{小説}「恋愛話(仮題)」{本編(第一稿)}

第一話“転校生”

俺は一人、自分の席に座っていた。
こんな朝早くに俺がいることは珍しいんだが、
今日はたまたま早起きしてしまったからであって、特に意味はない。
「よぅーす!お?今日は早ぇじゃん。何かあった?」
笑いながら話しかけてきたのはクラスメイトの“滝里 浩一(たきざと こういち)”。
いつもテンションは高めだから、まぁ今日もそこまで違和感はない。
むしろ彼に黙られたほうが違和感があるくらいだ。
「おはようー。ってあれ?今日はなんだか集まるの早いねぇ。」
こののんびりとしたやつも俺のクラスメイトである“宮津 和馬(みやず かずま)”。
どこか抜けているのか、ただのんびり屋なのかわからないやつだが、
まぁ気がきくところがいいところかもしれない。

今更ながら、俺の名前は“高柴 京平(たかしば きょうへい)”。
結構マイナーな“観西高校(かんざいこうこう)”の一生徒だ。
まだ高校一年の冬であり、高校にもまだ半年ぐらいしかいない。
話しかけてきた二人も当たり前だが同じ高校に通っている同級生であり、
普段からよく一緒にいる三人組だ。
席も俺の前に浩一、後ろに和馬と並んでいるからだろうが・・・。

俺がとくにすごいってわけでもない。
ただの一般生徒であり、
成績優秀でもないし、運動神経がいいわけでもないし、信頼されているわけでもないし、
ましてやモテてるわけもない。
特に普段からやることもなく、部活にも入っていないし、クラスの係りにだってなってない。
本当に“ただの”一般生徒だ。

「ほら、席に付け!出席取るぞ!」
そう行って教室に入ってきたのは、我らが担任“岩谷 義光(いわたに よしみつ)先生”。
結構な体育会系の体格で、熱血的であり、威圧感があるものの、
実際に担当している教科は国語である。
そのちょっとしたギャップに最初は驚いていたが、もう慣れたものだ。

一通り名簿を読みあげ、出席の確認が済むと、先生はなにやら教室のドアの方に向かって手招きをする。
「これ、転校生じゃね?」
前にいる浩一が話しかけてくるが、まぁ見ればわかる光景だった。
なぜならすぐに見たことのない人が入ってきたんだから。

「今日から転校してきた“海音 初雪(うみね はつゆき)”さんだ。
 これからは同じクラスメイトとして仲良くするんだぞ。」
そう言いながら転校生に自己紹介を促す先生。
ちょっとおどおどしていたような転校生だったが、教壇の前に立って自己紹介を始めた。

「は、はじめまして。海音初雪と言います。
 条正高校(じょうせいこうこう)から転校してきました。
 好きなことは・・、スポーツ、です。
 これからは、よろしくお願いします!」


第二話“高望み?”

「転校生ねぇ・・・。」
俺も一応興味はあった。

見た目はすごく可愛くて、スポーツが好きって言ってるのが嘘じゃないくらい活発そうで、
条正高校と言ったら頭もいい名門でもあったし、
なにより、笑顔がすごく可愛かった・・・。
名前に似合うような無邪気でありながらも憎くない笑み。

しかし、まぁ俺も一般生徒。
そこまで高望みはしたくない。
クラスに可愛い人が来てくれただけでも満足だった。

「なぁなぁ、あの子、初雪ちゃんだったっけ?」
前に座った浩一が振り向いてきたが、大体言いたいことはわかる。
「確かにかわいいよなぁ・・。けどお前、確か彼女持ちじゃなかったか?」
「まぁそうだけどよぅ。可愛いもんわ可愛いだろう?それは変わらんって!」
実はこんなふざけてる(髪も一部染めてたり、制服のボタン止めてなかったり、ワイシャツ出してたりする)
浩一も、高校に入ってから違うクラスの女子と付き合っていた。

「いいよなぁ、リア充は・・。そんなこと言ってたって何もないんだから・・・。」
「まぁまぁ落ち込まないでよ。いつかはきっと俺たちにも・・・!」
後ろから和馬に声をかけられたがまぁこいつの“いつか”にはいい思い出はあまりない。
「お前に言われてもなぁ。説得力がねぇよ。」
「なんだよそ━━━。」

「ほらそこ!人の話ぐらい聞いてやれ!初雪さんに悪いぞ!」
「そ、そんなことないですよ先生。大丈夫です!」
急に大声を出されて逆に驚いてしまったのか彼女が慌ててるのが遠目でも分かる。

自己紹介は終わり、初雪は先生に新しく用意された一番後ろの席に着く。
教室の中では俺が右斜め後ろに目を向けると見える位置に彼女は腰を下ろしていた。


第三話“人気っぷり”

一時間目、二時間目と着々と時は進み、やがて昼食の時間になる。
この時間になると、普段なら大抵の人が購買やら学食やらでいなくなるのだが、
今日だけは話が別のようで、みんなが何かと初雪に質問やらなにやらしていた。

「おぃ、お前はいかないのか?何か話してっぞ?」
「あぁ、うぅん・・。まぁいいや。」
誘ってきた宮津の言葉に曖昧に返事をしておくと、俺は持ってきた弁当を広げる。
一応こんな俺でも弁当派なのだ。
まぁ今日は落ち着いて食うこともできないだろう。
なにせあの騒ぎは直接俺の耳にまで届いていた。

「ねぇねぇ、条正高校から来たんだったよねぇ?」
「前の高校ってどんな感じだったの?」
「スポーツって何が好きなの?」
「メアド、交換してもいいかな?」
などなど。
内容は様々だが、まぁ質問攻めにあっているのは間違いなさそうだった。
そんなに盛り上がらなくてもいいのに・・・。と適当なことを考えながら俺もふと後ろを振り向くと、
人だかりの中で笑顔で話している初雪がいた。

「大変そうだなぁ・・・。」
俺がボソリとそんなことを言ったとき、たまたま彼女と目が合う。
一瞬俺は驚いて固まってしまったが、
彼女もそれに気付いたのかすぐに反対の女子の方へ顔を背けてしまった。

(い、今の聞こえてなかったんだよな?聞こえてなかったならいいんだけど・・・。)
適当にそんなことを考えながら再び俺は弁当と向き合う。
とりあえず食べ終わらなくては、もう少ししたら授業が始まってしまう。
俺は急ぎながら弁当を食い終え、次の授業の準備を始めた。

彼女のことは、その時は考える暇がなかった。


第四話“メールアドレス”

昼休みも終わり、午後の授業も何もなく流れていった。
授業中、ところどころ後ろを振り向いている男子がちょくちょくいたが、
そういう人は、まぁ先生に注意されていたが・・・。

そうして実際にみんなにとっては充実していそうな放課後がやってくる。
各自、部活やら勉強やらで教室から消えていく。
浩一と和馬はいつも一緒にバスケ部に行ってしまう。
俺は部活もないし(していないのだが)、勉強するような人間でもないために、
日々つまらない放課後を過ごしていた。
今日も普段と変わらずゆっくり帰る準備をすると、
ドアの方に向かって歩いていった。
その時、

「ね、ねぇ。」
そう言って俺の服を掴まれた。
掴んでいたのは転校生の初雪だった。
「おぉ・・。あ、挨拶してなかったよな?はじめまして。」
俺もいきなりで驚いたあまり変なことを答えてしまう。
「あっ。は、はじめまして・・。海音初雪です。」
「知ってますよ、自己紹介してたんだから。」
俺はあまり人と話すタイプでもない。
が、一応話しかけられたので応じるしかない。

「えぇっと・・、何か用だった?」
「あっ、そ、そうです!あの、いきなりですが、メアド交換、してくれます?」
「お、俺と?」
普段ではありえないことを頼まれたのでついつい辺りを見回してしまう。
「あ、あなたのメアドです!クラスメイトということもありますし!
 その、一応持ってたほうがいいかなぁと・・・。」
「あ、あぁ、そういうことなら・・・。」
そう言って携帯を取り出したが、今思えばこのクラスの人のメアドを持っていなさすぎるような・・・。
まぁそんなことは相手に関係は無かったのでもちろん言わなかったが。

「あ、ありがとうございます!えぇっと~・・・。」
「俺?俺は京平でいいよ。」
「京平さんですか?ありがとうございました!」
そう言って嬉しそうに携帯をしまっている初雪はやっぱり可愛く、俺も交換できて嬉しかった。
(まぁこれも転校生だからだろうな。)
そんなふうに俺は心の中で喜んでいた。

「すいません、何か帰り際を引き止めてしまって・・。」
「そんなこと、全然気にしなくていいよ。俺、部活入ってないんだし。」
「そ、そうなんですか。じゃぁ私帰りますので、それじゃぁまた明日!」
そう言って椅子から立ち上がり教室から出ていく初雪の背中を俺は見送ってから、
改めて自分の携帯のアドレス帳を確認してみる。
そこにはクラスの男子数名と、女子2、3人のメアドしか載っていなかった。
「やっぱ少ないのかなぁ・・?」
そんな独り言を言いながら俺も用のなくなった教室から出ていった。


第五話“突然なお願い”

「いきなりビビったなぁ。」
小声でぼそぼそと言いながら俺は一人で下駄箱の方へ向かう。
いつも通りに下駄箱から靴をだし、履き替えていたのだが、

「あれ?確か・・京平、君?」
後ろからの声に一瞬驚いて振り返ったが、
そこにいたのは先に帰ったはずの初雪だった。
「あれ?先に帰ったはずじゃ・・。」
いきなり京平“君”と呼ばれたのも驚いたが、
後ろにいないはずの人と会うことも充分驚きだ。

「あ、それはですねぇ、教員室に転校時の書類などを出していたんですよ。
 そしたらちょっと遅れちゃって・・。」
そう言いながら彼女も靴を履き替える。
(なんだか初対面のはずなのに、いきなり馴れ馴れしいというか、元気というか・・・。
 責める気も無いけど、なんかすごく気が晴れるような子だなぁ)
俺がそんなことを考えながら彼女のことを見ていると、
彼女がいきなり顔を上げて、

「そういえば、京平君って何通学なんですか?」
いきなりそんなことを聞かれて、俺が驚く訳がない。
ほぼ初対面(だろう)人に登校手段を聞かれるなんて普通はない。
「え、えぇっと・・・。」
そう言い淀んで彼女の方を見ると、意外と彼女も俺のことを見てきていて、
その目付きからして真面目に聞きたがっているようだった。

「お、俺は電車通だよ・・。」
「電車ですか?ということは観西高校前っていう駅からですか?」
いきなり駅名を的中させられ、俺はますます驚いたが、
「そうなんですねぇ。それじゃぁそこまでは一緒に帰れますね!」
「・・・。はい!?」
もっと驚くことが待っていた。

「今日一緒に帰れますか?」
「え、えぇ・・。ちょっと、まぁ用事はないけど、その、いきなり?」
慌てふためく俺を気にしていないのか、いきなり背伸びをすると、
笑顔のまま振り返って俺のほうを向く。

「京平君、一緒に帰ろう?」


第六話“下校”

結局、
俺は断る理由もなかったために、初雪と一緒に帰ることになった。

「ねぇ、京平君っていつも放課後はなにしてるの?」
横に並んだ初雪がこちらを見上げながら聞いてくる。
実際に並んでみると、身長は俺の10~15センチ位低いといったところか。
学校を出てからいろいろ質問されているわけだが、
だんだんと口調が敬語じゃなくなってきている。
俺としてもそちらの方が話しやすいから良いのではあるが。

「俺はいっつも放課後はすぐ帰るけど。」
「へぇ、そうなんだ。じゃぁ部活とかはやっていないってこと?」
「まぁそうだな。部活って俺的には疲れるからさ。」
(案外話しやすいじゃねぇか。)

最初の自己紹介からすると、
なんだか真面目そうで面倒くさくて、
俺とはあわなく、話しにくいのかと思っていたが、
実際に話すといろいろ違っていたらしい。

「そういえば、・・・海音さんの高校ってどうだったの?」
そう聞くと、なんだか彼女が少し俯いたような気がしたが、
「条正?あそこはみんなが頭がよくて、なんだか・・行ってみると窮屈なところだったな。」
さっきと変わらないような笑顔で答えてくれた初雪が
何か隠していそうでもう少し聞きたくなったのは俺だけだろうか。

そう思いながらも他の話題でしゃべっていると、
いつの間にかいつも乗る“観西高校前”駅がもう目の前まで迫っていた。
いつもは意外と時間がかかると思っていた道が、
こんなにも早く感じたのは久しぶりだった。

「それじゃぁ、私はこっちなんで。」
そう言って右側の方へ指を指す初雪。
「あぁ、そうなんだ。家、学校から近いんだね。」
「まぁそうなんですよね。それじゃぁまた明日。」
「あぁ、また学校で。」

そう言って俺は初雪と別れて、一人駅の方に向かっていった。


第七話“妹”

「ふぅ。」
俺は一人何事もなく家にたどり着いた。
まぁいつものように家の玄関に立っているわけで、
そこにはもう一足靴が並べて置いてある。
「あれ?お兄ちゃん帰ったの?」
居間の方から女の子の声がする。

そう、実は俺には妹が一人いるのだ。
普通にしていれば俺みたいに普通の女の子なのだが・・・。
「なぁ、彩奈。こういういたずらはやめてくれないか?」
二階にある俺の部屋の扉の“外側”に鍵のようなものが付いているのだ。
「えぇ。だってそうしたらいつでもお兄ちゃんは私と一緒に居られるでしょう?」

そう。
俺の妹“高柴 彩奈(たかしば さな)”は、
いわゆる“ブラコン”というやつなのだろうか。
少し前から俺の部屋に何かと仕掛けを作っていることが多くなった。

「だから、こういうことしちゃいけないって言ってるだろ?」
「う~ん。言ってたっけ?」
「毎日言っているんだが・・・。」
「そ、そんな!」
妹が無理に変なリアクションをとる。
「そんなこと言ってるが、覚えてるだろ?」
そう言って俺は彩奈にそれを外すように促す。
うぅ~とか言いながら彩奈は渋々それを扉から外し始める。

それが外されたところで、
「ほら、お前は風呂でも先に入ってくれよ。俺は後でいいから。」
「あぁ!話をそらしたぁ!」
「まあまあ。先に入ってきな。」
「ぶーぶー。仕方ないなぁ・・・。」
その後も俺にグチグチ言いながら彩奈は風呂に向かっていった。

「はぁ。」
俺はやっと一人で自分のベッドに横になれた。
「・・・初雪、かぁ・・・。」
俺にとってこの名前が懐かしいようで馴染みやすくて。
どこかで聞いたことがあるような名前だった。
「どこだったかなぁ・・・。」

そんなことを考えていると一階で物音が聞こえる。
きっと彩奈が風呂からあがったらしい。
「さぁて。俺も風呂に入ってくるかな!」
考え事を追い払うように俺は頭を振って、支度をして風呂に向かった。


第八話“先輩”

「はぁ・・・。」
午前8時、通学途中。

結局昨日は、あの後特に何事もなく一日が終わった。
普段通り妹が風呂に入ろうとしてきたり(扉に鍵をかけておいて正解)、
夜中に布団に潜ってきたり(鍵のかけ忘れは失敗)したくらいだ。

「はぁ・・・。」
まぁ疲れないわけもなく、本日電車内二度目のため息が漏れる。
「おぉっと?君は君は、例のあの人ではぁ?」
急に俺の顔を女の人が覗き込んでくる。
「うおぅ!って、なんだ、先輩ですか。びっくりさせないでくださいよ、ホント。」

楠木 光梨(くすのき ひかり)。条正高校二年生の、元先輩。
元先輩というのは、中学の頃は同じ高校の同じ部活だったからだ。
なんだかんだ言いながら俺にかまってきていた
元気の良いというか、何故か俺とよく一緒にいた先輩だ。

「ねぇねぇ、どうしたのさぁ?いきなり大きなため息なんてついちゃってさぁ?」
話しながらちゃっかり俺の横に座ってくる。
「特になんでもないですよ。けど先輩こそどうしたんですか?部活とかは?」
「あぁ、今日はうちらの部は休み。それはそれで暇なんだよなぁ。」
「何かと一生懸命ですが、先輩、無理しない程度に、ですよ。」
「おぉぉ!心配してくれるのかい!これはお姉ちゃん嬉しいなぁ!」
いきなり頭を撫でてくるこの先輩は、自称“俺の姉”と言っていたぐらいで、
だからこそ俺も気軽に話せるし、この程度ならもう慣れてしまった。

「そういえば、京ちゃんは部活、やってないんだてねぇ。」
急に光梨先輩が話を振ってくる。
「あ、えぇ、まぁ・・・。」
「ふーん。そっかそっか。」
そんな風に軽く流してくれるところも、きっと俺に気を使ってのことだろう。
「あっ、でも!一応入ってますよ、帰宅部。」
「ん?おぉ、そうか!んじゃぁその勤務を怠らないようにしないとね!」
こんなふうに冗談のってくれるところも、話しやすさの理由かもしれない。

そんなことを話していると、いつの間にか俺がいつも降りている駅に近づいてきた。
「京ちゃんはここの駅だっけ?近いからいいよねぇ。」
「いやいや、学校がいいのは先輩の方ですから、」
「どっちもどっちってこと?」
言葉を先読みされた。
「まぁ、そういうことです。ではもう着くので。」
そう言って俺は席を立つ。
「うん、またね、京ちゃん!何かあったらお姉ちゃんに言うんだぞ?」
「了解です。ではまた。」

そんなやりとりをし、手を振ってくる先輩に手を振り返して
俺は電車から降りて学校へ向かった。

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