
「つくる」の前後で「学び」が変わる
ワークショップとは「つくることで学ぶ」活動です。でも、「つくっておしまい!」の活動ではありません。
「今日は●●を作ります。では、まず作り方を教えます!」といって始まり、時間いっぱいに何かをつくる活動をし、「今日はいろんな●●ができましたね!おしまい!」といって終了するものも多いかもしれません。
もちろん、それも楽しい時間にはなると思うのですが、ぼくはなんだか「物足りないな〜」と感じることも多いです。
参加者が新しい表現をし、新しい経験をしていると感じられるワークショップには、「つくる活動」の前後の仕掛けがされていることが多いです。
メインの活動の前後を意識すると、劇的に学びのかたちが変わります。そしてそれによって表現や経験のかたちもかわります。
「つくる」の前後に何をするかで「学び」が変わる
ワークショップのデザインとは、端的に「プロセスのデザイン」です。何をどのような順番で行うかで、結果が変わります。
たとえば、ある1つの作り方を伝えてから「つくってみよう!」といって始めるのと、複数の手本を見せてから始めるのとでは、参加者の活動のあり方が変わります。前者は単一的な表現を、後者は多様な表現を生み出します。
また手本だけでなく、どのような「知識」を伝えるかで、参加者のムード/モードが変わります。
今日は例として、小学生向けに「楽器をつくろう!」というワークショップをし、牛乳パックや輪ゴム、空き箱やペットボトルを使って楽器を作る活動を予定しているとしましょう。
パターンA:音の構造を学ぶ
「楽器をつくろう」というワークショップを思いついたとき、単に楽器を作るだけでなく、「音が出る構造」について学んでほしいと思っていたとします。
そうであれば、楽器を作る前に、「音の仕組み」を学習できる機会を設けます。
音が空気の振動でできていること、振動のさせ方には、叩く、こする、弾く、吹くなどのバリエーションがあること、マラカスは「間接的に叩く楽器」であることなど、楽器の分類体系を伝えます。
その知識が伝わっていることで、子どもたちはつくりながら「どう振動させれば、どんな音が鳴るのか」を探求することができます。そして、作り終わった後の発表の時間に、「どんなふうに振動させるの?」といった質問を投げかけると、振動の仕方を意識した語りが聞けるはずです。
さらに、楽器の分類に加えて、演奏のバリエーションも見せておくと面白いかもしれません。明るいムードの鳴らし方と、暗いムードの鳴らし方などを伝えると、子どもたちは自分がつくった楽器に演奏のバリエーションを加味しながら考えることができます。
発表の時間に「明るいムードはどんな演奏?」「暗いムードは?」「その楽器はどっちが似合う?」などの質問を立てると、それぞれの楽器についていろいろと考えてくれるはずです。
このような「仕組み」をレクチャーするときは、「科学者」のようなモードで、「研究/実験」をするようなムードがぴったりです。ワークショップ中に「博士」を登場させたり、科学者っぽい道具を用意してもいいかもしれませんね。
パターンB:民族音楽について学ぶ
別のパターンも検討してみます。ちょっと変わり種ですが、楽器づくりを通して「民族音楽」について学ぶということも可能かと思います。
楽器をつくるまえに、いろんな国の民族音楽のかたちについて学ぶ機会を設けます。アフリカのカリンバやジャンベ、トリニダード・トバゴのスチールパンなど、それらの楽器がどのような背景から生まれたものなのか、触ったり演奏を聴いたりしながら学んでいきます。そうすることで、民族性やその土地の状況や環境から楽器が生み出されることがわかります。
楽器をつくるだけでなく、最後の発表のまえに「その楽器を使ってどんな祭りを行うか?」を考え、絵に描いてもらうなどしてから発表をすると、新しい民族楽器をつくった、と言えるでしょう。
こうした「民族」や「歴史」をあつかうワークショップでは、「映画監督」のようなモードで「世界観を描く」ようなムードだったり、「SF映画の登場人物」のようななりきりモードで、「未知の民族になりきる」ようなムードをつくったり、いくつかのアプローチが考えられます。このあたりの見立ても、またワークショップデザインの腕の見せ所です。
プロセスのデザインによって経験や表現が変わる
冒頭に書いたような「作り方はこうだよ!」「やってみよう」だけだと物足りないと感じるのには理由があります。
なぜなら、制約なく自由に発散させるようなワークショップでは、参加者が過去に作ったり見たりしたことがあるものの「再生産」にしかなっておらず、参加者にとっての「新しい表現」や「新しい経験」になっていない場合が多いからです。
事前に伝える知識、その場のムード/参加者のモードの作り込み、ふりかえりの問いかけなど、「つくる活動」の前後にどのような問いを投げかけるかで、参加者の表現や経験のかたちは変わっていきます。
「どんな経験をどんな順番で並べるか」、つまりプロセスの設計によって経験や表現が変わる。当然のことではありますが、だからこそワークショップのデザインって面白いですよね。
いいなと思ったら応援しよう!
