【小説】(7)リュウ-1【ゾンビナイト】
『私の画像を無断使用しないでください』とメッセージが来た。要約するとこの一文だったが、実際にはもっと多くまとまりのない言葉で罵倒の限りを尽くされていた。放っておくとめんどくさいことになりそうだ。適当に謝罪して、動画を削除して逃げることにした。で、ほとぼりが冷めた頃にブロック。これに限る。決してレスバはしない。“ちてき”で“りてらしー”の高い俺はこんな奴とやり合ったりはしないのだ。
しかし、俺のしたことはここまで言われなきゃいけないことなんだろうか。ちょっとくらいええやないか。ネットに落ちてた画像を、ほんのちょっと使っただけなのに。そのくらいええやろうが。はらたつわー。こういう時は自然とタバコに手が伸びる。
動画削除の作業をしつつ、チャンネルのアナリティクスを眺めてため息をついていた。モチベーションの低下を感じている。近頃は動画を投稿してもあまり再生数が伸びない。一回とある動画がバズって再生数が増え、登録者数も伸びたもののそれからは何を投稿しても反応が薄い。あぁバズりたい。バズって金持ちになりたいよー。俺はどっちかと言うと“くりえいてぃぶ”側の人間なのに。何かバズるネタはないか。
タバコの煙をふかしながら、額に滲む汗をぬぐう。それにしても暑い夏だ。汗でぐっしょりと濡れたシャツをぱたぱたとして、体内の冷却を試みながら、夏のことを思い出していた。夏のショーを最前センターで撮影したけど、あれも伸びなかったなぁ。去年は割と再生されたのに。今年は暑すぎて熱中症になりかけた。それにしても、労力と結果が見合わないことほど虚しいことはない。
過ぎた夏に思いを馳せながら、一つ気づいたことがあった。そうだ。秋が来る。UPJオタクが最も盛り上がる季節、秋。その理由はハロウィーンイベントであるゾンビナイトがあるからだ。ゾンビナイトの動画はとにかく再生される。そうだ。そろそろ秋になるのだ。初日に向けて準備をしなければな。
チャラーン。
スマホの通知音が鳴る。誰からだろう?また暇人アンチが騒いでるのか、と思ったがその通知の主はシャクレさんだった。