赤ちゃんの全身運動はどのように変わっていくのか
こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。普段は子ども向けワークショップの開発を生業にしています。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに主に赤ちゃんの認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。
前回の記事「探索のためには愛がいる」では、赤ちゃんとお母さんの愛着形成がうまくいくと、赤ちゃんはうまく自立の道を歩むことができるが、親との関係が全てではなく、他者との出会いが人生を変えていくのです!という話を書きました。
今回は、赤ちゃんがお腹の中にいる頃からハイハイをするまでの全身運動の発達について書きます。赤ちゃんは「首がすわる」「寝返りをする」「ずり這いをする」「ハイハイをする」「つかまり立ちをする」といった少しずつ成長の指標をクリアしていきますが、実は各フェーズの移行期にしている「準備運動」が重要なのだという話です。
では、赤ちゃんは身体の動きをどのように学びとっていくのか、そのプロセスを見てみます。
赤ちゃんは胎児の頃から身体の動かし方を試行錯誤しています。ママのおなかをキックしたり、叩いたり撫でたり、自分の身体を触ったりしています。こうして自分の身体の位置・動き方/動かし方を把握していきます。
いざ生まれてくると、最初に肺で呼吸をします。呼吸をするために肋骨を使って肺を広げ、肋骨を縮めて空気を押し出します。この肺呼吸による運動が、産後初めての運動ということになりそうです。
生まれた後は子宮のような身体を覆うものがないので、身体を思い切り伸ばすことができます。羊水の中にいないので重力もダイレクトに感じます。反射的に自分の身体に触れたり、腕や足をパタパタと動かしたりして、自分の体を把握します。(「反射」についてはこちらの記事をご参照ください)
赤ちゃんは抱っこされることでいろんな姿勢を感じます。横抱き、縦抱き、立てかけられるように座る姿勢などなど、首がすわる前からいろんな姿勢を経験します。
姿勢が変わると身体にかかる負荷が変わります。その負荷を受け止めるために身体が対応していくことで、姿勢の制御の仕方を心得ていきます。だっこは「首がすわるための準備運動」だと見立てることもできるかもしれません。
身体の軸をつくって回る 首が座ってから寝返りまで
だんだんと首がすわってきます。「首がすわる」というのは、頭のてっぺんからお尻の先までの24個の脊椎のコネクションがしっかりしてくること、それを支え動かす筋肉がついてくることを意味します。体の軸ができあがってくるということです。
そうすると次第に、自分の力で姿勢を変えることがしたくなるようです。仰向けの姿勢から足を上げ、横にバタンと倒れる。今度は反対に倒れるなどして、ベビーベッドでコロコロと遊ぶのが楽しくなってきます。これを「寝返りへの準備運動」と見立てることができそうです。
次は「寝返り」です。寝返りは上半身からではなく、下半身からひねっていきます。仰向けの姿勢で足をあげ、バタンと横に倒す。ここまでは一緒です。次に、グイッと腰をひねって下半身をねじります。骨盤の線と、肩の線がねじれの位置になります。そのねじれを修正するべく、肩もさらにひねっていきます。
しかしここでトラブルです。下になってしまった腕が抜けません!
この腕を抜くためには、反対の肩をグッと下げ、腰を少しひねって肩を浮かせて腕を抜かなくてはなりません。この腕が抜けないことで葛藤して泣く子をよく見ます。こうして身体の中心軸を回旋させる運動を学んでいきます。
寝返りが一度できると、うつ伏せの姿勢を楽しめるようになります。手で地面を押して背骨を伸ばしたり、両手両足を宙に浮かせる姿勢をとったり、お腹を中心にぐるぐる回ったり、転がって移動したりします。こうしたうつ伏せでの運動が足腰と背骨を安定させていきます。これらは「ずり這いへの準備運動」です。
地面からの力を身体の中心で拮抗させる
ずり這いから高速ハイハイまで
次に現れるのが「ずり這い」です。お腹を地面につけながら、頭を前に預け、腕で身体を手繰り寄せ、膝や足の裏でグイッと押す。頭、肩、腕、膝、足をうまく連動させます。
YouTubeで「7ヶ月 ずり這い」などで検索をし、観察をして真似をしてもらうとよくわかるのですが、ずり這いを始めたばかりの頃はものすごく複雑な動きをしています。(言葉で説明するの大変!)
だんだんと腕と足の力だけで移動がスムーズにできるようになっていきます。ずり這いによって「前」に進む、「後ろ」に進むといった「方向」が運動のなかにはっきりと現れてきます。
次の段階に現れるのが、四つん這いの姿勢です。腕でグッと地面を押し、上半身を持ち上げます。次に、膝で地面を捉えて腰を押し上げます。これができて初めて四つん這いの姿勢が完成します。
この次に、スムーズにハイハイに移行したいところですがそうはいきません。必死で両手両足の4点で身体をささえているので、手を上げて前に踏みだそうものならバランスを崩してしまいます。そのことがわかっているのか、赤ちゃんは手足を前に出すよりも前に、腕で地面を押し、足で地面を押し、四つん這いの姿勢で前後に小刻みに動きます。これは、上半身から下半身に、下半身から上半身に力を伝え合い、身体の中心で拮抗させる練習をしていると見立てることができます。これは「ハイハイの準備運動」です。
両手両足の4点で身体を支えることができるようになり、3点でも安定するようになると、初めて手を前に出すことができます。その時、膝で地面を押しているので身体も前にいきます。バランスを崩さなければ、そのまま動作を繰り返せばハイハイで前に進めるのです!
慣れてくるとスムーズに手足が交互に出るようになります。背骨の軸を安定させ、右手と左足、左手と右足を連動させることができると、高速ハイハイになります。
まとめ
こうしてみると、成長の指標となる運動の前後の段階で、「だっこ」「うつ伏せ」「四つん這い」といった次の運動への移行のフェーズでさまざまな「準備運動」をしていることがわかります。
つい大人は「寝返りをさせよう」「ずり這いをさせよう」と躍起になってしまいます。かたちだけできるようになるのではなく、赤ちゃんが自身が納得して身体を使いこなしていくためにこの「準備運動」が必要だとぼくは思います。
ハイハイ以降は「立つ」「歩く」という冒頭に書いたような運動を始めるようになります。その過程や、くぐる、またぐ、といった複雑な運動についても、またどこかで書きたいと思っています。
次回は、五感のなかでもとくに「触覚」に焦点をあてて、触覚のデザインと赤ちゃんの遊びについて書いてみようと思います。