退散するわ

私の部屋になる場所は出窓がついていて、私たち姉妹とおとうさんの、4人の作業(勉強)部屋だった。
私の机はお父さんのすぐそばだ。
四角いレコードみたいなフロッピーを覚えている。たくさんの箱に入って、それが天井まであるアルミラックいっぱいに詰まってた。このころお父さんのパソコンは「まつ」
私が覚えたのは、戦艦シューティングゲーム。
フロッピーはパソコンに1枚いれるとガッコンと音がする。
しばらくしてフロッピーは小さくなった。
大きなフロッピーは全部ハサミを入れて廃棄処分。
お父さんのパソコンは「ういんどうずさんてんに」。
私は「ふぁいるまねーじゃ」の画面を知った。
ぱそこんの話をすると嬉しそうにおしゃべりしてくれるお父さん。大好きなお父さん。

高校生になって、わたしはその作業部屋を個室として使えることになった。
素敵な、緑のあふれる出窓。ベッドをおいて、朝は好きなラジオで目覚めたかった。
ワクワクしていた。
妹たちの机が別の部屋に持っていかれて、残すはお父さんの事務机。父が両手でがっしり手をかけた。
お父さんはそれを見ていた私に一言

「ほな、退散するわ」

ウン、と言ったかどうか覚えてない。
退散って、ゴーストスイーパー美神や、ぬ〜べ〜が悪い妖怪に言う言葉じゃないの?
私、お父さんのこと、退散してほしいなんて思ってなかった。
退散なんかしなくてよかったよ。お父さん。

それから十年後。私もその部屋を、家を出てった。
春は藤、夏は猛緑、秋は紅葉、冬は雪。ただただ季節を見せてくれた出窓にさようなら。
私はあの部屋を愛していました。
でも出ていかなくてはいけません。
私のために、家族のために、あとに使う妹のために。

「ほな、退散するわ」

私は部屋を出るときには一人でごちて、家を出るときは「退散しますわ」と言った。
引き止める人はいなかった。 
その時の私は、もう家族にとってはガンでしかなかった。ぬ〜べ〜だって美神だってゆるしてはくれない。

大好きだったあの部屋。
あんな私のために、退散なんてしなくてよかったんだよ、お父さん。

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