電子化でも「ハンコで完成する書類の美しさ」は残したい
今やハンコは完全にヒール(悪役)である。ハンコを残そうという国会議員の会合がニュースに映っていたけど、反社会勢力の集会のような扱いで(ちょっと言い過ぎか)、世間の目はハンコにめちゃめちゃ厳しくなっている。
1.ハンコを残したい理由
そんな中、こんなことを書いたら叱られそうなので、誤解がないように一番最初に言い訳を書いておくと、文書の電子化、ペーパレス化について、ぼくは大賛成である。ぼくが働く職場での対応はまだまだだけど、個人的な読書は電子書籍だし、家の資料もどんどんとスキャンして保存しているくらいである。
でも、ハンコは残しておきたい。なぜなら
書類は赤いハンコでその美しさが完成する
と思っているからだ。
みなさんはそうは思わないだろうか。書類って、単に真っ白い紙に、黒色の文字が点々と落とされているだけだ。でも、そこまでならただの文章なのだけど、その最後に、あの真っ赤な印(しるし)が入った瞬間、それは突然アートになる。
仕事で行う契約書や自分の家にある大切な契約書を見た時、この赤い印が入っているから「かっこいいな」と思うし、きちんと保存しなきゃと思う。外国人との契約書を扱ったこともあるが、書類としてなんの重みも感じなかった。
普通の人には理解できないだろうか。
2.ハンコが赤い理由
でも冷静に考えてほしい。もともと、このハンコの押印というものは、多分(たぶん)に「見た目のを重視して決められたルール」だったと思うのだ。
その証拠に、もし真正の証明のためだけにハンコを用いていたのであれば、ハンコの色は赤でなくていいはずだ。むしろ、統一するなら文字と同じ黒が一番いいと思う。でも、ハンコといえば赤である。これは、美しいからそうしたのだとしか思えない。
だから、どうしてもハンコの美しさを残したい。この事務書類にさえも美しさにこだわることこそが、日本の文化だと思うのだ。
3.電子でもいいから
もちろん、紙のままでなくてもよい。電子上でいい。お願いだから、ハンコの代わりに無機質な「電子証明済20201015」という表記で済ませないでほしい。赤いハンコの画像を、電子上で押してほしいと思うのだ。
そして、そのハンコのデザインはぜひ今のハンコ屋さんにして貰えばいい。そうすれば、ハンコ屋さんの仕事も少しは残っていくことになるではないか。
4.台湾の天才IT大臣の言葉
応援する人が少ないと思うので、日経ビジネスの台湾の天才IT大臣オードリー・タンさんのインタビュー記事を載せておきたい。「イノベーションと既得権の対立」に関して素敵なことが書かれている。
「大切なのは、社会がデジタル技術に合わせるのではなく、社会に寄り添うデジタル技術の姿を模索することです。手書きやハンコを使いたい人がいれば、それに合わせたテクノロジーの形を提案すべきでしょう。(中略)排除される人が出てくることがあってはなりません。(中略)マルチタッチ技術を使えば、ハンコをパネルに接触させるだけで実印を押したと認識し、デジタルドキュメントに転記されるようなことも可能になるでしょう」
いま、日本のITの専門家のトップ集団が頭をフルに回転させて電子化の方法を検討してくれていると思う。でも、「9月入学に反対する話」でも書いたけど、日本の文化を捨てて、世界標準に合わせてしまえば、それこそ日本の競争力なんてなくなってしまう。
もちろん世界の標準的な技術は採用する必要はあると思うけど、そこに日本ならではの「遊び」を作っていて欲しいと思うのだ。
どうか検討をお願いします。