小説 バンドやめる

 ボーカルがもうバンドを辞めたいというので河原に呼び出して説得する。
「吸入器も買ってあげるから辞めないで」
「吸入器ったって喉に水蒸気当てるやつでしょ? 限度があるよ」
 ボーカルは三日連続ライブをして以来喉がおかしくなって声が出なくなってしまったのだ。今はなんとか回復したけれども「こんな状況が続くようではとてもバンドなんか続けていられないよ」とのこと。おれは「なに言ってんだうおお」と歯噛みした。
 そうして「就職してバンドは趣味ぐらいにするのがよいのではないか」ということをこの間ボーカルが言い出したあげく、ベースもドラムもフーンという感じで受け止めてしまっているのでおれは気が気でない。フーンではないぞおまえら。フーンではない。
「やっ、薬品も使えるタイプのやつを買ってあげるから」
「いやでもそれはおまえに悪いし」
「バンドを辞められるほうがおれに悪いんだよなあ」
 しかしボーカルの意思は固いらしかった。おれは奥歯を噛み噛みしながら、
「じゃ、じゃあわかった。おまえがバンドを辞めるのを認めてもいい。だがその前におれを倒してからいくがよい」と立ちはだかった。ボーカルは不思議そうな顔をした。
「なんで?」

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