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「岡康道さんという人間に出会えてよかった」

昨年 7 月、63 歳の若さで急逝したクリイティブディレクター 岡康道さんについて書きたいと思います。

今から21年前の2000年だったと思います。社会人4年目、27歳の私は表参道の新しいランドマークとなったグッチ青山で働いていました。当時は今ほど日本にラグジュアリーブランドが浸透していない時代で、有名百貨店には入っていたものの大型路面店は、ありませんでした。表参道にはLVもプラダもラルフローレンも表参道ヒルズもありませんでした。あったのは森英恵、同潤会アパート、マクドナルドといった感じでした。

その時のグッチはトムフォードが発表するコレクションが世界中でブレイクしていて、アジアの旗艦店だったグッチ青山は、ハリウッドのセレブリティや日本の超一流といわれる経営者、芸能人、スポーツ選手、クリエーターの方々、そして、それに憧れる人達が来店する激熱なお店でした。そんなグッチ青山の2階で、私は岡さんと初めてお会いしたと思います。岡さんは、おそらく43歳、確かタグボートを設立して間もない時期だったと思います。その時に私も、有名な㋹点の名刺をもらいました。

広告業界では岡康道さんを知らない方はいないと思いますが、ドラマのモデルにもなったような、何もかもが「かっこいい」方です。主人公の堤真一さんが岡さんを演じています。

岡 康道さんは東京都立小石川高校から早稲田大学へ進学、電通に営業として入社後、クリエーティブ局へ転籍。CMプランナー、クリエーティブディレクターとして、JR東日本の「その先の日本へ。」「東北大陸から。」、サントリーでは「モルツ球団」など、数々の傑作CMを世に送り出します。その後電通から独立し、川口清勝、多田琢、麻生哲朗各氏とともに、広告制作のクリエーティブエージェンシー「TUGBOAT(タグボート)」を設立。広告提供枠の料金ではなく、広告制作物自体で対価を得るビジネスを日本で初めて立ち上げました。

岡さんは、定期的に来店して頂き、私がフィッティングしたビジネスウェアを勝負服に選んで頂きました。私たちの仕事仲間は本気で世界一の おもてなし をしたいと考える最高のチームだったので、岡さんも、とても気に入っている様子で、お買い物後の帰り際によく笑顔で「あー楽しかった」っておっしゃっていました。皆が岡さんを好きだったこともあり、いつも場が盛り上がりました。

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私は、お客様とプライベートはご一緒しない方針でしたが、岡さんとは、よくゴルフに行きましたし、私が結婚した時には祝って頂きました。同じ佐賀県出身ということもあり可愛がってもらいました。私がグッチを辞めて別のブランドに転職後も、私の勤めていた店舗に顔を出して頂きました。でも私がキャリアアップするたびに「出世して偉くなったんだね。おめでとう」と、おっしゃる表情が少し残念そうでした。岡さんに確認できなかったけど、きっと「偉くなって部下をマネジメントするよりも顧客への価値を追求する方が面白いよ」というメッセージだったんと思います。今では岡さんが、残念そうな表情だった理由がわかります。

私はいつからか、いつか岡さんのような大人になりたいと思っていました。でもいつもお会いすると、仕事のスケール、ものの考え方、人格、体格、人脈、オーラ、ゴルフ、話の面白さ、など全てにおいて、埋まりそうにない圧倒的な差があった為か、いつからか、私の中で「目標」というか「師」という存在になっていました。

私も40代の半ばになり独立して、会社をつくる決断をした時も、岡さんにメールで報告しました。岡さんは喜んでくれて、今度、食事に行こうと誘ってくれました。でも、残念ながら、そのやり取りが最後になってしまいました。岡さんのクリエイティブを通して多くの作品が、今も残っているように私の中にも、岡さんと存在が残っています。私の残りの人生で少しでも近づけるように頑張ります。

さようなら。これまでありがとうございました。どうか安らかにお眠りください。

「Oka Yasumichi 1956-2020 His walks/words/works」が、10月20日から東京・表参道スパイラルガーデンとスパイラルホールで開催中です。​


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