リサイクルされる夢幻

「__さん」

彼の名を呟く。切なさが、どうしようもなくて。
枕に頭を預けて、いつものように。目には涙を溜めながら。
2年前からずっと想いを寄せている彼に、また会えるのはいつだろう。あまりに心もとない片想いは、ふとした瞬間に切なさに我が身を閉じ込める。

独り暮らしのいちばんのメリットは、こんな切ない呟きを誰にも聞かれないこと。

の、はずだったのに。

「どうしたの?」

驚いて跳ね起きた。見上げた視線の先に立っていたのは、パジャマ姿の彼だった。

どうして?どうして独り暮らしの部屋に彼がいるの?

ラフなパジャマ兼部屋着だと思われる彼は、心配そうに自分を覗き込んでいる。せっかくの優しい眼差しなのに、突然のことにひたすら焦るばかりだ。

…だんだん思い出してきた。私、彼の家に居候することになったんだわ。
しかもご家族と住まれてるご実家の、彼の部屋に。
ベッドの横の床に敷かれた、自分がさっきまで横になっていた布団は、いかにも居候のそれだった。

ああ、しまったわ。一人じゃないんだから、余計なこと言ったら聞かれるかもしれないって、よく気を付けておくのだった。

まさか、あなたと想いが通じ合わないことが切ないんです、なんて言えない。

「体調悪い?」
彼がそう尋ねてくるので、ごまかすことにした。
背中や腰が痛いんじゃないかと、彼はそっと気遣ってくれる。彼の手が自分に触れる日が来るなんて、願ってはいたけれど考えてもみなかった。

この人は、なんて優しいんだろう。彼を見ていると、トゲだらけだった自分の心が丸くなっていくのがわかる。こんな人には、もう出会わないだろうと思う。
だから、こんなに素敵な人だから、若くも美しくもない自分がその隣にいられるなどと、思えなかった。

このまま、仲良くなれたらいいのに。彼の、特別になれたらいいのに。


「…っていう、夢を見たのよ」
声色に無念さを浮かべて、溜め息を吐く。テーブルを挟んで座る同僚は、感心したように頷きながらコーヒーを口に運んだ。

「夢の中でも優しいなんて、さすがじゃない、彼」
「それはそうだけど…。どうせ夢なんだから、もっと甘えれば良かった」

本当のことも、言ってしまえば良かった。
あなたが、好きなんです。

「ねえ、知ってる?」
顔色ひとつ変えず、同僚が呟く。
「何?」
「出張だって」
「え?」
「あんた、出張。長期の。それも彼の住んでる街に、ね」

「予知夢だったりしてね」
ニヤリと笑った同僚の声が、現実ではない世界から聞こえてきた気がした。


★★★★★★
1年くらい前に書いて放置していた短編を供養…。お盆ですしね←関係ない
オチがつまらないので、没にしてました。あとなんか、どうにもこっぱずかしくて(汗)。
ちなみに、自分が実際に見た夢が元ネタです。昔から変な夢ばかり見るので、こうやって創作に昇華させるのがいちばんいいのかもしれないですね。昇華って言うか、リサイクル(笑)。

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