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【小説】(8)リュウ-2【ゾンビナイト】

前回→7)リュウ-1

シャクレさんからのメッセージは『明日の動画撮影の時間変更できる?』と言うものだった。俺は今シャクレさんのチャンネルの撮影の手伝いをしている。シャクレさんは元々UPJでダンサーの仕事をしていたが、今は辞めてフリーでアーティスト活動をしている。その活動の一環として、動画配信者の活動を行っているのだ。俺も元々ファンで“外部イベント”に通った際に声をかけてくれて、それからの仲だ。

いつかシャクレさんが有名配信者になった際に、仲間のスタッフとしてテレビに出るのが俺の夢だ。彼と一緒にビッグになっていきたい。

『時間の変更大丈夫ですよ』と返事すると、すぐにシャクレさんから返事が来た。

『俺もこの秋にもっとアーティストとしてステップ上がりたいから、ちょっと今後の動き相談させて欲しい。夢の階段一緒に駆けあがろうや。』

目に涙が滲む。シャクレさん、一生ついていきます。見た目だけではなく、中身もかっこいい男なのだ、シャクレさんは。あの日、パークのショーで見た時からずっと変わらない。目頭を抑えながら、シャクレさんの熱い気持ちに応えるメッセージを送る。確かな絆がここにはある。

こうしてはいられない。高鳴る胸のままに、何かしなければならない気分になった。カメラの設定でも見直すか。ゾンビナイトでバズる動画を撮ることも大切だが、そもそもパークファンとしてゾンビの良い写真を撮ることも俺の務めなのだ。カメラの腕を上げることが、シャクレさんのかっこいい写真を撮ることにも繋がる。ゾンビの写真を撮るのは普通のショーと違ってとても難しい。何が難しいのかというと、ゾンビはパークの道をずっと歩き回っているのだ。それに道にはゾンビを見たいゲストが沢山いる。ずっと動いているゾンビを人混みを掻き分けながら写真を撮る技術が必要なのだ。しかもゾンビがパークに出てくるのは夕方以降なので、基本暗い。怖さを演出するために照明も暗く設定されているので、ちゃんとした設定やレンズを使用しないと上手に撮ることができない。

そして、更に難しいのは自分の推しのゾンビを早くに見つけることである。パークのゾンビはいくつかのエリアに分かれており、それぞれのエリアで違う世界観のゾンビになっている。あるエリアでは中世、あるエリアでは近未来的なものといった具合にテーマが設定されているのだ。そしてそれぞれのエリアに更に10種類程のゾンビがいる。なのでパーク全体で見ると結構な種類のゾンビがいるのだ。この中から1人ないし数人の推しゾンビを見つけ、ゾンビナイト期間を駆け抜けるのがUPJオタクの秋の恒例である。そして、何故早くに推しゾンビを見つける必要があるか。それはゾンビナイトの期間終盤になるにつれ、来園者が右肩上がりに増加していくためである。推しのゾンビを見つけるのが遅くなればなるほど、同担が増えて撮影の機会の奪い合いになる、と俺は考えている。なので推しゾンビが人気になり、囲み競争になる前に早めに唾をつけておかなければならない。

早口で捲し立ててしまったが、まぁまだ秋までもう少し時間がある。今年のゾンビのラインナップも発表されてないことだし。まだあわてるようなじかんじゃない。俺の中の仙道もそう言っている。

話は戻るが、ゾンビナイトの期間に何かまたバズる動画を撮影して投稿したいなぁ。去年は“影の船団”チャンネルのゾンビ動画がバズっていて悔しかった。”昭和竹馬男の子ゾンビ”と言う高い竹馬に乗ったゾンビが倒れる瞬間を撮影してバズっていた。そう言うハプニング系は再生数がのびる。運が良ければそう言う瞬間に遭遇するが、ハプニング待ちはあまりいい考えとは言えない。そういうハプニングをわざと起こせればあるいは、、。

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