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赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか [ 観察編 ]

こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開したりしていきます。(自己紹介はこちら

今日は、ぼくが最初にしたリサーチ「赤ちゃんの観察」についてです。ここで登場する「赤ちゃん」の月齢はさまざまですが、概ね生後6ヶ月〜1歳半ぐらいまでを想定しています。場合によっては2歳ごろまでも含みます。

このテキストで言いたいことは、「赤ちゃんの遊び」というのは、極めてシリアスなものであるということ。彼らは真剣に遊んでいるのだということ。

赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか

いきなりですが「赤ちゃんの遊び」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。物を口に運んで舐めたり、いないいないばあをすると喜んだり、ガラガラを鳴らしたり、そんな感じでしょうか。概ね、笑顔でニコニコしている印象でしょうか。

7~8年ほど前、知人の家に遊びに行くと、生後8ヶ月ぐらいの彼の息子がその横で紙コップを、別の紙コップにぶつけていました。

「何をしているんだ?」と思いながら見ていると、きゃー!と声を上げて紙コップをぶつけたりこすったりするその子を見て、知人が「おお~今日は遊んでるねぇ~」と言いました。

「え・・・・?これが・・・遊び・・・?」

遊びってもっとルールがあったり、創意工夫があったり、全身を動かして発散したりするものだ。と思っていたぼくは「赤ちゃんは遊ぶことで何を楽しんでいるのか、全くわかっていない」ということに気づかされました。

ほめる前によく見る ー「上手上手病」からの脱出

それから、不思議と仕事で赤ちゃんと関わる機会が増えていきました。午前中の児童館の乳幼児イベントの企画に関わったり、プレイスペースの企画をして現場で赤ちゃんと遊んでみたり。しかしその頃は赤ちゃんにまだ不慣れで、彼らがなにかするたびに「上手~!」という言葉が口をついて出ていました。それは、あいかわらず一体何を楽しんでいるのかわからないので、褒めることで赤ちゃんに好かれようとする下心の表れでした。

しかし「下心をもった褒めが常習化すると、子どもは褒められることを行動の目的にし、好奇心にそって探求することをやめてしまう」という話を聞いて、「あ~!大人でもそれある~!!!」と納得し、自分の「上手上手病」を治さなければと思うようになりました。

まず、「上手〜」と言いそうになるのをぐっとこらえて、じっくり赤ちゃんたちの行動を観察してみようと思いました。リサーチの手段は、職場のプレイスペースでの赤ちゃんの振る舞いを見ること、YouTubeで赤ちゃんの動画を見まくること、それらの観察を踏まえて赤ちゃんに遊びを提案し、その結果をふりかえることの3つです。

シリアスに遊ぶ赤ちゃんたち

観察を通して見えてくるのは、彼らの振る舞いから「没入状態」と「散漫な状態」がはっきり区別できること。そして、その「没入」のなかには、単に笑ったり嬉しそうな声を出したりするだけでない、ある種の緊張を孕んでいます。ニコニコすることもありますが、どちらかというと真顔の時間の方が多いかもしれません。

その中から赤ちゃんが没入しているいくつかの行為をピックアップしていきたいと思います。

1. なめる
生まれてすぐの頃から自分の手や持ったものを舐めたりしています。とにかくここから1歳になるぐらいまで何でも口に入れようとします。人気だったのはストローと、あと大きめのボルト。ストローは普段水を飲むときに使っているからかもしれないが、ボルトは見慣れない金属だからでしょうか。口に入れると独特の固さ、そして冷たさが伝わってくるのでしょう。

最初は食べ物と勘違いしているのか?と思っていましたが、あるときぼくも別のスタッフと「赤ちゃんの気持ちになってみよう」ということで、いろんなものを口に入れてみました。なかでも凄かったのは振動子で、手のひらでささやかに感じる程度の「ブルブル」は、口に入れてみると歯をガタガタ言わせるし、口いっぱいに振動が広がるし、わ!!!すご!!となりました。直感では手の触力(そんなものはない)が10だとすると、口の触力は100だなという感じ。なるほど、みんながモノを口に入れようとするのは、そのほうが情報がたくさん入ってきて面白いからだ、ということに気がつきます。

2. ちらかす
ハイハイして移動できるようになった赤ちゃんの代表的な行為。彼らに悪気はないと思うのですが、そこに物がまとまっていると散らかしたくなるようです。台の上に乗っているものをとにかくポイポイ落としたり、袋の中に入っているものをぶちまけたり。ボールプールを出せばボールを外にポイポイ投げる。

ボールプールが面白いならもっと粒度を細かくしてみよう、と思って「最悪食べても大丈夫!」(もちろん保護者がそばについて口に入れる前にディフェンスしますが)ということであずきを10kgほど入れたあずきプールをつくったら赤ちゃんたちが興奮しすぎて帰れなくなったことがあります。(興奮しすぎた赤ちゃんは、呼吸のやり方が変わり、映画『呪怨』のおばけの声みたいなのが出ます)

ちらかすことにはおそらく重要な意味があります。大人でもブレインストーミングをするときに付箋を1枚出しては1枚片付ける、ということをしますか?という話で、あれは付箋がバーッと広がっているから脳が活性化して良いアイデアがでる。それと一緒だと思います。

3. こわす
「ちらかす」と似ているのですが、1つのモノを複数に分解する、という意味でちょっと違います。ぼくが球状に丁寧にまるめた小麦粉粘土を指でぐにゅっと潰したりとか、1枚の紙を細かくやぶったりとか。紙コップを積んでタワーをつくって、それを押し倒して大喜びしたりするのは、大人をからかう行動のように見えるときもあります。

人気なのは「寒天」です。食紅で色をつけた寒天を、指でぐっと押しつぶしたり、粘土用のナイフで切ったりすると、息を飲んで集中しながら寒天をこわしていきます。寒天を限りなく細かくするまで、30分は余裕で集中して遊んでいます。(とんでもなく散らかりますが笑)

ただむやみやたらとこわすだけでなく、こわすためには手や道具をうまく使うことが必要です。「破壊は創造である」というように、形状の変化のさせ方を知ることは造形への興味にもつながっていくと思われます。

4. 音を鳴らす
音がなるものは大好きですし、楽器おもちゃは多いです。特に人気なのはシェイカーや太鼓などの打楽器系です。楽器の分類に従えば、難易度は打楽器(たたく)→擦奏楽器(押し付けながらこする)→弦楽器(弾く)の順に、手の動作は難しくなっていくようです。

弦楽器が難しいことは承知の上でウクレレを与えてみると、これはヒット。赤ちゃん用の弦楽器はプラスチック製のおもちゃが多く、綺麗な音は鳴りませんが、ウクレレであればギターよりも弦が柔らかく、子どもの指でも弾くことができます。

これらは、どうすれば音がなるか、という実験をしているようです。そこに音階やリズムを見出すのはまだ先の話。まずはmake some noizeということなのでしょう。

5. ひも状のモノを引っ張る
テレビ台の裏のケーブルみたいな「ひも状のもの」ってめちゃくちゃ好きです。食べ物で言えば「ちゅるちゅる(=うどん、ソーメンなど)」とか。ゴム紐やシリコンチューブ、リボンテープなどひも状のものをちらかしておくと、興奮して自らまみれていきます。ベジヌードルメーカーでニンジンをヌードル状にして触らせてみると、興奮してひっぱりまくっていました。ちぎりやすいのもよかったみたい。

なぜこの形状が彼らの興味をそそるのか、未だによくわかっていません…。

6. モノを容器に入れる
月齢にして8ヶ月頃から、容器とそうでないものを見分けて、容器にものを入れては出すのを繰り返すようになります。ボールをぽん、と入れたり、箱にしまったり、蓋を開けたり閉めたり。

先の「あずきプール」にも、入れ物やスコップなどを置いておくと、あずきをスコップですくっては入れ、入れては出す、というのを繰り返していました。なるほど容器は子どもの心を魅了するようです。また、容器の底に穴を開けておくと、そこからあずきが漏れていきます。穴あきのものとそうでないものの区別も、1歳ぐらいであれば見分けられるようです。

この「穴あき容器」を見ていて思ったのは、「玉の道」という玉を道に転がすおもちゃ(クーゲルバーンキュボロくみくみスロープなど)があるのですが、容器にものを入れることの延長に、玉の道への興味があるように思えています。

7. 鍵をいじくる
ぼくが子どもの頃、執拗に鍵を欲しがった時期がありました。家の鍵みたいなものというより、いかつい南京錠のようなもの。カードキーやオートロックになってもなお、鍵は子どもたちの興味をそそるようです。

ワークショップで使うツールをつくるとき、いつもPinterestでリサーチしているのですが、ここに「Sensory Board」というものがいっぱい出てきます。きっと海外のお父さんたちがホームセンターで買いだしてつくっているのでしょう。リアルな鍵がいっぱい付いている。これと似たようなものを作って使ってもらってみると、0歳児でも、ひたすら鍵をいじろうとします。

金属のカチャカチャ鳴る感じ、うまくやれば穴に挿すことができる面白さ、鍵が開けば次は扉が開くぞ!というのが予測できるのでしょうか。とにかくみんな好き。

8. 液体に触れる
いわゆる水遊びです。容器に水を入れることもできるし、ぱちゃぱちゃ叩いて飛び散らせるのも楽しいし、色水になれば色の変化が面白い。水が流れている様子を見るのも楽しい。無限に遊べる道具の一つです、液体。

そこで、液体の粘性の違いって面白いのではと考え、片栗粉をお湯に溶いたものを分量を変えて触ってもらったことがありました。普段お風呂で水には触れているが、なんだかヌルヌルしたものを前にちょっと不安がる赤ちゃんたち。この不安をどう乗り越えるか、これだけで一つのドラマになっているので、「未知の液体に触れる過程」については別の記事で書こうと思います。

9. よじ登る
さて、ここまではいろんな物に手や口で触れる子どもたちの様子を見てきましたが、運動についても。ハイハイができるようになった子であれば、低めのソファーによじ登るなど、ちょっとした段差をガンガン乗り越えていきます。この登るという運動は、頭を前に預け、体をねじると同時に左足のつま先で床を押し、もう右足の太ももを段差に乗せ、さらに体をねじってもう左足を乗せる、という割と複雑な運動をしなければなりません。

物をこわしたり、扉を開け閉めしたりするような「物の操作」とは別に、「身体の操作」もまた彼らの遊びになるようです。段差を登ることができれば、達成感が得られる。ひたすら登って降りるを繰り返すのは、身体の操作と、自分で設定した課題をクリアする面白みがあるのかもしれません。

10. 坂道を上り下りする
最後、ゆるやかなスロープを、ただ登ったり降りたりするのもなんども見ています。これを楽しむのは月齢にして1歳半から3歳ぐらいでしょうか。坂道(と言っても高さ30cm、長さ2mぐらい)のてっぺんに立ち、「いくぞ〜!!!」みたいな顔をして、ドテドテと駆け下りる。で、駈けおりたら一息ついて、ニコッと笑う。これをハマれば20分ぐらい繰り返します。駆け下りてる最中の顔は真顔というかちょっと怖がっていたりします。

たぶん、子どもは頭が重いから、少しの傾斜でもバランス感覚や加速度が大きく変わるんだろうと思います。床が斜めになって加速度を変える斜面は、床が身体を押し返すトランポリン、床がツルツル滑るスケートリンクなどのように、スリルがあって楽しいのだろうなと想像します。

観察から理論へ

こうした観察を通して、赤ちゃんが没入する遊びの傾向は見えてきました。しかし、一体何にそんなに夢中になっているのか、そのとき彼らの認知・思考はどのように働いているのか。そしてこの没入体験は何の役に立つのか。そんなことが気になります。

次回は、いくつかの理論をひもときながら、「赤ちゃんが遊びのなかで何を楽しんでいるのか」という問いの答えを見出していきたいと思います。

このブログでは、こうした赤ちゃんたちの遊び=探索行動について、記事を書いていこうと思います。今後の予定はこんな感じです。順不同。

赤ちゃんの探索環境デザイン 目次

1. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[観察編]
2. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[理論編①]
3. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編②]
4. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット①
5. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット②
6. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編③]
7. 赤ちゃんの好奇心・不安・葛藤・勇気
8. なぜ「五感を使うのが大事」と言われるのか[理論編④]
9. 赤ちゃんは全身をどうやって使っているのか[理論編⑤] 
10. 赤ちゃんの探索と触覚の科学
11. 「いないいないばあ」はなぜ面白いのか
12. 探索環境デザイン[実践編]

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。感想、質問、こんな遊びもあるよ!など、お気軽にコメントください。

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