蒼のノスタルジア :3
辛抱強く行列に並んでありついたラーメンの味が、まだ口の中に広がる。
「美味しかったねえ、麺もスープも美味しかった。おかわりすれば良かったな」
蒼介もさっきのラーメンをまだ反芻しているらしく、とろけるような表情を浮かべていた。あとでもう1回、ラーメンを食べてもいいかな、と蒼介を見ていると朝日花は思ってしまう。
線路を越え、石段や急な坂道を、のんびりと二人は登り始めた。ロープウェイがあるのに、と指を指す蒼介に、朝日花は頑なに首を振る。
私が高い所が苦手なの知ってるでしょ、と不機嫌そうな表情になる朝日花に、これから高い所まで行くんじゃないの、ともっともなことを蒼介が突っ込む。自分の足がちゃんと地面についてるのと空に浮いてるのは違うの、と朝日花はムキになって反論した。
「あははは、そうだったね。まあ食後の運動ってことでいいんじゃない」
からからと笑って、蒼介は楽しそうに歩みを進める。結局、ロープウェイでも徒歩でも別にいいらしい。
少し強い、初夏の陽射し。目的地に辿り着くまでに汗だくになるかも、と少しだけ後悔したが、自分が歩くって言ったんだし、と朝日花は覚悟を決めた。
さっき自動販売機で買ったペットボトルの水を蒼介に1本渡す。ありがとう、と受け取る蒼介を、朝日花は改めてまじまじと見つめる。
「ねえ、そんなに背が高かったっけ?」
「そう?8年も経ってるからじゃないかな」
「高いわよ。なかなか目線が合わないもの。何cmあるのよ、今」
「朝日花は何cmだと思う?」
ふいに問われて、朝日花は蒼介を見上げる。
「178cmくらい?」
「じゃあ、それくらいなんじゃない」
「何よ、それ」
少し膨れたような、呆れたような表情を見せる朝日花に、蒼介は声を立てて笑った。
「ははは、その顔。全然変わってないや」
「何よもう。蒼介が変なことばっかり言うからでしょ。今日だって何で財布忘れるのよ」
本格的に膨れ始める朝日花に、ごめんごめんと蒼介はますます大きな声でからからと笑う。どうやら全然反省していないようだ。
長く伸ばしていた髪は、昨日切った。
蒼介に、最後に会った日の自分にできるだけ近付けないと、ぼんやりしている蒼介は、気が付いてくれないんじゃないかと思った。
久しぶりに、高校生の頃のように肩よりも短くした髪に、朝日花はそっと触れる。
きっと、私は間違えなかったけれど。
駅で、蒼介が気付いてくれて、良かった。
もう一度、そっと触れる。
何も変わっていないのは、私だったんだろうか。
→第4回に続く
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
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