目やにをとる、すなわち家族?|愛犬と過ごすなかでのひとりごと【エッセイ】
わんことはじめて顔をあわせた瞬間、おなかの奥側がギュウと掴まれた感覚が、たしかにした。ちいさくて、からだからほんのりミルクのあまい香りが湧きだっていた。緊張していたのか、それとも不安な面持ちだったのか、やや伏せ気味であまり顔がよく見えなかった。しっぽは、ぶんぶんと一生懸命に振られていた。
最初はしばらく眺めていようと思ったのだが、「抱っこしてみます?」と言われて、そんなたいそうなこと…と思ったが、「はい」と恐縮しながら言った。腕にすっぽりとおさまった彼は、大層あたたかかった。一旦離れると、遠くからキャウキャウと鳴く声が聞こえた。
そんな彼がわが家にやってきてから、約1週間が経った。わんこという生きものは、目を合わせるのがあまり好きじゃないらしい。むしろ、威嚇されていると思ってしまうと聞いた。けれど彼は、まっすぐな目でじいっと見てくるから、わたしもじいっと見返す。たまに「あそんでよ」と言っているかのように、威嚇してくることもあるけれど。
夜更け。眠たそうな彼を見ながら、
「そろそろ寝るよ」
とやさしく声をかける。抱っこしてゲージへ連れていくと、先ほどの眠たさはどこへやら。ちいさなふたつの瞳で、わたしのことをじいっと見る。ゲージを閉めると、クゥクゥと鳴いた。
ふと、家族っていつから家族になるんだろう、なんてことを思う。
愛に満ち溢れている関係?
すべてを受け入れられる関係?
あんしんできる関係?
わたしと彼の関係は、まだまだ浅い。かるい気持ちで通れるほどではなく、やや躊躇するけれど足を入れることはできる水たまりくらいの深さだろうか。
もちろん、彼への愛情はまぎれもないもので。けれど、かんぺきな愛かと聞かれると、すぐにうなずける状態ではない。まだお互いに探りあっている。いまわたしを見つめる瞳には、ちいさいけれどたしかな“不安の膜”のようなものが貼り付いている。
家族とはなんだろう。
かたちだけでは、もう家族なのかもしれない。けれど、ほんとうの家族になるまでは、きっと時間がかかる。ゆっくり、お互いのことを知っていこうね。きれいな瞳のまわりについた、ちいさな目やにの粒をとってあげたら、スンと鼻を鳴らした。
目やにをとる関係も、もしかしたら家族と言えるのかもなあとヘンテコなことを思いながら、ベッドに入って目を閉じた。
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