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「Through Silver in Blood」NEUROSIS
USオークランド出身のヘヴィロックバンドの5th。
当時大学生で、浴びるようにヘヴィな音楽を聴いていたものの、この作品だけは日常的に聴けなかったことを告白しなければならない。音が鳴った瞬間に部屋の磁場が反転し、前後不覚に陥るようなそんな痺れた感覚だけは今でも忘れることができない。音に殺されるんじゃないかと本当に怖かった作品はこれが初めてだったかもしれない。
私の当時の記憶と浅薄な音楽知識から言及するのでなんとも言えないが、この作品をリアルタイムで評価し得た人間がどれほどいたのか疑問だ。今ではこの5thを彼らのベストと挙げる人は多いし、彼らのその後の影響力の凄まじさは論をまたない。
極論を言えば、ゼロ年代以降のポストやらエクスペリメンタルやらを標榜しているバンドは、このNEUROSISが90年代に成し得た残滓を貪っているだけなのではないか。パンク、メタル、クラスト、エクスペリメンタル、スラッジ、ブラック・・・限りなく細分化し、日々造語が創作されるが、彼らがそんな言葉遊びと無縁なところにいることはここで今一度言明しておきたい。
ジャンル分けは時に便利だが、音をそれこそこま切れにし、音そのものが持つダイナミクスや広がりを分断し、音楽を矮小化してしまうことは皆さんもご存知の通りだ。NEUROSISという世界を丸ごと楽しめば良いと私は思う。
1曲目から阿鼻叫喚の地獄が展開され、悶絶必至。聞き終わる頃にはフヌケのようになっている危険もあるが、法悦のような喜びもまた感得できる作品と思う。未体験の方は是非こんな音楽があるのかと体感していただきたい。表現活動に携わる人であれば好き嫌いを超えて評価できる作品なのではないだろうか。言葉を重ねるだけ無駄な作品。