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「世界は広い、そしてあなたはまだ若い」

苦労自慢をするつもりはないけれど、いわゆるロストジェネレーションと言われるぼくたち世代の就職前線は、それはそれは大嵐であった。特に、男女雇用機会均等と言われてはいたものの、女性の友人たちはどんなに優秀な人ですら、希望する職種で内定を得ることが難しく、本当に苦労していた。

経験した方は誰でもわかると思うが、就職活動の辛いところは、連絡も成績開示もないので、なぜダメであったのかよくわからず、自分の悪いところをどんどん膨らませて自己批判してしまうことであった。

ぼくの周りでは、みんななんとかその自己批判を乗り越え、自分の中でうまく理屈を整理しながら、一人一人就職先を見つけていた。しかし、その苦しみは就職してからも続いていた人が多かった。

ぼくは決して人望があるわけではないのだが、何か困った時「とりあえず聞いてくれそうだな」と思えるキャラクターをしているようで、たまに悩みや愚痴を聞かせてくれる人がいた。

タイトルの言葉は、ある学生時代の後輩の女性から、彼女の心がどうしようもなくなったとの相談を受けた時、ぼくが絞り出して送ったメールの一文である。

彼女は、とにかく仕事に真面目に取り組んで、本当に一生懸命で、誰にも負けないように頑張っていたそうであるが、心がだんだん疲れ、ある日突然、職場の最寄駅で電車を降りたものの、なぜか改札を出ることができなかった

迷惑をかけないように、会社に電話をしたものの「駅まで来てなぜ来れないんだ!」と上司に怒鳴られ、「わかりません!」と返しながら、悔しくて泣いたそうだ。

当時はLINEどころか、SMS(当時はショートメッセージと呼んでいた)の絵文字すら、ドコモとかソフトバンクとか、キャリアが違うと文字化けして「〓」になってしまう時代である。

今なら深刻なメッセージに対して、少しポップな感じでスタンプや絵文字を送って、様子を探ってもいいのだが、当時は既読かどうかもわからず、とにかく一文一文丁寧に考えて送っていた。だからこれは、彼女の気持ちが少しでも軽くなればと、必死になって考えた一言であった。

ぼくらは自由な世界に生きているのだから、何かにぶつかった時、どうしようもなくなった時、一度そこから逃げたっていい。仕事を辞めたって、もう一度学び直したって、とにかく旅をしてみたって、何をしたっていいんだ。そんな気持ちを伝えたかった。

この言葉がどのくらい彼女の気持ちを楽にできたのか、また、どんな返事があったのかもよく覚えていない。でも少し落ち着いてから彼女と飲みに行った時、2人で「そんな会社潰れちまえ!」と大いに盛り上がり、大笑いできていたことはよく覚えている。

8月31日の夜だけではなく、毎日、たくさんの人が目の前の辛い出来事に押し潰されそうになっていると思う。それにどう立ち向かうか(もしくは立ち向かわないか)という選択肢には、たくさんの形があるということを、この言葉で届けることができれば嬉しい。

「世界は広い、そしてあなたはまだ若い」



#8月31日の夜に

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