UNISON SQUARE GARDEN 考察:今更シュガソン~Dr.Izzyのムーヴを振り返る ②
①のエントリーの続き。
前回はユニゾンというバンドが「シュガーソングとビターステップ」という曲をヒットさせたこと、
それに至るまでのユニゾンの歴史(妄想含む)について書いた。
こちらでは、シュガーソングからの彼らの戦略、そしてその結果について引き続き自分の妄想・想像をもとに書き連ねていこうと思う。
・シュガーソング以後の動きについて
2015年、UNISON SQUARE GARDENは「シュガーソングとビターステップ」をヒットさせた。
「ブレイク」した、というよりもこの曲がたまたま「ヒット」しちゃった、という表現の方が合っているかもしれない。
次にどのような一手を取るか、というこのタイミングで
ユニゾンは世間に「見つかりすぎない」ことを選んだのだと思う。
「自分たちのやりたい音楽体験」「今までのユニゾンを好きになったファン」を守るために。
シュガーソングの次のシングルが2年以上後(2017年)のリリース、
アルバムが1年間を空けた(2016年)リリースとラグを空けたのは
そういったバブルが産まれることでのリスク回避の意味合いもあるのではないか、とも思う。
以前の記事でも書いたが、「売れる」ことは「見つかる」「引き受ける」ことと同義である。
フェーズが変わることは、沢山の人に音楽が届くと同時に、様々な制約が課されてしまうことも時にはある。
それに対し彼らは、
いや自分のやりたい音楽やるだけなんで、それ以上でも以下でもないんで、と「シュガーソングとビターステップ」ではなく「ユニゾン」を好きになってくれるファンを大事にすることを選んだのだ。
そのために彼らがやったことは、「特に何も変わらないユニゾンの通常営業」なのだ。
大衆に迎合するでもなく、揺り戻しとして急な路線方向をするでもなく、
今まで通りの音楽性を貫くことで、
「シュガーソングだけ好き」な層をふるいにかけたのだと思う。
シュガーソング以降の動きとしては、
発売2ヵ月後の記念アルバム「DUGOUT ACCIDENT」のリリースと、結成10周年を経て辿り着いた日本武道館でのライブである。
ただ、これはシュガーソング以前に既に決定していたことであると思われるので、意図的な動きとは一概に言いづらい点がある。
事実、武道館ライブのセトリにおいて
当人達曰くシュガーソングは入れる予定がなかった、と話しており
結果的に組み込まれはしたが、ライブ全体を通して中盤の非常に地味な位置に演奏された。
その現場に私もいたのだが、武道館に集ったのはシュガーソング以前からチケットを既に購入していた者が大半であったため、
同曲が演奏された際、露骨に盛り上がるでもなく「まぁここら辺で来るよね」的な感じに全体の雰囲気が包み込まれたのにちょっと笑ってしまった。
ものすごい余談だが、私は当時遠距離恋愛で付き合っていた彼女とこのライブに行ったのだが、このライブ後合鍵を持ち逃げされたまま音信不通になってしまった。
そのため当時住んでいた湘南のアパートを引き払う際に違約金を数千円無駄に支払う羽目になってしまった。今でも少し根に持っている。
また、記念アルバムの「DUGOUT ACCIDENT」は
シングル曲無しのベストアルバムである。
シュガーソングは入っていない。
普通のバンドであればここらでベストアルバムを出したり、
新たなキャッチーな曲で新規ファンを獲得しようとやっきになりそうなものだが、彼らはそうしなかったし、そこにレーベルも乗っかってくれたことに敬意を表したい。
何しろシュガーソングの後に出したPVが
「徹頭徹尾夜な夜なドライヴ」だ。
当時ライヴでのみ演奏されていたファンにはおなじみの曲だが、
シュガソン新規は面食らっただろう。
このタイミングでシングルベストだったり、
CIDER ROADのような一般受けするアルバムを出していれば、
はたまた後述する「mix juiceのいうとおり」等ポップな曲を解禁していれば、ユニゾンは「見つかって」いたかも知れない。
だが悉く彼らはそれを回避した。
その結果が、今のバンドシーンにおいて安定した立ち位置を築いていることに他ならないと感じている。
・「Dr.Izzy」
先述した記念アルバム「DUGOUT ACCIDENT」、
シングル無しのこのベストアルバムにライブ定番曲を盛り込んだ。
そして前述のシュガーソングと合わせて、
ユニゾンというバンドの認知度、そしてユニゾン自体を好きになるファンの分母をしっかりと増やした。
そしてシュガーソングの興奮が一通り落ち着いた1年後、
どういった札を切ってくるのかファンも思案していたところ、
出てきたのは収録シングル曲は前述のシュガーソングのみという
ストロングスタイルで発表された6thアルバム「Dr.Izzy」である。
その先陣を切ったのがアルバム収録曲のうちシュガーソングを除いた3曲のPV公開である。また別の1曲もライブでは披露されていたか。
その中でも「mix juiceのいうとおり」は格段のクオリティだ。
この曲こそ出すタイミングによってはとんでもないセールスになった可能性を秘めた曲だと思う。
その他2曲もキャッチーな楽曲で、比較的次のアルバムの方向性はポップなのかと予想されたと思いきや、切られた札は自分にとっては予想外のものであった。
「Dr.Izzy」。
約46分、12曲と非常にコンパクトな作品である。
初聴の際、自分の感想としては「あ、もう終わったんだ」という感じであった。
悪いという訳じゃないが、やや肩透かし感を感じてしまったのは正直なところだ。例えるなら両肩ぶん回して臨んだところ合気道で返されたような感じ。
野球で言うならホームランではなく、流し打ちヒットのような。
「肩の力抜いて作ったんだなー」という印象。
少なくともキャッチーかというと違う。
彼らの曲にもあるように一聴では分からなかったため、
珍しく本アルバムについて当人達がインタビューにて言及している音楽雑誌を片っ端から読んだ。
その結果、このアルバムを徐々に咀嚼することができた。
大まかなニュアンスであるが、
「バブルはいらない、ただ自分たちを正当に評価してほしい、過大評価はされたくない」という発言が印象に残った。
シュガーソングのような曲を軸としたバンドではないし、それだけを期待されたくない。色んな数の手札があり、
良くも悪くもユニゾンはこういうバンドです、それ以上でも以下でもないですという意図をもとに作ったアルバムだとのことだった。
つまり、「これまでもこれからも、いつものユニゾンをやっていきます」という決意表明のような作品なのだろう。
なので、決して満漢全席のようなアルバムにはせず、
普段ユニゾンがやっているライブのような内容にひょっこりシュガーソングが紛れこんだ作品になったのだろう。
そう考えると、このアルバムを聴く姿勢が自分の中で見えてきた。
ここからレビューじみた感想を簡単に交える。
M1の「エアリアルエイリアン」の今までにない曲調でファンは驚いただろう。あれ俺買ったのってユニゾンのアルバムだよな、という気持ちになる。
そう感じていた矢先にM2「アトラクションがはじまる」でいつものユニゾンが帰ってくる。キャッチーなアップテンポロック。そしてここでM3のシュガーソングを加え、M5「オトノバ中間試験」までノンストップのロックで駆け抜けていく。シングル1曲だけなのに非常にカロリーが高い。
サンボマスターのアルバム聴いてるのかと思う位だ。
M6「マジョリティ・リポート」で転換しミディアムポップが来たと思ったら次のM7、M8は激しめのロック。M9の緩やかなバラードを挟み、
個人的に初聴から大好きなM10「フライデイノベルス」。田淵智也がアニメ界隈に提供しているような曲をそのまま斎藤宏介が唄ってくれたような曲調だ。
そして、M11「mix juiceのいうとおり」で大団円を迎える。
曲単位で聴くと非常にポップな曲なのだが、アルバムのこの流れで聴くと今までの内容を全て受け入れ、回収し作品を綺麗に締めている。
…からのアンコールのようなM12「Cheap Cheap Endroll」。
2分強で駆け抜けるキラーチューンである。綺麗に締まった流れを
サビの「君がもっと嫌いになっていく」という歌詞をポップなメロディとゴリゴリのロックサウンドに合わせてメンバーが合唱してぶち壊す、というエンドロールに初聴は呆気にとられてしまった。
今ではここにこそポップロックバンドでもあり、捻くれ精神の塊のユニゾンが現れていると感じる。
そう解釈した後はこのアルバムでかなり好きな曲である。
ちなみにこの曲をワンマンライブで演奏した際はサビでメンバーと共に観客が「もっと嫌いになっていく」の合唱が産まれる。
冷静に考えれば割とイカれている光景だ。
そして、このアルバム、特に冒頭3曲は歌詞において非常に彼らの音楽性に対するメッセージ性が非常に強い。
「自分たちの音楽とライブに一体感はない、ユニゾンはそういうバンドじゃないし、それを期待するな。音楽の楽しみ方は自分で考えろ」
これが主な歌詞の内容で、以前の記事でも書いたが大体ユニゾンの曲の歌詞は大体これに当てはまる。
ただ、特にこのアルバムの冒頭3曲はそのメッセージが強く感じた。
そして、その中に「シュガーソングとビターステップ」もあり、だからこそこのアルバムの中で意味を成し輝いているのだと感じた。
大ヒット曲のこのポジション取り、見事な構成だと唸るばかりだ。
4thアルバムが「ポップ」、5thが「ロック」がテーマのアルバムだとするなら、
この6thは「UNISON SQUARE GARDEN」がテーマなのだと感じた。
既にこのタイトルは1stで使われているが、セルフタイトルを冠しても良い内容だとも思った。
また、このアルバムにはもう一つ「姿勢としてロックバンドを貫く」というメッセージがファンに向けられ内包されていると感じる。
曲単位ではポップな曲もあり、ロックな曲もある。
むしろシュガーソング以外にもシングル級のキラーチューンもある。
ただ、全体を通して聴いた時のあっさり感、
なんか分からないまま終わっちゃった感、それらは全て彼らの計算通りだったのだ。
そう考えながらこのアルバムを何度か聴いた時、
自分の中でこの作品が完成された気がした。
ここにユニゾンというバンドの核が完成した、と言い切っても良いかもしれない。
自分にとって一番好きなアルバムか、と言われると違うのだが
UNISON SQUARE GARDENというバンドをこれ以上ないくらい表しているアルバムであり、ユニゾン至上一つの作品としてまとまっていると思う。
ただ、間違いなく一般受けするかといったらそうではない。
シュガーソングを期待した層にとっては恐らく期待外れの内容だったし、
ポップではあるのだがロックの精神で凝り固まっている硬派なアルバムだ。自分がユニゾンを知らない人にこのアルバムを勧めるか、というときっと違う。シュガーソングが聴きたいというなら話は別だが。
そして、ここでユニゾンの方向性を改めて世間に提示したことで、
「シュガーソングだけ好き」のファンは離れ、「ユニゾン」のファンは残った。
ただ、「シュガーソング」が新規ファンを増やし、そこから記念アルバムや本作を通して確かに「ユニゾンが好き」なファンの母数を増やした。
大ヒットとはいかなかったが、前作と比べ売上も倍以上に伸び、
続く7thアルバム「MODE MOOD MODE」では
シュガーソング級のヒットシングルはなかったが、
各シングル売上も1万枚ほど増えており、
こちらのアルバム売上は若干ではあるがDr.Izzyを超えているのだ。
ちなみにこのアルバムはまたポップに寄っており、
リードの「君の瞳に恋してない」はその最たるものだ。
その他の曲も全体的にポップなものが多く、
アルバムのロジックとしては4thの「CIDER ROAD」に近い気もした。
ただ、前作で自分たちのスタンスを示したからこそ、
「もう何来てもそんな驚かないや、だってユニゾンだし」といった雰囲気を作り出したのだろう。
これまでの流れと、圧倒的な手札の数があるからこそ出来る芸当である。
近々の新曲「世界はファンシー」なんてもうやり放題かあんたら、って曲である。
Dr.Izzyで浮かれることなく、堅実にかつ誠実に自らの足場を固め、
ファンを裏切らなかったからこそ、
未だに安定した数のファンがユニゾンに付いてきているのだろう。
恐らくバンドの舵取りを担う田淵智也は、
この先見の明を以って戦略を描いていたのだろう。
自分達が好きな音楽を好き勝手やるために。
とにもかくにも、UNISON SQUARE GARDEN、
恐ろしいバンドである。
月末に発売されるアルバムにも期待しかしていない。
決して一聴では分からなかったとしても、
そこには彼らがほくそ笑んでるような気がする。
もう何が来るかなんて分からないんだから、
ぶるんぶるんとユニゾンに振り回されていこう。
そして、この大好きなロックバンドを誰よりも楽しみたい。
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