意思確認
「骨折して入院することになった。
明日、手術やねん。
付き添いがいなくても、手術はできるし
大丈夫やから報告だけしとこうと思って」
夕方、義母から電話を受けた。
沈んだ気持ちを奮い立たせ、なるべく明るい声を出そうとしている様子が伝わってきた。
急遽、滋賀へ向かう事になった。
娘が3歳くらいの頃、義父に
「同居したい、あなたならできると思うよ」
と言われた。
それは、旦那も私も仕事を辞め、滋賀で再就職先を探し、義父母の家に住むことを意味していた。
実家で祖母と同居だった私は
祖母や父の機嫌を伺いながら生活する母を見てきた。
なにひとつ自分で決断する必要がなく、
責任を負わない代わりに、自由に楽しむという
権利を差し出しているように見えていた。
「自由を制限されるように感じると思います。
得るものよりも、犠牲的に感じる事が多いと思うので今の私には無理です」
そう伝えると、
義母も賛成してくれ、同居は実現しなかった。
あれから17年。
義母は一人暮らしをしている。
義父が亡くなった時、これからの事を話す機会があった。
思い出のある家で、これからもひとりで暮らしたい
と伝えられ今までやってきた。
旦那は、近くに住まわせたいとずっと思い続けていた。
今回の連絡を受け、危惧していたことが実際に起こり、これからのことについて頭を巡らせているようだった。
「みんなの意思確認をする時がきたね。
ひとの想いは変わっていくものだから。
今回の出来事を踏まえて、
お互いに1番大切にしている事を、
尊重しあえたらいいね」
そう声をかけると、義母を福岡に呼ぶ以外の
選択肢がないと思っていたのか、びっくりしていた。
義母は、
「できるところまで、ひとりで暮らしたい。
その後は、一旦滋賀で施設に入って
福岡に転院という形の方がいいかなと思っている」
と私に打ち明けてくれたのだけれど、
「今、ちゃんと考えてた事を伝えてくれてると思うけれど、私が知りたいのは、お義母さんの気持ちです。それが本当かどうか、もう一度考えてみて欲しい」
と伝えた。
一緒に福岡に住むもあるし、
滋賀で一緒に住むもある
どこか別の場所で近くに住むもいいし、
私が半月ずつ福岡と滋賀を行き来してもいい
みんなの本音を出し合って
理想的な形にしていきたいなと思っていることを
旦那と義母に伝えることができて嬉しかった。
「分かった、本音ね、ゆっくり考えるわ」
義母はそう言って、少し笑った。
旦那は手術の翌日、福岡へ帰り
私はしばらく残ることにした。
義母がひとりで暮らしている家での生活。
普段、どんな様子で暮らしているのかを体感した。
(私の場合、視覚ではなくそこにあるエネルギーで体感する)
朝、目覚めると家を囲むように植えられた
植物や野菜にホースで水をまく。
ゆっくり話しかけながら、細かく愛を送る。
義母らしい愛情のかけ方だなぁと思った。
滞在中に、冷蔵庫の中身を使い切る必要があり
毎日、ストックされている食材や庭の野菜を収穫し、自分ひとりだけの為に食事を作った。
なんて、豊かなんだろう。
自分ひとりの為だけの料理!
本当に贅沢で満たされる。
夜は、近所の家の生活音が
自分の家から聞こえるような気がした。
誰かきた?誰か2階にいる?
そんな不安もあった。
感じた感覚が本当かどうかを確かめるために、
こんな気持ちで生活してますと話すと、
「そうそう!そうなの!」
と、とても共感していたので義母の普段の生活を
体感しているのだなぁと確信した。
ひとりで暮らしていく為に、
ご近所との付き合いも大切にしているし、
仲良しだ。
今回の事も、私までたくさん助けていただいた。
義母の生き方がそうさせるのだなぁと思った。
滋賀での生活は、とても豊かだった。
「できるところまで、ひとりで暮らしたい」は
本当のことなのかもしれないと思った。
ひとは日々変化する。
体調の変化で不安が大きくなるのであれば、
距離や関わる頻度を変えればいい。
変えることで、違う側面の豊かさを味わえるなと思った。
滞在中、
「冷蔵庫の中身ばかり食べないで
もっといいものを買って食べなさい!
近江牛の美味しいお店あるわよ!
お世話して貰っているのに、心苦しい」
と言われ
あまり、食に興味が無いと伝えると
食にも、服にも、何もこだわりがないじゃない!
せめて楽しんで欲しいのだと言ってくれた。
いま、一人暮らしを満喫している
ひとりの時間はご褒美であること
自然の中を散歩したり、お寺や神社にある
自然を感じることは楽しみだと話すと
「明日は、病院へは来なくていいから
前から気になると言っていた石山寺へ行っておいでかかる費用は全部出すからね」
と言ってくれた。
朝8時から石山寺を散策し、
またもや奇跡のような体験をさせていただいた。
(後日、別の記事で紹介しようかな?)
その後、一旦家に戻り病院へ行った。
石山寺で楽しんだ話をすると、
義母も嬉しそうだった。
今回の出来事は、仕事を急に休むことになったり
イベントへの出店を取りやめたり
沢山の方にご迷惑をかけることになってしまいました。
急な申し出にもかかわらず、温かい言葉をかけて下さったり、快くお休みを下さった皆様に深く感謝したいと思います。本当にありがとうございました。
おかげで豊かな日々を送り、
意思確認をするための機会をいただけて
これからより一層、理想的な暮らしに向けて
進むことが出来そうです。
関わって下さる、全ての方へ
感謝。