かんでついていきました。
 それはよく晴れた午後のことで、水のおもては青く輝いています。
 無人島まではけっこうな距離があって、岸は見る間にぐんぐんと遠くなりました。
 やがて、船首で双眼鏡をのぞいていた子グマが「前方に島発見!」と叫びました。みんなの目にも、やがて島のようすがはっきり見えてきました。柳の木に覆われた小さな島です。ちょうど芽吹いたころで、島全体が綺麗な緑色をしています。
 船を操縦していたひょうは、少し減速して、船をつける場所を探しました。
 ところがそのとき、
「あれ、誰かいるよ!」
 レッサーパンダが叫びました。
「無人島じゃなかったのかな?」
 水から顔を出した岩の上に、誰かがパイプをふかしながら、のんびり腰掛けています。近づいてみると、緑色の髪をした河童でした。
「こんにちは!」
 船の上から、ジュリアが声を掛けました。
「こちらは、あなたの島ですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。私の家が、この下の沼底にあるんでね。いまはちょっと一服していただけさ」
と、河童は答えました。
「私たち、この島でひと晩キャンプしようと思って来たんですけど、お邪魔でしょうか?」
「うん、まあ別にいいよ」
と、河童は答えました。
「ただ、ごみを散らかさないでくれれば」
「ありがとう! ごみはちゃんと持ち帰ります」
 そこで一行はありがたく上陸すると、さっそく柳の木のあいだにテントを張りました。あの派手なパッチワークのテントです。それからみんなで協力して火を起こし、鍋に水を汲むと、夕食の支度を始めました。
「ぼくたちこれからカレーをつくろうと思うんですけど、よかったらいっしょに食べませんか」
と、ひょうが聞きました。
 けれど、河童は断りました。
「夕食はいつもうちで、家族と食べるのでね」

 ゆっくりと、夕暮れが迫ってきました。ランプをともすと、一段と暗くなったような気がします。湖面に広がる夕暮れを眺めながらみんなで食べるカレーは最高です。
 ごはんのあとは、キャンプファイヤーを囲んで歌を歌ったり、踊ったり。
 テントに引き上げたあとも、寝転んで星空を眺めながら、みんなで夜が更けるまでお喋りしました。
「これぞキャンプってものよ!」
と、ジュリアは大満足。満ち足りた思いで眠りにつきました。

 いっぽう、島の底にある河童の家では、今日も家族が食卓を囲みます。
 沼ホタルの光が食卓を照らしています。
 今日のメニューは川魚と水草のスープ、沼貝のフライ、沼クラゲのサザンアイランドふうです。
「なんだか上が騒がしいわね」
と、河童の奥さんが不安そうに言います。
「うん、ちょっと島にお客があるらしくてね」
 河童はあいまいに答えました。
「お客ってだれよ?」
「そうだね、動物たちと、竜が一匹と…それから小さな人間の女の子だ」
 河童はちょっとばかり言いにくそう。
「あらやだ、人間ですって! なんであなた、さっさと追い払わなかったの?」
「人間ってなに?」
 河童の男の子が、スープを口に運びながら尋ねます。
「ああ、人間ていうのはまあ、妖怪の一種だよ」
と、河童は説明しました。
「しかもとても始末悪いのよ! ごみを散らかしたり、釣り糸を捨てていったりするの」
 奥さんが声を上げます。
「エドガーなんか、いちど人間の捨てていった釣り糸に絡まって、あやうく足を切断するところだったんだから!」
 エドガーというのは、知り合いの沼ワニです。  
「うん、そういう連中もいるけどな。今日の子はまあ、そんなふうには見えなかったから」
「どうだか!」
 奥さんは鼻を鳴らしました。

「マイマイマイマイ、マイムレッセッセ!…」
 その晩遅くまで、沼底の家にはジュリアたちの歌ったり踊ったりするのが聞こえてきました。
「何なの! いいかげんにしてほしいわ」
 奥さんは寝返りを打って、毛布を頭の上まで引っぱり上げます。
「眠れやしない!」
「たしかに、けっこううるさいな」
 河童は認めました。「明日、注意しておくよ」

 翌朝、ひょうがやかんに水を汲みに行くと、また河童に会いました。
「おはようございます。夕べはご迷惑ではありませんでしたか」
「うん、正直、やっぱりうるさかった」
 河童は苦笑い。
「けっこう響くもんだな」
「これは失礼いたしました。ぼくたち、朝ごはん食べたらすぐに帰りますので」
 ひょうが謝りますと、河童は言いました。
「まあ、年に一度くらいのことなら構わないさ。けさは朝から出掛けるから、みんな、島で遊んでていいよ。ただ、晩までには帰ってくれれば」
「必ず、早めに帰ります」
 ひょうは約束しました。

 その日一日、みんなは島を探検したり、追いかけっこやかくれんぼをして楽しく遊びました。
 夕方になって、テントをたたみ、キャンプのあとを片づけて、荷物を船に積み込もうとしたとき、困った事態に気がつきました。
 船の底に穴があいて、浸水していたのです。
 みんなで船の周りに集まってわいわいやっているうちに、河童が帰ってきてしまいました。
「あれ、まだいたの」
「すみません…」
 河童は船のようすを見ると、
「これは修理に出さなくてはいけないね。ともかく、今日のところは帰りなさい」
と言って、頭の上のお皿をぱかっと開けると、中から電話を取り出しました。
「もしもし、ワニ君? 今からちょっと手を貸してもらえる? …なに、まだ仕事中? そうかい、そんなら仕方ない」
 電話を切ると、
「だめだった」と、首を振り振り。
「この沼って、ワニがいたの?!」
 ジュリアはびっくり。
「なんの、沼ワニもいるし、沼ヘビもいるし、沼クラゲだっているよ」
 河童は、また別の番号にかけました。
「もしもし、カバ君? 今忙しい? 実はこれこれの事情で子供たちが困っていてね…」
 幸い、カバ氏が来てくれることになりました。
「今回はちょっと、私の魔法の力が足りなかったみたい」
 ジュリアはきまり悪そうに言って、呪文を唱えます。

アブラカダブラ、
ヘイ・ヨー・ヨー
あっというまに もとのひも!

 すると、船はみるまにしゅるしゅるとしぼんでもとの水色のひもに戻りましたので、ジュリアは拾い上げると、ポケットに収めました。
 やがてやって来たのは綺麗なトルコ石色のカバで、体には蓮のもようがついています。
「あの、もしかしてあなた、ウィリアムっていうんじゃない?」
 思わずジュリアが尋ねると、カバ氏は答えました。
「いや、ウィリアムはぼくの兄でね。ぼくはヘンリーという名前さ」
 カバ氏はジュリアと動物たち、それに荷物を背に載せて、岸まで送ってくれることになりました。
 竜のジャルゴンは、来たときと同じように翼を広げます。
「さよなら河童のおじさん、お邪魔しました。いろいろありがとう」
 みんなは再び訪れた夕暮れのなか、ばら色に広がる水のおもてを渡って家路についたのでした。

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