ずっと走ってたら疲れるじゃん。
「休むヒント。」という本を読んだ。
複数名の執筆者が「休む」をテーマに書いたエッセイのアンソロジー。
働き方改革が叫ばれライフワークバランスを気にする人が増加する昨今、人はどのように休みを確保し、充実させているのか、ヒントがたくさん散りばめられた一冊となっている。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000387168
さて、私自身の話をしてみようと思う。
大学を卒業し、社会人となり、9年間一般企業に勤め、その後10ヶ月間の無職期間を経て最近再就職を果たした。
前職で学んだのは「一生懸命頑張りすぎないこと」である。
就職したばかりの頃は毎日が新しい発見ばかりで、自分が立っている場所を確認する暇もなくかなり駆け足で日々を過ごしていたように思う。
体力も気力も想像力も努力も必要とされながらなんとか組織に食らいつき、「程よくサボりながら続ける」ことができたのは、高校時代の部活と大学時代のアルバイトの経験が大きいように感じている。
高校時代、ソフトボール部だった私は部活に明け暮れる日々を過ごしていた。休みは1週間の中でたった1日だけ、その1日ですらも自主練をしたり体のメンテナンスに費やしたり、結局休みなんて無かったに等しい3年間だった。
部内には暗黙のルールがあり、それは『グラウンドに出たら歩いてはいけない』というものだった。
ほんの少しの移動でも、例えどんなにたくさん荷物を持っていようとも、とにかく歩くことが禁じられていて、部員は皆駆け足で動かなくてはいけなかった。元来生真面目な性格の私はそのルールを忠実に守っていたのだが、ある日ふと、我らがキャプテンが顧問の目を盗んでのんびり歩いている姿が目に止まった。
後輩もたくさんいるのに一番背中を見せるべき立場の人間が堂々とルールを破るなんて…と信じられない気持ちで私はキャプテンを引き止めた。(2年生の時だったのですでに先輩方は引退済み。キャプテンは同級生)
「おーい駆け足、グラウンドで歩くなって言われてるでしょ?」そう声を掛けた私に、キャプテンは呑気な顔で「いいんだよ、ずっと走ってたら疲れるじゃん」と答えた。
当時はそんな発言に苛立ちを覚え、それでも私はルールを守るし、キャプテンにもルールを守ってほしいと思っていた。
今思うと、何の気無しにした発言かもしれないが、実は凄く核心をついた言葉だったのかもしれないなとあの日のことを考える。
確かに、ほんの少し、そこからあそこへ移動する時くらい、別に歩いたって問題ない。
重たい足を引き摺りながら走ったように見せることは、ただのパフォーマンスなのかもしれないなと思う。
やる時はやる、でも力を抜く時は力を抜く、それこそが本当は大事なことだったのかもしれない。
部活三昧だった高校を卒業して、大学2年生の時から飲食店でホールスタッフのアルバイトを始めた。とにかくオープンからクローズまでずっと忙しくて、活気のあるタイプのお店だったので一日中声を出し続け、レジに立ち、お客様を席まで案内し、料理を提供し、お客様が帰った席をバッシングし、皿洗いをし、明日の仕込みをし…と、やることが多くて息を吐く暇もないような職場だった。
勿論最初は失敗もたくさんした。提供する順番を間違えて怒られたり、クレジットカードを2回決済してしまって迷惑をかけたり、オーダーを取り間違えて違う料理を提供してしまったり。それでも根気強く大学を卒業するまで続けた結果、気がつけば最終的にはアルバイトながら副店長のポジションにまで就いた。
効率的に複数の作業を進める方法を覚えたし、この仕事をしながら次はこれを片付けて、こうしている間にこれを進める、と自分の頭の中でパズルを組み立てるようにしてホールを回すことが得意になったし、好きだった。
長時間のシフトが多かったし立ち仕事だったので、この頃から力を抜ける場所で力を抜くことが出来るようになっていった。
ずっと100%の力で駆け回っていると、絶対にどこかで押し潰れてしまうことが実感として理解できた。実際、あまりにもシフトを入れすぎて体調が悪くなったりした時期もあった。
そんな経験を経て、自分にとって一番効率がいい方法で、どこかしら息をつける抜け道を探して疲れないように走り切る「サボり方」を覚えたのだ。
「休むヒント。」に寄稿している執筆者の方々とは違って、私自身は仕事に対して大きなモチベーションを持っていない。
仕事はあくまでも生きていくために必要に迫られてやっていることであって、いただく給料の分だけ、与えられる価値の分だけ、誠実に働きでお返しする、というスタンスでいる。
だからこそ求められている能力やスキルを理解して、出来る範囲で出来ることをそれなりに頑張る。一息つける時があれば、背中を丸めてふうーっと大きく息を吐くし、ちょっと裏に入った時には誰にも観られないように伸びをする。
そして、ふとキャプテンの言葉を思い出す。
「ずっと走ってたら疲れるじゃん」
その通りだ。走り続けた先に得られるものも当然あるだろうが、ずっと走り続けられる訳ではない。どこかでは立ち止まらなければならないし、スピードを落とすことも、歩いて周りを見渡すことも大切な時があるはずだ。
気持ちが先走りそうになった時は、一度立ち止まって大きく息を吸って、大きく息を吐く。
「頑張ったしちょっとサボっちゃおう」と自分を甘やかしてみる。
ふう、と一呼吸置ける余裕を大切にすること。
ずっと走り続けないこと。
疲れたら、こっそり歩いてみること。
それが私の休むヒントだ。