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わんちゃんは嬉しいと涙を流すってホント?最新の研究について解説!
◎獣医師執筆◎
私たち人は、悲しい時はもちろん、嬉しい時には嬉し涙を流すことがありますね。わんちゃんの涙は、目を洗い流して清潔を保つためなど生理的な役割は持っているものの、悲しい、嬉しいなど感情との関連性についてはわかっていませんでした。
しかし、2022年、日本人の研究チームによって、わんちゃんも嬉し涙を流す可能性があることが発表されたのです!今回はこの研究についてわかりやすく解説します。また、うれし涙以外の、わんちゃんの感情表現についてもお話していきます。
研究チームと掲載誌
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はじめに、この実験の研究チームと掲載誌についてお伝えします。この研究は、麻布大学獣医学部動物応用科学科の村田香織博士、永澤美保准教授、菊水健史教授、茂木一孝教授及び自治医科大学と慶應義塾大学との共同研究により行われました。掲載された雑誌や原題は下記になります。
掲載誌:Current Biology
原題 :Increase of tear volume in dogs after reunion with owners is mediated by oxytocin.
和訳 :飼い主との再会はイヌの涙量を増加させ、それにはオキシトシンが関与している
麻布大学プレスリリース
実験方法と結果
それでは、具体的な実験方法と結果について解説します。この研究では、大きく分けて3つの実験を行いました。それぞれの実験内容と結果について詳しくお伝えします。
・1つ目の実験と結果
1つ目の実験では、飼い主様と過ごしているわんちゃんを飼い主様から離して、5時間~7時間離ればなれにしました。その後、わんちゃんを飼い主様に再会させます。飼い主様と別れる前と、飼い主様と再会後にわんちゃんの涙の量を測定して、比較しました。同様の実験を、飼い主様以外の人とも行って、飼い主様とその他の人との反応も確認しました。
実験の結果、飼い主様との再会後はわんちゃんの涙の量が約1割増えていました。この結果は飼い主様のみに現れ、飼い主様以外の人との再会では、涙の量の増加は見られませんでした。
・2つ目の実験と結果
1つ目の実験で、わんちゃんの涙の量は、飼い主様と再会した時に増えることがわかりました。2つ目の実験では、この再会後の涙の量がオキシトシンというホルモンと関連しているのではないかという仮説を検証しました。オキシトシンの点眼によって涙の量に変化があるかどうかを確認したのです。
実験の結果、わんちゃんの涙は、オキシトシンの点眼によって増加しました。このことから、飼い主様との再会の際、わんちゃんの体内ではオキシトシン分泌が上昇して、涙の量が増える可能性が示されました。
オキシトシンは、脳の視床下部で作られ、下垂体(かすいたい)から分泌されるホルモンです。オキシトシンには、幸福感をもたらしたり、集中力を高めたりする効果があります。その他にも出産の分娩時に役立ち、さらに乳汁分泌の作用を持つことで知られてきました。
さらに近年になって、飼い主様とわんちゃんの絆にも関連していることがわかってきました。例えば、飼い主様がわんちゃんに話しかけたり、視線を合わせたりすると、わんちゃんの体内および飼い主様の体内のオキシトシンも上昇することがわかっています。
・3つ目の実験と結果
さいごに、わんちゃんの涙が、人に与える影響について実験しました。この実験では、わんちゃんに人工涙液を点眼して顔写真を撮影します。被験者に、わんちゃんの人工涙液点眼前と点眼後の2種の画像を提示し、どのような印象を持つかを聞きました。
実験の結果では、被験者はわんちゃんの点眼後の写真の方に、より「お世話をしたい」「触りたい」などポジティブな印象を持つことがわかりました。これについて、研究メンバーの菊水教授は「犬が再会を喜び、涙を増やすと、人はかわいがりたくなる。そうやって人から大事にされることで、絆を深めていったと思う。」としています。
・これらの実験結果からわかったこと
上の3つの実験結果をまとめます。わんちゃんは飼い主様と一定時間離れたあとに再会すると涙の量が増え、これにはオキシトシンが関わっている可能性があります。また、人はわんちゃんの目が涙で潤っていると、わんちゃんに対してよりポジティブな感情を持つことがわかりました。
わんちゃんが嬉しいときに見せる表情
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ここまで、わんちゃんの嬉し涙についてお伝えしました。わんちゃんと長年生活をしてきていても「嬉し涙は見たことがないかも」と思う飼い主様は多いでしょう。一般的には、わんちゃんの涙の量は人よりも大変少なく、人のように涙がこぼれることはありません。
しかし実際のところ、わんちゃんの顔をよく見れば、いま嬉しいのかどうかが飼い主様でもわかります。ここでは、わんちゃんが嬉しいときによく見られる、顔の表情をご紹介します。
【嬉しいときの表情①】耳が倒れる
わんちゃんは、嬉しいことがあると耳をぺたんと後方に倒すことがあります。わんちゃんによっては、飼い主様の顔を見るだけで耳を倒して「いいこいいこされ待ち」になる子もいるのではないでしょうか?
【嬉しいときの表情②】笑顔になる
嬉しいとき、わんちゃんもと人と同じように笑顔を見せることがあります。具体的には目を細め、口角が上がり、歯を見せます。
このような表情は、人と共生してきたわんちゃんが、人を喜ばせる方法として身につけてきたのではないかと言われています。
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今回はわんちゃんも嬉し涙を流す可能性があることについてお伝えしました。
わんちゃんの嬉し涙について興味を持った飼い主様は、5時間以上わんちゃんをお留守場させた日に、帰宅時のわんちゃんの顔をよく見てみるのも良いでしょう。肉眼ではわからない程度かもしれませんが、目がすこし潤っている可能性があります。写真などで比べるとよりわかりやすいかもしれませんね。
涙以外にも、わんちゃんは表情や動きなどを使って、感情を伝えてくれています。上手に汲み取って、わんちゃんとの絆を深めていきましょう◎
●ライター:ttm
獣医師の資格を保有
●編集:うしすけチーム