短毛に思いを馳せる
2匹目のネコを迎えた。
名をマスオちゃんと言う。6㎏、6歳の大きな雄猫である。
マスオちゃんを最初に撫でたとき、その背中の硬さに驚いた。
毛の触り心地もチビとは全く違った。
同じ短毛種のネコでこうも違うとは考えもしなかった。
それは、私がチビにいかに慣れ親しんでいたか示すことでもある。
チビを飼うまで、道行くネコを何度撫でたかしれないが
背中が硬いとか毛の触り心地とかほとんど考えたことがなかった。
ネコはネコで、どのネコもネコの触り心地。
それが今やネコはチビになってしまっているから驚いたんだろう。
ふつう、ネコは濡れたらガリガリになるものだが
マスオちゃんは風呂に入れてもちっとも縮まない。
チビが1時間以上かかるところ、30分もかからずすっかり乾ききっていた。
チビもマスオちゃんも種族としては短毛種だが
短毛種にもピンからキリまであるらしい。
困ったのがブラッシングだった。
マスオちゃんの毛は短すぎて、ブラシに集まってくれないのである。
寝そべった箇所に抜け毛はいっぱいあるのに
いざブラッシングをしてもちっとも抜けない。
しきりに自分でグルーミングするので飲み込む毛も心配だ。
マスオちゃんの保護団体の方に相談すると
すぐにおすすめのブラシのリンクが届いた。
「うちにマスオちゃんの兄弟かもしれない子がいて、その子も毛が抜けにくいのですが、このブラシだと非常によく取れました。」
一緒に送られてきた写真のネコは確かにマスオちゃんとよく似ていた。
マスオちゃんは多頭不適切飼育からレスキューされたネコである。
もともと地域ネコとして餌をくれる家に来ていた1匹であった。
その家に餌をやらないようにとクレームが入るようになると
その家の方は餌を食べに来ていたネコを捕まえて家の中にいれ
1匹1匹キャリーケースに住まわせた。その数は20匹を超えていたらしい。
狭いキャリーケースに閉じ込めての飼育はほぼ動物虐待だろう。
しかし安くはないキャリーケースをそんなにたくさん集めて
人間が住む場所を狭くしてまで世話を続けたのには
何かしらの「良心」を感じるから悲しい。
保護されたネコの中にはマスオちゃんと似たネコがもう2匹いたらしく
そのうち1匹はまだ保護団体の方の家にいる。
早速購入したブラシを使ってみるびっくりするほど毛が取れた。
それはそのもう1匹のネコとマスオちゃんが何らかの血縁にある証明みたいに思えて、何だか胸が熱くなった。
マスオちゃんは4年間キャリーケースに閉じ込められていたという。
その前からそのお宅に餌を食べにいっていたはずだ。
不適切飼育されていた子の中には途中で逃がされた子もいたようだが
マスオちゃんは逃がされず、名前も付けられていたそうだから
餌を食べにくるネコの中でも古株だったのかもしれない。
もしかしたら子猫のころから兄弟で、
そこの家に通っていたのではないだろうか。
不適切飼育はあってはならないと思うし
無責任な餌やりなども却ってネコの立場を悪くするだけだ。
だけどそうでもしなければマスオちゃんとその兄弟が死んでいたかと思うと
生かしてくれたことにシンプルに感謝したくもなる。
ブラッシングを終えたマスオちゃんは少しスマートになって、
触り心地がよくなった。
マスオちゃんとその兄弟、そして保護されたネコたちみんな
いろいろあったけど生きていてよかったね、って思えるように
幸せになってほしいなぁ。
舞い散った短い毛たちを集めながらそんなことを考える午後。