エロマンガで朝食を【北欧へ、シナモンロール食べに行く②】※6日間連続配信※
午前8時のアラームが鳴る前に、自然と目が覚めた。
昨夜ホテルの部屋に着き、就寝したのが午前4時。たった数時間しか横になっていないけれど、羽田からヘルシンキ・ヴァンター国際空港まで、乗り継ぎ待ち含め約21時間しょっちゅう寝て起きてを繰り返していたのでわりとすっきり起きられた。
身支度をして、9時過ぎに外へ出る。
フィンランド1日目が始まる。
長期休みはフィンランドへ行く、と上司に報告したら
「へ~。何しに?オーロラ?サウナ?ムーミン?」
と訊かれたが、私たちの目的はそのどれでもない。
この旅の目的は、ずばり「ヘルシンキの街をぶらぶらしながらシナモンロールを食べまくる」。
シナモンロール。
ショーケースに並んでいるとつい買ってしまうのに、食べるといつも「なんかこれじゃない感」をずっと抱いていたもどかしい好物。日本で会うシナモンロールはたいてい、渦を巻いたパン生地の上にどろっと白くて甘ったるいアイシングがかかっているが、あれは実はアメリカ風らしい。「北欧のシナモンロールはもっとスパイシーだ」という話を聞き、ぜひともそれを食べてみたかった。その気持ちに共感してくれたRと、事前にシナモンロールの有名店をリストアップしてはるばる北欧、フィンランドまでこうしてやってきたわけである。
街の中心にあるエスプラナーディ公園という細長い公園沿いを歩き、まずは1つ目のシナモンロールの店「エロマンガ」へ。
日本語だと妖しい響きだが、勿論そんなイメージとは無縁な(エロマンガ島、という島があるらしい)1946年創業の老舗ベーカリーである。
早朝から開いていて15時には閉まるので、初日の朝ごはんはココと決めていた。本当はお店の名物・ミートパイも食べてみたかったが、ショーケースを覗いたらものすごく大きかったので、シナモンロールだけにしておく。
店内は小さな丸テーブルと椅子のセットが数個。私たちの他には客が2人ほどで空いている。テーブルには、可愛らしいピンクのガーベラがちょこんと飾られていた。
待望の北欧シナモンロール。
手のひらより少し大きいくらいのサイズ。ぺたんと、つぶれたような形。見慣れた液状のアイシングではなく、カリカリのパールシュガーがいっぱい上に乗っている。食べると、パンが硬めでぎっしりしていて、甘さは控えめ。そしてがつんとスパイシー!
シナモンだけじゃなく、むしろカルダモンが強い。「こういうやつ~!!」といきなり自分のドストライクの味だった。一緒にたのんだカプチーノとも、めちゃくちゃ合う。
レジのお兄さんも気さくな人で、「ジャパニーズ?」と話しかけてくれたので、シナモンロールの感動を伝えようと、
「ヒュヴァ(おいしい)。シナモンロール、ヒュヴァ!」(←ほんとは“おいしかった”と言いたい)とにわか勉強した単語を発してみると
「イェ、ヒュヴァ!」と反応してくれた。
「ヒュヴァ、“おいしい”」
「オイシー」
「イェス!おいしい=ヒュヴァ!」
と、お互いの言語で「おいしい」を伝え合う。有名店だけれどすごく落ち着く、素敵なお店だった。
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食後、近くにあった日本大使館の場所を一応チェックし、ウスペンスキ寺院とヘルシンキ大聖堂へ行った。
それにしても雲ひとつない快晴。
まだ汗をかくほどではないが、フィンランドの夏は日差しがかなり強いとガイドブックに書いてあったので、ふたりともサングラスをもってきた。けれど、せっかくの美しい異国の景色をサングラス越しに見るのがもったいなくて、外したり、かけたりをせわしなく繰り返す(でも確かに眩しい)。
途中、地元新聞のシナモンロールランキング1位だという、カンニストン・レイポモというパン屋さんでシナモンロールと、私の好物「カレリアンピーラッカ(ライ麦生地で牛乳粥を包んで焼いたパイ)」を明日の朝食用にテイクアウト。そして、すぐ近くにあったファッツェルのお店へ入った。
フィンランドで人気ナンバーワンの老舗チョコレートメーカー「ファッツェル」。この時寄った大型店ではお土産用のチョコがたくさん売っていた。かわいい箱入りもあるが、1個ずつのバラ売りもしているのがわくわくする。店員さんも親切に「このムーミンのチョコは、個包装の包みが1つ1つ違って…」と、優しい英語と身振り手振りで説明してくれた。
ところで、フィンランドでは店に入る際気軽に店員さんと挨拶を交わすのだが、その挨拶が2パターンに分かれている。「モイ」と「ヘイ」。英語で言う「Hi」みたいなニュアンスだろうか。
面白いのが、「こんにちは→モイ(orヘイ)」「さようなら→モイモーイ(orヘイヘーイ)」と、めちゃくちゃ挨拶のパターンが簡単なこと。響き的に「モイ」が可愛いので午前中はずっとそちらを使っていたが、現地の人を観察していると圧倒的に「ヘイ」率が高いことに気づき、このファッツェルから、自分も「ヘイ」に切り替えた。
そろそろおなかが減ったのでランチをしにオールド・マーケットへ。
歩いてすぐの距離に港があり、オレンジ屋根の青空市がたくさん出ている。少し進むと、駅舎のような佇まいの屋内市場「オールド・マーケット」がある。そのなかの、ガイドブックで目星をつけていたスープ屋さんへ入った。Rはサーモンスープ。私は、益田ミリさんの本で読んだ「パプリカのスープ」という鮮やかな赤いスープが頼みたかったのだけれど、「パプリカ」の発音が下手すぎて店員さん(親切)に何度も確認されてしまい、たまたまその場にいた日本人らしき観光客が代わりに繋いでくれて、お礼を言う。日本人、全然いないなと思っていたがここで初めて出会った。果たして、目の前に現れたのは私のイメージとはだいぶ違う、クリーム色のスープ……。
何味かわからないまま口に入れる。すごく濃厚で、もったりとした味。多分豆。いや、でも、結果的においしかったから満足した。「パンもセットにすれば良かったー」と最初は思ったけれど、めちゃくちゃボリュームがあるのでスープだけでおなかいっぱいになった。
木陰を選びながら住宅街を散歩し、いい感じに小腹が減ってきたので本日2個目のシナモンロールを求め、「カフェ・スッケス」へ。
先程とは別のランキングであろうが、こちらもフィンランド1位のシナモンロールと評判。野球のグローブかと思うほどめちゃくちゃデカかったので、Rと半分こする。スパイシーさはエロマンガよりやや控えめで、しっかりと甘かった。
またぶらぶらとエスプラナーディ公園沿いを歩きながら、マリメッコの店をはしごしたり、ストックマンという大きなデパートの食品売り場で夕食用の総菜を買ったりして、18時頃ホテルへ戻った。
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滞在中はずっと同じ、この部屋に帰って来る。タオルは交換のないシステムらしい。下着と共に自分で洗濯し室内に干す。従業員が常駐していない無人ホテルなので、正面入り口も部屋も暗証番号を打ち込んで入る。
白夜なので、23時を過ぎても外は薄暗いだけ。でもなんか不思議と、不思議じゃない。「こんな感じなんだ~」という程度の淡い感想。眠気を堪えて今日の日記をノートに書き、歩き疲れた脚をマッサージして午前0時にベッドへ倒れこむ。
ああ、シナモンロール、おいしかったなあ~
ようやく窓の外が真っ暗になってきた。
(表紙イラスト&写真/©宇佐江みつこ)
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去年行った、フィンランド5泊8日の旅日記。読む方自身がまるで体験しているような読書旅が味わえるように、1日ぶんずつ、6日間連続で配信していきます。
明日の配信をお楽しみに。
*他のお話はこちら↓
*以前訪れたパリ旅行記はこちら↓
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