親の指の皮膚感覚について
今日は「皮膚感覚」についての話です。といっても、赤ちゃんの皮膚の話ではなく、子育てをする親の皮膚の話です。
親指の先に貼った絆創膏
ぼくはいま育児休業中で、毎日せっせとご飯をつくっています。
昨日の夜、キャベツを切っていたら、左手の親指の先を包丁でチョンと切ってしまいました。血が出るほどでもないがちょっと痛い。あちゃーと思いながら、絆創膏を貼ったんです。
今朝、絆創膏をとりかえて娘を抱っこしてみると、親指の皮膚感覚が働かない。絆創膏に覆われているからなんですけど、それ以上になんだか妙な感じがしました。
娘はまだ生後1ヶ月なので、ぼくの親指と人差し指で娘の耳の下をおさえるように、くにゃくにゃした首を支えます。しかし、絆創膏をしていると、娘の身体が自分の手にどんなふうに体重がかかっているのか、娘の首の向きがどうなっているのかが把握しにくくなってしまうんですよね。
夕方、娘を沐浴させるまえに絆創膏をはずしてみたら、もう傷はふさがっていたので、そのまま沐浴をさせました。全く問題なく、いつもと同じように、娘をお風呂にいれることができました。
皮膚について調べてみた
さて、一体皮膚のなかで何が起きていたのか。まず皮膚について調べてみました。
「皮膚」は、表層から、角層・表皮・真皮というレイヤーから成っています。
表皮や真皮のなかには様々な神経の「受容体」があり、圧力や振動を感知するセンサーが存在しているそうです。そしてそれらのセンサーの一部は、大脳での情報処理に使われているものもあるとのこと。以下はそれぞれの役割です。
・自由神経終末 :あたたかさ、つめたさ、痛み、かゆみ、気持ち良さ
・メルケル細胞 :皮膚が押されたときの圧力を感じる。でこぼこなどの大まかなかたち
・マイスナー小体:10~100Hzくらいの振動に反応。「すべり」を検出する
・パチニ小体 :100~1000Hzぐらいの細かい振動に敏感
・ルフィニ終末 :皮膚のノビに応答すると言われているが、よくわかっていない
*図・解説は『触楽入門 はじめて世界に触れるときのように』を参照しました。
さらには、表皮を構成する細胞「ケラチノサイト」は温度・湿度・圧力のセンサーとして刺激を電気信号に変えるそうです。
つまり、皮膚ではある刺激をうけとったときに、細胞が考え、受容体が考えるという過程を経てから、脳に情報を送っていると考えられそうです。
娘を抱っこするぼくの指先の皮膚がやっていたこと
ようするに「脳よりも先に皮膚が考えている」ということらしいんですよね。
なので、娘の首を持つぼくの手の指先の皮膚は、娘の首の温度や圧力、首と指との間に生じる振動を感知していた。
そしておそらく、圧力や振動の方向によって娘の首の動きを、圧力や温度を通して首と手の密着度や手が当たっている位置(首の椎骨の上なのか、頭蓋骨の下部なのか)などを感知していたのだと考えられます。
子どもに関わる大人の感覚を考える
いや、なんでこういうこと考えているかというと、娘を抱っこするときって、実はすごく緊張してたんだなということに気がついたんです。落しゃしないか、首を変な方向に捻じ曲げやしないかと、皮膚感覚を研ぎ澄ませていた。
歌ったり話しかけたりしてふざけながらも、身体はどこまでも真剣に娘のことを考えていたようです。そうと思うと「ああおれよくがんばってたのね」とちょっと自分を褒めてあげたくなったりするわけです。
「子どもの五感を刺激することが大事だよ~」などとはよく言いますが、子どもに関わる大人が自分の感覚に耳を傾けることもまた、発見があるのだなと思ったという話です。
お知らせ
というわけで、やたらと触覚について考えたわけですが、実は、今週末9月7日(金)19時から渋谷のFabcafe MTRLにて、触覚と子どものデザインについてのトークイベントに登壇します。僕は今まで開発してきた赤ちゃん向け触覚ワークショップについて紹介した後、心理学者の田中章浩先生、慶応メディアデザインの南澤孝太先生とのクロストークをします。
ぜひ遊びにきてください!
皮膚についてオススメの本
ちなみに、皮膚の話、触覚の話ってプロダクトやUXデザインにもつながる面白い話なんですよね。オススメの文献を以下にご紹介しておきます。
今回主に参考にしたのは『第三の脳 皮膚から考える命、こころ、世界』(傳田光洋著、朝日出版社)です。
触覚とデザインに関心がある方にとっての必読書はこちら。『触楽入門 はじめて世界に触れるときのように』(仲谷正史、筧康明、三原聡一郎、南澤孝太著、朝日出版社)
『触楽入門』の著者のお一人、南澤先生は週末のトークイベントに登場されますよ。