赤ちゃんと関わるときのマインドセット①
こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。普段は0~2歳の赤ちゃん+保護者向けワークショップの開発とファシリテーションをしています。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。
前回の記事ではジャン・ピアジェの発達段階説における0~2歳の認知の発達についてご紹介しました。本当は「ピアジェの理論に欠けているのは他者への情動である」という話を書こうかと思っていたのですが、ちょっとヘビーなので、今日は赤ちゃんと関わるときのマインドセットについて、軽く書こうと思います。
そもそもここでの記事は
「子育て経験がないんだけど、赤ちゃん向けのプロダクトをつくることになった。何から学び始めたらいいんだ…」
「今度子どもが生まれるけれど、子どもが感じている世界のことを知っておきたい」
という方に向けて、何か参考になれば、という思いで書いています。子育て中の方や専門家の方からはダメ出しふくめ、フィードバックをもらいたい気持ちです。
ぼくも子育て経験もないですし、発達心理学や認知科学の修士・博士でもありません。大学では社会学の質的調査法を学んでいました。そんな感じでも、赤ちゃんと関わる仕事を3年続けています。「これから赤ちゃんと関わろう」というときに、どんなマインドでいればいいのかを書いてみます。
それは、赤ちゃんは他者であることを認識したうえで、自分の中の「赤ちゃんの心」を発見することです。
赤ちゃんとわたしは違う
赤ちゃんは他者です。たとえ自分の子であっても。私があなたではないように、彼もまたあなたではなく、私ではない。みたいな感じで、他者です。
まず、目線が違います。頭の重さも違います。とれる姿勢も移動の仕方も違いますし、運動能力も違います。視力も、耳の聞こえ方も、匂いや触り心地の感じ方も違います。
そして、ぼくたちが普段使うような言葉は通じません。「あなたにこのプロダクトをテストしてもらいたいんです」と言っても何のことかわかりません。動きや声のリズムのほうを感じ取っています。
経験値も違います。水が上から下に流れることや、磁石で物が壁にくっつくこと、スイッチを押して電気をつけることなども、いままさに経験し学んでいる最中です。
他にも異なる点をあげればきりがないのですが、これだけ感覚が違うのだから、かなり違います。なので、完璧に彼らが感じている世界を理解することは不可能です。でも、想像することはできます。
赤ちゃんの身体を借りる
ぼくが一緒に働くチームでは、赤ちゃんの目線で考えることをBird Viewならぬ「Baby View」と呼んでいます。
「Baby View」とは赤ちゃんの中に入り込んで赤ちゃんのからだを借りるかのように、赤ちゃんが感じている世界を想像することです。「view」というと視覚だけのことに感じますが、身体の大きさ、運動感覚などもふくめて想像できると、より解像度が上がります。
この眼差しを身につける方法はいくつかありますが、YouTubeをつかってできる方法をご紹介します。
1. YouTubeで「赤ちゃん (月齢)」で検索する
2. YouTubeの動画に映る赤ちゃんが「何を感じているのか」を考察する
3. YouTubeの動画に映る赤ちゃんの真似をして、何を感じたのかを言語化する
この3ステップです。できれば真面目にふざけられる仲間と一緒にやるのがよいでしょう。ぼくは家では妻に聞いてもらい、職場では同僚に聞いてもらって、このトレーニングをしています。
オススメは、ズリバイを始めたばかりの赤ちゃんの真似です。手、腕、頭、膝、足の指先の位置関係に注意して見ます。そして、動画のなかで赤ちゃんがやっていないことをズルしてやらないように気をつけます。ズリバイって大人がやると本当に難しくて「え、どうやって前に進んでんのこれ?」となります。そしてコツをつかむと「あ、なるほどこうすればいいのね」となります。その感じはおそらく、赤ちゃんがズリバイの運動パターンを心得た瞬間ととても似ていると思います。
手軽なところでは、指しゃぶりです。赤ちゃんが拳を舐めているのを真似してみると、口の感覚がほとんどで、手の「舐められている」感覚はあまり感じません。ただ、舐める位置を変えるために手首を回したりするときに手の運動はけっこう意識的にやってるな、とか思います。これも面白いです。
赤ちゃんの心をもつ
Baby Viewという想像力を鍛錬していくなかでもっとも重要なことは、自分の中にその行為を「面白い!」と思う気持ちが芽生えるかどうかです。ズリバイも、指しゃぶりも、感覚を研ぎ澄ましていくと、「赤ちゃんってこう感じているのかも!」と、腑に落ちるポイントがあります。もちろんそれはただの勘違いかもしれませんし、正解は赤ちゃんの中にしかないので、それで理解したつもりにならないほうがよいのですが、その腑に落ちた感覚はとても気持ちがいいです。
これはいわば、Baby ViewならぬBaby Mindを自分のなかに育てることなんだと思います。ぼくがチームのメンバーとこだわりつづけてきたのは、大人目線で赤ちゃんを見るのではなく、赤ちゃんの世界に入り込んで、赤ちゃんに憑依するように思考することです。そうすることで、赤ちゃんに憑依した結果、自分の心の中に赤ちゃんの世界の捉え方をインストールすることができるかもしれません。
こんなことを考えるとき、映画『マルコヴィッチの穴』の物語をよく思い出します。
枯れ木に花咲くを驚くより、生木に花咲くを驚け
まとめです。赤ちゃんは大人とは異なる他者ですが、赤ちゃんが感じている世界を想像することはできます。そのために、赤ちゃんの観察をし、考察し、真似してみます。真似してみると、その行為を面白いと思う気持ちが湧いてくることもしばしば。(たぶん彼らは面白いと思うこと以外していないと思うんだよな・・・)その赤ちゃんの目線、赤ちゃんの心持ちを自分の中に持っておくことで、赤ちゃんの世界を想像しやすくなっていきます。
人間の赤ちゃんは10ヶ月未熟な状態(生理的早産)で生まれてくると言われていますし、大人の当たり前をふりかざして赤ちゃんを「未熟なもの」「教え導くべきもの」として見ると「そんなこともできないの?」という見下した目線になってしまいます。
しかし、赤ちゃんの観察をし、真似をし、研究を紐解いたりして赤ちゃんが経験している世界をのぞいてみると「そんなことを学習してできるようになっているのか!」と驚けるようになりました。
三浦梅園による「枯れ木に花咲くを驚くより、生木に花咲くを驚け」という言葉がありますが、赤ちゃんの探索の世界はまさにそのようなセンスオブワンダーをひらいてくれます。
ちょっとまた長くなってしまいました。こうして観察で得られたbaby view/babymindを、どうやって表出させ、赤ちゃんと関わるのか、そのことについてはまた次回以降に書こうと思います。
赤ちゃんの探索環境デザイン 目次
1. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[観察編]
2. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[理論編①]
3. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編②]
4. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット①
5. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット②
6. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編③]
7. 赤ちゃんの好奇心・不安・葛藤・勇気
8. なぜ「五感を使うのが大事」と言われるのか[理論編④] 9. 赤ちゃんは全身をどうやって使っているのか[理論編⑤]
10. 赤ちゃんの探索と触覚の科学
11. 「いないいないばあ」はなぜ面白いのか
12. 探索環境デザイン[実践編]
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