なんのためにワークショップをつくるのか
最近「臼井くんはなんのためにワークショップ・デザインをやってるの?」と聞かれたことがあります。ふむ、たしかに。そもそもワークショップって何の役に立つんだろう。
ワークショップとは「何かをつくることで学ぶ体験学習」のことです。ワークショップで人は何を学ぶのか。ぼくは「専門家がもつ技術」だと思っています。
ぼくがなんのためにワークショップ・デザインをしているかというと、専門家の技術を翻訳するためなのだと思います。でも、それは、なぜか。
寿司職人の技術を素人に教えると?
たとえば寿司職人になるつもりがない人に寿司の握り方を教えて、なんの意味があるのでしょうか。職人にとっては骨折り損のくたびれもうけにしか見えません。
しかし、寿司職人がもつさまざまな技術を素人に伝えることは、寿司の理解者を増やすことになります。寿司に詳しいファンが増えると、いい加減に寿司を作っている店は淘汰され、よく作っている人が評価されるようになる。
そして、文化が育つ。寿司の上手な握り方を覚えたら、家庭料理やホームパーティーのメニューとして手巻き寿司だけでなく握り寿司も試してしまうかもしれません。
さらには、リスペクトが生まれる。技術を学ぶことで師匠の凄さもよくわかります。部分的には真似できるけど、簡単には到達できない。寿司を家で作る楽しみと同時に、家では作れないクオリティのものを食べに行く楽しみも生まれます。
家庭や友人付き合いも豊かになり、寿司の市場も豊かになる。専門家の技術の翻訳によって、よいことがたくさん起こります。
ワークショップ・デザインとは技術の翻訳である
そうなんです、専門家の技術の翻訳することで、その専門性へのリスペクトが高まり、文化が育ち、市場が広がるわけなのです。
そんなときに役立つのが、ワークショップ・デザインです。寿司職人の技術の全てを伝えるわけではありません。たとえばある1つのポイントに絞ります。たとえば「握り寿司用の魚の切り方」だけ。
他にもたくさん要素があるのは承知のうえで、あえて一点に絞る。その一点を面白く体験できるように、時間と道具と言葉のながれをつくります。
単発のイベントの場合は「切り方」にフォーカスするけれど、米の炊き方、酢飯の作り方、魚の選び方など、別の点にフォーカスし、シリーズ化することもできます。
さらに、技術だけではなく、背景にある思想にも触れられるように演出することもできます。事前に職人さんにインタビューをし、思想を聞き、その思想が語られる場面を、ワークショップの進行台本におりまぜていくのです。
こうすることで、魚の切り方をというシンプルな行為を通して、寿司を楽しむノウハウと職人の思想を学ぶことができる場が生み出せます。
まとめ
ワークショップは、ある専門性の、ファンをつくり、市場をつくり、文化を育てる。ぼくはいろんな専門家の方とコラボレーションして文化づくりに少しでも貢献できることが嬉しいですし、生きがいです。
そんなぼくもまた1人の専門家として、その専門性を翻訳しなければならない状況に、そろそろなってきているなぁと感じます。それは「ワークショップデザイン」という専門性の翻訳です。
専門家の技術を翻訳する技術を翻訳する、というわけのわからんことにならないように、どう伝えるのがよいか。
それはまた次回に。
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