子どもと・の思い出を演劇にする ーおもちゃのマーケット&シアター
子どもの身体の半分は、ファンタジーでできている。
4歳と6歳の子育てのなかで、彼らは想像を巡らせてわからないものと対峙するリアリティをもっていると感じます。そんなファンタジーとリアリティをまぜこぜにする企画として、11月17日(日)に松戸・西口公園で「おもちゃのマーケット&シアター」を開催します。アートエデュケーターとして、久しぶりに私自身で立ち上げた企画になります。今日は、この企画を考えた舞台裏を紹介させてください。
おもちゃのマーケット&シアターとは?
「おもちゃのマーケット&シアター」は、おもちゃの交換や、思い出にまつわる即興劇が楽しめるイベントです。ここでは、飲食コーナーやコーヒー、造形遊びのコーナーもあり、家族みんなが一緒に楽しめる場を提供します。
シアターでは、劇団「IMPRO Machine」が参加者のみなさんから集めたおもちゃの思い出をもとに、即興演劇をその場で作り上げ、知っているはずのおもちゃの、知らなかった物語にみなで出会っていきます。
アートエデュケーターとして、親として
私がこのイベントを立ち上げた背景には、アートと教育の現場で培ってきた経験があります。20歳のころからアートエデュケーターとして活動し、様々なアーティストと共にワークショップの場をつくってきました。
しかし、30代になり、アート教育の現場から離れて組織づくりにシフトすることを決めました。かたわらで個人で小さな子ども向け企画をサポートしながらも、直接子どもたちに関わる機会が減っていく実感がありました。
そんななかで、子どもが生まれ、松戸での生活が始まるとともに、子どもたちが成長するにつれて、「これで良いのだろうか」という違和感がつもっていきました。
休日は子どもを連れて出掛けて、商業施設で無駄におもちゃを買ってしまう。子どもが満足できたとしても私自身は疲弊をしてしまう。美術館や映画館に行って作品を見て考えたり、誰かと一緒に創作的な活動をしたりするのが私にとってのケアになることはわかっていて、アート系のワークショップに参加して子どもが楽しそうにしてくれると私も嬉しい気持ちになります。
しかし、子どもたちの豊かな想像の世界に触れるたび、私自身がワークショップデザインの技術をもっていながらそれを活かして場を作れていないことに葛藤していました。
おもちゃの思い出を集めるアイデア
そんなおりに、松戸市の文化拠点を検討する会議の場に参加しました。そのなかで「地域の記憶が集まり、子どもたちが自由に遊べる場所とは?」という問いを考えつきました。そこに、「おもちゃ」という切り口を取り入れることにしました。
おもちゃにはさまざまな思い出が染み込んでいます。子どもがそれで遊んだ思い出、親にとってはその時期の子育ての喜びと苦悩の思い出、もしくはおもちゃ自身の思い出もあるかもしれません。
それらの思い出を展示したり、その思い出をリソースにして新しい演劇や絵本を作ったりするチルドレンズミュージアムを作りたいと思い至りました。
市民対話で生まれた一つのアイデアにすぎなかったのですが、これを実現してみたいという衝動が湧き立ち、松戸でまちづくりを推進している「まちづクリエイティブ」の寺井さんに相談したところ、実証実験的なイベントの共同主催を快く引き受けてくれました。
さらには、この企画のアイデアを会社の同僚の夏川真里奈さんに相談したところ、即興劇の遊び方を教えてもらいました。そこから、劇団IMPRO Machineの堀光希さんに協力をあおぎ、即興演劇の専門家である堀さんと、松戸の町中華で瓶ビールを飲みながら打ち合わせをするなかで、「おもちゃの思い出を組み合わせて、ありえたかもしれない話を作ろう」というアイデアへと発展していきました。
知ってるおもちゃの、知らない物語
イベント当日、シアターでは、参加者から寄せられたおもちゃの思い出が組み合わされ、即興の物語が繰り広げられます。
たとえば、古くなってしまった人形や遊ばなくなった車、使い古した縄跳びが「もしもみんなが学校や幼稚園に行っている間に、こっそり集まって、今後の人生を相談しているとしたら?」というテーマで物語を作るのです。こうして親しんできたおもちゃが、自分たちの知らない物語を演じ始めると、奇妙な夢を見ているような感覚が生まれます。
子どもたちにとって、想像の世界はリアリティをもっています。サンタクロースが現実の存在として生きていたり、4歳の息子が宇宙の図鑑を見ながら「ウルトラマンはどこに住んでいるんだろう」と考えたりと、その想像力の真摯さにいつも驚いています。そんな彼らのファンタジーを少しだけずらし、現実と物語の間にある新しい視点を立ち上げることができるのではないかと感じはじめています。
おもちゃにまつわる悲喜交々の物語を
おもちゃは、子どもにとっては楽しいもの、嬉しいものです。私自身も子どもの頃はその存在に心が躍っていました。しかし、大人になったいまは、買うたびに複雑な感情を抱く存在になりました。子どもは嬉しそうだけど、また家におもちゃが増えてしまうなぁとか、部屋を片付けるのが大変になるなぁとか、そもそもやっぱり値段が高いなぁとか。
「おもちゃのマーケット&シアター」では、こうしたおもちゃに染み込んだ大人と子どもの悲喜交々の思い出を素材に、ありえたかもしれない物語を創作します。親子で「おもちゃ」という共通のテーマを通じて、一緒に笑い、一緒に驚き、同じ空間で物語に浸る体験を共有していただけるはずです。子どもたちだけでなく、大人にとっても新しい発見があるかもしれません。
アートエデュケーターとして、地域の住民として、また1人の親として、複数のアイデンティティをごちゃまぜにした私が「こんな場が欲しい」と思っているものを準備しています。ぜひ、不要になったおもちゃとその思い出話をもって、遊びにいらしてください。
予約は不要ですが、ご来場いただくかたの様子をしりたいので、行ってみようかなと思っていただけた方はコメントか、Xでポストいただけたらうれしいです。お待ちしております。