赤ちゃんは無限に繰り返す
こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。普段は0~2歳の赤ちゃん+保護者向けワークショップの開発とファシリテーションをしています。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに子どもの認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。
前回の記事では、「五感を使うのが大事」とよく言われますが、むやみやたらと感覚を刺激すれば良いわけではなく、赤ちゃん自身が複数の感覚を総動員して一つの対象に向ける「注意」が必要であるということ。周囲の大人が「赤ちゃんは今何に注意を向けているのか」をよく観察することや、赤ちゃんが注意しやすい環境をつくることが、赤ちゃんのよりよい探索環境をつくる鍵になります。という話を書きました。
今回は、感覚を総動員する遊びの具体例と、繰り返しの遊びの面白さについて書いていこうと思います。
赤ちゃんが感覚を総動員する繰り返し遊び
ぼくたちは物に触れるとき、こうした複数の感覚を総動員し、一つの対象に向けています。平衡感覚と固有受容覚で姿勢と運動を制御し、視覚でものを捉え、触覚でそのものの硬さや温度を知る。超当たり前のことですが、こうした複数の感覚を同時に使うことをトレーニングして身につけています。
「注意」とは「意を注ぐこと」です。赤ちゃんがじっと人やものを見つめているとき、向いているのはまなざしだけでなく、耳も、姿勢も、対象に注いでいます。
例えば子守唄を聞くときなどもこうした「注意」をしているといえます。抱っこされて、歌を聴きながら、お母さんの眼差しと口の動きを交互に見て、トントンと手が身体を叩くリズムと、ゆったりとした揺れを感じる。これら全ての感覚が「子守唄を歌ってもらう」という一つの体験を織りなしています。
エキサイティングなものが好きなら、バランスボールの上に腹ばいで寝かせて、ゆっくりとボールを半回転させて頭を下ろしてみましょう。そうするとパラシュート反射(頭が下になったときに手が前に出る原始反射)で手を前に出すので、その手がつくまでボールを転がします。
そのときに適当な効果音を口でつけるのもありです。頭が下に行く時は「うぃーーん」戻る時は「ぴゅーーん」など、なんでもよいのですが。これによって効果音、動き、感覚が連動するので、より楽しんでくれる気がします。
うつ伏せにしてスーパーマンの格好でゆっくりスウィングするのもありです。これにも効果音をつけるとよいかもしれません。これをやる大人は体幹トレーニングになりますが、無理をしすぎると腰をグキッと逝く可能性があるので、ゆっくりやりましょう。赤ちゃんの身体の中心と、自分の身体の中心を線で結ぶようにして回転すると良いと思います。
こんなふうに感覚を総動員する遊びを通して、赤ちゃんは「今自分の身体がどうなっているか」「他者がどんなふうに自分にはたらきかけているか」を注意して感じ取ります。また、短い間隔で同じパターンの運動を繰り返すことを赤ちゃんたちは楽しみます。次にどのような感覚になるか、予測と確認を繰り返すからです。
赤ちゃんの「GIF動画」的な世界観
この「短い間隔で同じパターンの運動を繰り返すこと」は、「音つきのGIF動画」をイメージしていただくとよいかもしれません。
以前、1歳8ヶ月ごろの子の前で、ものを持ち上げて苦しそうな顔をして「重い!」と言う、というのを20回ぐらい繰り返して遊んだことがあります。GIF動画状態のぼくを、じーっと見つめていたその子は、家に帰ってからオムツの入れ物を持ち上げて苦しそうな顔をしながら「ぉもい」と言ったそうです。
相手を自分の中に取り込んでいく「模倣」
この「真似をする」という現象はとても興味深いです。人がやっていることを観察し、自分の身体に移し替えて実行するって、とても複雑なことのように思います。
ですが、赤ちゃんは生後1ヶ月でも大人の顔の形を真似することが研究で明らかになっていますし、他者が行動をしているのを見ているときに活発になる「ミラーニューロン」という神経細胞があって、脳には他者を模倣する機能が生得的に備わっているのだ、とする説もあります。
このような「模倣」は、GIF動画的な短かいパターンを繰り返すことで促しやすくなると思います。しかし、何かを学ばせようとして何かのパターンをむやみに繰り返さないよう気をつけることが重要です。どんなパターンを繰り返すか、赤ちゃんが注意をして気に入っているパターンを発見できるようよく観察するのがよいと思います。
パラパラ漫画を書いてみよう
赤ちゃんは短かいパターンを繰り返し観察し、あらゆる感覚をそのパターンに向けて「注意」します。この気持ちを大人が理解するのに適しているのは「パラパラマンガ」を描くことだと思います。
適当なキャラクターがジャンプするアニメーションをつくるとき、ジャンプする前の踏ん張りを描いたり、着地した時の衝撃を描いたり、そのシーンのリアリティを作りこんでいきます。何度もパラパラしながら書き足してくと、ちょっとリアルになっていきます。
何度も描きながら動かしながらリアリティを追求していくことと、赤ちゃんが何度も同じ動作をやってみたり繰り返しの動作を好んで注意することとはとてもよく似ています。漫画を描くのではなく、実際にやってみているのが赤ちゃんです。
映画『この世界の片隅に』の冒頭で主人公のすずさんが海苔の入った箱を背負い直すシーンは、ものすごくこまかな描写が目に焼き付いているのですが、きっとみんなで何度も繰り返し書き直して出来上がったシーンなのだと思います。
こういった腑に落ちる瞬間が、赤ちゃんが繰り返しを好む背景にあるのだろうと思います。
まとめ 繰り返しの中に差異がある
タイトルの「無限」というのは大げさですが、赤ちゃんはたくさん繰り返しています。
赤ちゃんの歩行に関する興味深い研究として、歩行を始めたばかりの子に小さな段差を上り下りして遊んでもらい、足の動きや足を置く位置を観察したところ、赤ちゃんは段差の面に足をかけるときもあれば、ヘリに足をかけるときもあり、同じ歩き方をしているように見えて様々なバリエーションを試行錯誤している、という結果が得られています。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22096202
この例に限らず、ものを落としたり、箱を開けたり閉めたり、繰り返しの遊びの中で、実は微妙な差異を考察しているとも考えられるのです。赤ちゃんを観察するとき、繰り返しの遊びの中で、ものを持つ位置、持ち方、角度などなどいろんな視点で観察してみてください。本当に全く同じことを繰り返しているでしょうか?
次回
さて、赤ちゃんはこんなふうに全感覚をつかって冒険をしながら、世界の仕組みを繰り返し確認しながら記憶していきます。実は、こうした冒険には「愛」が不可欠です。次回は「赤ちゃんの探索活動のためには愛がいる」という話を書こうと思います。
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