出力だけじゃ生き残れない

ライターってどんな仕事だろう。
Writer、と考えると文字通り「書く人」なわけだが、ライターの仕事の重要性を考えたときに「書く」ことはそこまで比率が高くない感じがしてる。
記事を書くフェーズを「聞く(調べる)」「書く」の2つに分けるとすれば、「書く」のフェーズに割く時間は全体の3割程度だ。

「聞く(調べる)」、そして考えて情報を読み取る。
その工程の方がはるかに大変。時間もエネルギーも気もつかう。
ただ、少なくとも私がライターとして重宝されてきたのは、この「インプット」の工程が評価されてきたからのように思う。

当たり前だけど、ライターはただ「書く」だけの人じゃない。
だって日本の教育水準の高さを考えれば情報を出すだけの「書く」は誰にだってできるのだ。
AIの発展も考えると、一般の方の「書く」つまり「アウトプット」は高い水準で均一化されていくんじゃないだろうか。

「だから、これからは取材なんですよ。」
「校正校閲のような仕事はなくならないはず。」
「カメラもデザインもまるっとできる人が結局は最強。」

いろんな声が聞かれる。
まあ間違ってはいないと思う。
でも多分生き残れるかどうかはもっと根本的なところだ。

「スムーズに意思疎通がとれるか」である。

考えてみてほしい。
ライティングを頼むクライアントさんは本当に「書けない」のだろうか?
当然「何も書けない(文章化できない)」わけじゃない。
「自分の思い描くもの」が「出力できない」だけなのだ。

この問題の後半部分「出力できない」は、もうすでにAIで解決できる。
だからそれをあえて人間に頼むというのは、前半部分である「自分の思い描くもの」がはっきりしないからではないか、と私は考えている。
適切な質問、まとめ、言い換えなどを通じて「自分の思い描くもの」が初めてはっきりするという感覚はライティング以外でも、あらゆる「お客様側」でみんな経験しているだろう。
「服」「家づくり」「お酒やコーヒーのおすすめ」「占い」何でもだ。
お客様自身が何が欲しいか明確ではないということは往々にある。
というかライティングの場合、こういうお客様が100%だ。
だってそれさえわかってれば、自分で書ける世の中なんだから。

そしてライティングの場合「お客様」として向き合う相手が複数いる。
まずは依頼元、「何かを読ませたい人」。
そして読者、「何かを読みたい人」。
さらに取材する相手、「何かを伝えたい人」が加わることもある。
書く前に、それぞれの「何か」を全部はっきりさせなきゃいけない。

私はライターの資質として
「一を聞いて十を知る」というのがあると思う。

ただこう書くと残りの九を自分の勝手な思い込みで創造しちゃうAIみたいなライターがよしとされちゃうかもしれないのでもう少し詳しく書こう。

「相手は1つの質問に答えるくらいの労力でいいのに、そこから10の情報が引き出せる」ということだ。
それくらい相手に負担を書けないコミュニケーションを意識するべし、ということで、決して勝手に想像したりしてはいけない。

私のライターとしてのキャッチフレーズは「労力0で読めるを作る」だが、この「労力」は読者だけでなく、依頼元のものも含んでいる。
誰だって、スムーズにやりとりして、仕事したいじゃん。
仕事を依頼したときに労力がかからなかった相手ってやっぱり記憶に残る。
また一緒に、仕事したくなる。
採用側の経験から考えてもこれは間違いない。

このスムーズにやりとりできるようなコミュニケーション力はライター以外のあらゆるお仕事にも役立つんじゃないだろうか。
さっき書いたように、自分の「欲しい」がわからないお客様は多くいる。
情報がどんどん増えていく世の中で、そういうお客様もまた増えていく。
そしてAIが発展してアウトプットを自分でする機会は減っていく。
つまりアウトプットが下手で自分の欲しいをうまく言えないお客様はこれから先あらゆる業界で増えていくんじゃないかと思うのだ。

私は親であるので「自分の能力をどう子どもたちに残せるだろう?」ということをよく考える。
「目まぐるしく発展していくこの世界で、今私の持つスキルのどの部分が、子どもたちの未来でも役立つだろう?」と考えたとき、テキストコミュニケーションだなと思い至った。
ヒアリングというインプットは、相手を動かす力になる。
さりげなく相手の立場を知り尽くし、相手に寄り添うみたいに思う方向に動かしていくコミュニケーション。
言語のコミュニケーションを磨けば、人間だけじゃなくAIすら動かせる。
私の想像しうる未来なら、まだぎりぎり役立つはず。

情報をアウトプットするのは、AIにもできる。
「お客様が読ませたいものをまずは読者が読みたい形で書く」ために
人間からAIからとことん情報を引き出す。
そんなテキストコミュニケーションを教える人になりたいな。


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