ひたし豆と我が家のルーツ
ひたし豆という料理をご存知でしょうか
乾燥した青大豆を戻し、しょうゆや白だしなどで味付けした素朴な料理です
正月には、そこに数の子が入って、かずのこ豆と読んだりもします
我が家では定番の正月料理です
我が家は北関東にあり、生まれた時から北関東民
珍しい苗字ではないのだが、同じ苗字に出会ったことがあるのは、数人程度
幼いころは変わった苗字なのかなくらいに思っていた
『かずのこ豆』を食べるようになったのは、
父の実家の正月だった
ポリポリしたかずのこと豆の食感がくせになる
物心ついた頃から大好きだった
どうしてこんなに美味しいものが、ここでしか食べられないのだろうと思っていたのだが、
中学生にもなるころ、私があまりにも好きなものだから、
見るにみかねて、母が作ってくれたのをきっかけに、
我が家の正月料理にもすっかり定着したどころか、
私は待ちきれないので、年を越す前から食べていた
話は変わって、私が小学3年生だった頃、
家族旅行で山形にキャンプに行った時のこと
隣にテントを張っていた家族が、同じ苗字で、そこの長男坊が同じ名前だった
年も2つ違いで、それからというもの毎年一緒にキャンプをするくらい仲良くなった
小学校高学年の頃、どういうわけか、正月にその友人の家に1人で遊びに行くことになり、
1人で新幹線に乗り行ったことがある
そしてその家の正月にいただいたのが、『かずのこ豆』だった
そしてさらに、その家の電話帳を覗くと、今まで出会ったこともなかった、
我が家と同じ苗字が上から下までずらっと並んでいる
親戚か?と思い聞いてみると、ほとんどがご近所さんとのことだった
かずのこ豆、同姓同名、山形・・・なんのゆかりもないはずなのに、どうして?
私の父の母、つまり私の祖母は、わかい頃に離婚しており、女でひとつで子供を育ててきた
そんなことを知ったのも、だいぶ大きくなってからだったのだが、
我が家は、おばあちゃんが一緒に住んでいて、じいちゃんは私が小さい頃に亡くなっていた
年末年始には、父の実家に赴くとそこにも1人のばあちゃんがいた
じいちゃんの存在は知らなかったが、自宅のじいちゃんが若い頃に亡くなっていたこともあり、
父方のじいちゃんもとっくに亡くなっているのだろうとしか思っていなかった
それに加え、正月過ぎた頃には、また別のじいちゃんと、ばあちゃんがやってくる
どうやら自分のじいちゃんばあちゃんのようだが、そうなると、じいちゃんばあちゃんが、3人ずついる計算になる
何か違和感を感じながらも、聞けずにいた
両親も説明が難しかったようだし、混乱させないようにと、しっかり理解できるまで説明もしなかったのだろうと思う
私が高校生だった頃だろうか
夜、自宅の電話が鳴った
母が電話に出て、神妙な面持ちで父にかわる
子供ながらに『なんだろう』と思った
以前からなんどか記事中に書いているが、HSPの特性なのか、顔色、声、話し方から、大体誰からの電話なのかわかるのだが、この時ばかりは全くわからなかった
父の顔つきから、ただごとではないことはわかった
なんの音沙汰もなく数ヶ月が経った頃、夕飯時に父から言われたのが、
『明日、おまえたちのじいちゃんが来る』
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『は?じいちゃん?』
どこの誰のじいちゃんだ?さっぱり理解ができなかったものの、
その場で聞くことができず、あとで母から詳しく話を聞くことになった
その時初めて知ったのが、父方の祖父母は、父が小さい頃に離婚していて、
父も自分の父親にそれ以来会ったことがなかったようだ
そのおじいちゃんは、山形に住んでおり、そちらで再婚、子供もいたことから、
お互いに気をつかって、会うこともできなかったのだろうと思う
どうして今更会いにきたのだろうと思っていたし、会った途端、とても複雑な面持ちの父を見たのは、後にも先にもこの時だけだ
この時ばかりは、父の顔がまるで子供のように見えたのだから不思議なものだ
それから、2、3年だっただろうか
はじめて会ったじいちゃんは亡くなった
会いにきてくれた時は、末期だったと知った
最後に息子に会いたい、会って謝りたいとわざわざ赴いてきたようだった
山形の郷土料理『ひたし豆』『かずのこ豆』が我が家の正月料理にあること、
山形に数多くある我が家の苗字、
ずっと不思議だった我が家の山形との関係性は、この時にはっきりと理解した
我が家のルーツ、父の生まれ故郷は山形だったのだ
『ひたし豆』に数の子が入れられるのは、さすがに正月だけなのだが、
ひたし豆はいつでも作れる
つまみにも最高だ
そして、それを父も食す
父からは何も言葉を発しないが、さぞなつかしいことだろう
自分のルーツ、山形の味を
そして、今更ながら思ったことがある
小さい頃から、キャンプやスキーで、山形に行く機会が多かったのは、
きっと父のルーツがそこにあったこと、そしてひっそりと父はその土地を
懐かしんでいたのだろうと思う