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【小説】(14)運命共同体【ゾンビナイト】

明くる日の夜、僕とオラフさんは暗ーい劇場の座席にちょこんと座っていた。座席は狭く、オラフさんはキツキツで辛そうに見える。

「いやー、僕こんなところに来るの初めてだから緊張するなぁ。」

オラフさんが緊張するのも無理はない。オラフさんと僕は狭いライブハウスに来ていた。しかもその客層はほとんどが女性で、男は本当に僕ら2人くらいのものである。女性たちは大きなカメラを持ってステージの方をじっと見て、何か調整のようなことをしているようだった。

「どんな感じなんだろうねぇ。楽しみだなあ。」

確かに。どんな感じなんだろう。ダンスのライブなんて見たことない。そういう点では楽しみである。何で僕たちが見たこともないダンスのライブに来ているのか。それはメイクルームでの金髪男との会話に遡る。

〜〜〜

「カッピーさ。俺らのダンスチームに入んね?まじ俺ら“グループ”が合うと思うんだよね。お試しでもいいからさ。」

「え、グループ??あっ、グルーヴですか?」

「おっ!カッピー!アタマ良い系?やべー!俺らのチームの平均IQあがるべ!もうバイブスじゃん、そのものじゃん!」

安易な言葉を使うことに対して、少しの申し訳なさがあるが、あえて使用させて頂こう。如何にも陽キャオブ陽キャであると全身で表明している金髪の彼はココロという名前らしい。
ココロさんは肩を組んで長々と僕に話しかけてきた。長々と話してはいるが不思議と頭に残らない、なんだか軽い不思議な声をしている。てか、タバコ臭い。

ココロさんの言葉を要約すると、「カッピーのダンス、最近見てて俺らと超フィーリング合うと思ったんだよね。一緒にダンスしようぜ!さぁ、夢のshow Timeへ!我ら運命共同体、うぉい!」ということらしい。

「すいません。あんまりそういうダンスチーム?ってわからなくて。」と言いかけると、被せるようにココロさんは話し出した。

「そういうと思ってサ!俺らのチームが出るライブがあんだよね。うん。よかったらおいでよ。まぁまぁ、今回はとりあえずチケ代はいいよ。いーっていーって!気にすんな!」

捲し立てるように話され、ちょっと予定確認してみますと言うと、カッピーのシフト入ってないのは確認済みだぜと言いながら、拳をかざしてきた。へっへひっ!と言いながら拳を返すと、

「おーい!カッピー!何の話してるのー?」

とオラフさんが話しかけて来てくれた。正直助かったと思った。あまりの勢いにココロさんのダンスグループに電撃加入するところだった。因みに彼のグループ名はドリームビリーバーと言うらしい。ライブの最後に投票があるらしく、投票だけ宜しく!と言われてしまった。
オラフさんが「僕も言ってみたいなー」と言い、え?ぜ、全然良いよ!と言ってチケットを2枚くれた。もらったチケットにはいくつかの出演者が書いており、ドリームビリーバーもその中に書いてあったが、『Dream bilibar』と書かれていた。びりばぁ?この綴りに敢えてしているのだろうか?何か意味があるのか。ビリビリするバーのこと?もしかしてこう言う名前のバーがあるのか?と考えていると、オラフさんが、

「このビリーバーの綴り間違ってるんじゃない?正しくはbelieverだと思うんだけど。」

と正に言いづらかったことをドンピシャで言ってくれた。ナイス、オラフさん。こういう時のオラフさんは助かる。さぁ、どうでるココロさん。

「ん?え?まじ?そうかそうか。あれかな。あーそうだあれだ。まじ主催のミスだわ〜。ちくしょー。言っとくわ!これ。うん。さんきゅさんきゅー。」

あっちゃーといいながら、しどろもどろになっていたココロさん。きっと主催の方のミスなんだろう。うん。

とりま、わからんことあったら連絡ヨロ〜と言って、ココロさんは連絡先を教えてくれた。プロフィールの欄には『夢は見るものではなく、叶えるもの。Dream bilibar kokoro…』と書かれていた。ココロさん、単純に綴り間違えてたんですね。大丈夫です。恥ずかしくないですよ。

後日ココロさんのプロフィールを見ると、『夢は見るものではなく、叶えるもの。ドリームビリーバー ココロ…』とカタカナ表記になっていた。良かった。無理に英語表記にするから、恥ずかしいことになっちゃうんですよ。カタカナなら間違えないですもんね。それにしても、オラフさんと僕のせいで彼らのグループはカタカナ表記に改名することとなってしまった。彼らがビッグになった時に、Wikiに改名の経緯が僕らだと書かれてしまうのだろうか。

〜〜〜

そんなこんなで彼らの出演するライブへと僕らはやって来ていたのであった。なんだかんだ言っても僕もダンスを見るのは好きなので、すごく楽しみではある。

「そういえばオラフさん、UPJでのダンサー長いのにココロさんに誘われたりしなかったんですね。」

「確かにねー。まぁ僕はあんまり縁がないかなーとは思うよ。やっぱり、カッピーが人気出そうだから、唾つけとこうと思って誘ったんじゃないかな?パークで人気のダンサーはファンがつくし、外部イベントでも結構集客するらしいし。」

「外部イベントですか?」

「そう!パークでダンサーやってる人がパークに関係のないところでやるイベントを外部イベントっていうらしいよ。ハナさんに聞いたんだけどね。」

「へー!そうなんですね。じゃあ、りゅうじんくんなんて凄いんだろうなぁ。」

「あっ、りゅうじんくんは外部イベントやってないみたい。何か拘りがあるのかなぁ。」

とオラフさんと話していると、会場が暗転した。いよいよ始まるみたいだね、とオラフさんがこちらを見ながらこそっとした声で呟いた。

ステージの下手から、しゃくれたおじさんが現れて手を振っている。どうやら今日の主催で司会をしている人らしい。ココロさんが綴りの間違いをあなたのせいにしてましたよ、と告げ口したい衝動に駆られたが我慢した。

シャクレた男性は軽快なトークで笑いをとりながら、無駄話はこの辺でと言って早速最初のグループを呼び込もうとしていた。

「最初はこいつらだ!!ダンスで世界を変えてくれ!ドリームビリーバー!」

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