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土建屋狂騒曲#6 ICTってなにそれ美味しいの?5【ハイ&ロー思想】

 柔道家に棒切れを渡して戦えというと、最後まで棒切れに頼って戦うことを知っているだろうか。棒切れを相手に掴まれても、引っ張り合ってしまう。棒切れなぞ捨てて、投げ技を使った方が圧倒的に素早く制圧できるのにも関わらず、である。

 このような話は、何も柔道家に限った話ではなく、全ての人に当てはまる事象である。大体の人は特別に訓練を受けている場合を除き、依存していた道具が無効化されると何もできなく(しなく)なる。これは格闘技や戦闘の分野では有名な話で、日常生活や職場でも似たような経験がある方も多いと思う。ひょんな機転で解決できることは案外多いのだ。

 ICT施工においても例外ではなかった。


〇座標SIMAデータが不完全!?
 いうまでもなくICT施工の際扱う座標データは(x,y,z(H))の三次元座標である。工事基準点や測点座標を3次元座標に変換・統合しておくことでTSやLSの機械設置を迅速に実施し、設計面をシームレスにトレースする事が可能になる。
 ある日私がやっつけで作成したデータを手に現場へ向かった監督から熱い苦情が電話で届いた。何を言っているかわからなかったが、どうもSIMAデータに「高さ」がまちまちで入っておらず、機械設置が出来ずに困っているらしい。南無三と手で入力しようにも座標一覧を持っていっておらずどうにもできない、どうすればいいんだ?と
 端から見聞きすると馬鹿らしい話であるが、対処としてはその場で水準測量を実施させた。当人は3次元設計データに慣れ親しんでいた為、従来測量方法が頭の中から抜け落ちていたのだ。ハイテクに固執するあまり、少々のトラブルで思考停止してしまういい例である。
 メールで新しいSIMAを送っても良かったがしなかった。人間誰しもミスはするのだ(白目)SIMA作ったのは私であったが。

〇3DMCバックホウが不調!?
 RTK-GNSS測位(リアルタイムキネマティックGNSS)を利用した3DMC/MG機は様々な要因で精度低下を引き起こし、場合によっては3D施工が不可能になる。以下はある法面掘削・整形の現場での話である。
 高圧電線が工区起点に近接している現場であったが、当初から精度低下を危惧していた。またもや熱い電話である。
「機械が壊れた」
 なんとも呆れる話である。当初より担当の監督とオペレータにはかくかくしかじか説明していたのに。らちが明かないので対処として
・切出し位置杭を10mピッチでぶち込む
・2DMC機能で掘削
・手元(近接作業者)にTSを持たせて法尻をオペに指示
・高圧線から10mおきにバックホウ刃先の精度確認
・精度出ればRTKで施工
を伝えた。わざわざこの程度で大騒ぎするなともすかさず伝える。

 現場では様々な問題が起き、ましてや未知の技術を使わなければならないとなると混乱するのは想像に難くない。ただ、大体の問題は従来より培った知識・技術で打開出来ると言えよう。
「ICT普及で俺たちの知識・技術が陳腐化していくのではないか」
「もうついていけない。俺たちは古い人間だから」
 こういう声をうちでも言う人間がいるが、毎度ハッキリ否定している。
「ハイテクが必要になるにつれて、アナログもますます重要になりますよ」
と。

 この真意は、なるほど確かにアナログな現場は減り、まさに若者の独壇場になった。ただ準備の時間が無く入って行かなければならない現場や、トラブルが起きた場合、従来通りの「アホ!ボケ!」時代のアナログパワーが必要なケースもまだまだ多く、ハイテク普及と共にアナログ技術の維持・増進に傾注しなければならないという事である。
 要するに若者は2つの技術を習得しなければならない。地場零細土建屋の若手はこれから本当に大変な時代に入っていく事と思料する。

 ハイテクは信仰宗教と同じである。未知で、発展途上で、盲信しやすい。
 信じる者がすくわれるのは「足」だけである。

 さて、かくしてICTのある程度の普及と、当初の目標を達成した私であるが、今もくろんでいるのは、「若手からICT技術を一旦取り上げる事」である。


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