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土壌微生物、バイオアート、親子のワークインプログレス
先月、知人とZOOMでお茶をしながら近況を話しているとき、昆虫食のプロジェクトに関わっている話をおしえてもらいました。
地球規模で人口が増え続けているなか、2030年にタンパク源が足りなくなると言われています。そこで注目されているのが、低コストで繁殖させられる昆虫をタンパク源とする「昆虫食」というわけです。プロテインとして使われていたり、あるいはYouTuber等によるある種のサブカルチャーとして注目されていたりする昆虫食ですが、環境問題との関係性も深くあると言いいます。
こうした話から、すっかり興味が湧いてしまい、「なぜタンパク源が足りなくなるのか。畜産はどのような影響をもたらしているのか」などといった問いからあれこれとリサーチを続けています。
畜産による地球へのダメージを指摘したドキュメンタリー映画『COWSPIRACY』では、畜産にかかる大量の水資源、穀類の栽培のために使われる土壌、そして排泄物による土壌や海洋汚染の問題が指摘されていました。
https://www.netflix.com/title/80033772
その知人に、もうひとつ「マイクロバイオーム」という考え方についても教えてもらいました。人の腸のなかには100兆の微生物が住んでいます。一方で、ヒトの遺伝子の数は2万個ほどであるそうです。人の体には、遺伝子よりも何百倍も多い量の微生物が暮らしていると言います。
治療のために使われる抗生物質はこれらの微生物を殺してしまう。この微生物といかに共生するかが、今後の健康を左右するそうです。
そうしたなかで、健康な人の微生物コロニーをとりいれるために注目されているのが「便移植」という方法です。健康な人の便から微生物を移し替えるというものです。これによって過敏性腸症候群が劇的に改善した事例が報告されています。
昆虫を食べたり、便を移植したり、まじかよと思うことばかりだが、一方でなんだか面白いなぁと思ってしまいます。
昆虫食はひとまずANTCICADAさんのコオロギの佃煮をトライしてみるとして、便移植はちょっと気軽にはできなさそうです。
微生物を取り入れるという意味では、家庭で麹をつかった発酵食品をつくっていますが、堆肥をつくることならできるのではないか?と考えました。
そこで、堆肥や土についてもう少し調べてみようと思い、WiredのFOOD特集で紹介されていた『Kiss The Ground』を観てみました。
https://www.netflix.com/title/81321999
土壌微生物を豊かに繁殖させるためには、土を耕さず、草地の中にタネを植える「不耕起栽培」という方法によって、地表を乾かさず、それによって温室効果ガスの排出量を減らせるそうです。
それだけでなく、土壌微生物がいきいきと暮らす土で作られた作物を食べることは、ぼくたちの体内で暮らす微生物を豊かにすることでもあるといえます。食べるという概念も、自分のために栄養を摂取するというよりは、微生物を循環させるために食べる、という考え方に変わってきそうです。
この映画のなかには、林業をしながら樹木の間で食物を育てている人が登場します。アボカド、バナナ、いちじく、コーヒーなどを育てているそうです。このシーンを見て、あるイメージを想起しました。
もしかして、数十年後には、乾燥し、衰退する土地の肥沃化を、100億人の人々が手分けして行うようになるんじゃないか。一人一人が密集して暮らすのを避け、個人・家族・コミュニティといった単位で木や草を育て、そのなかで不耕起栽培や、森の中で作物を育てるような活動をすることが義務付けられた世界になるのではないか。これがユートピアかディストピアかはさておき、そうすることで地球寒冷化の道を歩めるのでは?
そんな妄想があたまのなかに浮かんできました。
ちょうどこんな妄想をぼんやり考えていた時期に、GW中に長谷川愛さんの個展を見に行きました。
長谷川さんは、同性カップルの遺伝情報から予測された子どもをCGによって描き出した《(Im)possibele Baby (不)可能な子供:朝子とモリガの場合》(2015)をはじめとする「スペキュラティブ・デザイン」という分野の代表的なクリエイターです。綿密なリサーチにもとづきながら、さまざまな思考・実装のプロトタイプが提示された展覧会は非常に魅力的でした。
また、本展に向けて読んだ著書も、美術史とSFプロトタイピングやデザインフィクションの歴史から現在がひもとかれていて、良書でした。
展覧会に触発されたのか、スペキュラティブ・デザインやバイオアートといった文脈のなかで、マイクロバイオームや土壌微生物のことをあつかうアーティストがいないかを今、調べています。どうしても、アートを介してこうした関心に近づきたくなってしまいます。
調べるために読んでいる本がこちらの本です。
この本の中で紹介されているエドガー・リッセルという人は、「MY SELF」という作品のなかで、自分の手に住んでいる微生物を可視化することで絵画作品をつくっています。
そこでした妄想のもう一つが、バイオアート作品のワークインプログレスを、子どもたちと一緒にできたらおもしろそうだなぁということでした。
「ワークインプログレス」とは、作品の制作過程のことです。制作過程そのものが作品として提示されることもあります。バイオアート作品を試行錯誤する過程を、子どもたちと共有しながら進めていくプロジェクトは、なんだかとてもよさそうだなと思っています。
なぜなら、子どもの頃、ぼくも植物が芽吹くプロセスを見守るのが大好きでしたし、顕微鏡で小さい生き物を見るとワクワクしました。そういう方は多いのではないでしょうか。そう考えると、バイオアーティストが楽しんでいるベクトルと、子どもの生物への興味のベクトルは寄り添っていると考えられます。
でも今はオンライン環境だしなぁと考えていたとき、ふと、編集者の林央子さんが実践されていた「Hyacinth Revolution」を思い出しました。
「ヒヤシンス革命」は、央子さんが個人で作っている雑誌「Here and There」で展開されたプロジェクトで、参加作家42名がヒヤシンスを育てるなかで生み出したインスピレーションを表現し、それがまとめられたZINEになっています。
金氏徹平、高山明、PUGMENT、スーザンチャンチオロといった作家たちのつづるヒヤシンスとの物語は、どれも私たちの生活を泡立たせる素敵なものたちでした。
ヒヤシンスじゃなくて、微生物で同じことができないだろうか。わからないけど、カビを育てるとか。あるいは都市空間に勝手に植物を植えていくゲリラガーデニングを同時に行う、というような活動はできないだろうか。しかも可能であれば親子や保育園のような場所でやってもらうということはできないだろうか。親子による悪戯として。
そんなことを、今考えています。
後半では、臼井の日記を公開します。
このマガジンは、アートエデュケーターの臼井隆志が、様々なアートワークショップを思索・試作していくマガジンです。ご購読いただいた方には、日々のリサーチ日誌を週次で公開すると共に、対話型鑑賞などの実験的なワークショップおよび月に1回開催される「アーティストトレース」のイベントにご招待させていただきます。
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5/1(土) アンチョビとコンポスト
朝遅く起きる。どうせ出かけないGWなので、近所にあるオリーブオイル専門店で、ちょっといい値段のするアンチョビと白バルサミコ酢を買う。
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