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(美大日記㉑)夢の会話、実現!/消えた封筒

(※都合により、先週の予告とは異なる内容の記事となります。)

2000年代。まだ新幹線が開通する前ののんびりした石川県金沢市で、美大に通いながらひとり暮らしをしていた日々を綴った、『美大時代の日記帳』。

プライバシー配慮のため、登場する人物・建物名や時期等は一部脚色しておりますことをご了承ください。

それでは、開きます。



夢の会話、実現!

当時していたコンサートホールのアルバイト。ある時、開演前の空き時間が暇で、同じポジションにいた先輩Oさんと雑談していた。他のバイトの人と同じく、彼女も音楽をやっていて、某大のフィルハーモニーに所属しているフルート担当らしい。
「すごいですね、私はまるっきり楽器とかできないから羨ましい」と言うと、
「でも、さっきDM配ってたでしょ?グループ展の。自分たちでそういうの出来るっていいよね。私たちもイベントとかに呼んでもらう以外にも、自分たちで企画して公演とかやりたいんだけど、お客さんも来てもらえるかわからないし、色々難しくて。」

私は、心ひそかに(チャンス!)と思っていた。

本当は美大じゃなく芸大(特定のどこかではなく、音楽部もある大学)に行きたいという野望がかつてあった私。理由はまさに、音楽をする人と、こういう会話をしてみたかったからだ。
というわけで、以前から温めていた自説を思い切って吐いてみた。
「音楽と美術って、同じ芸術分野ではあるけれど、ぜんぜん別物な感じがするんです。練習をして本番があるっていう緊張感みたいなものは美術にはないから。だからこそ、音楽をやっている人に対しては、変に嫉妬とかなくて、純粋に『すごいな』って憧れるんです」。

ああ…。
心がまだ「自分自分」と逸っていたハタチのこの生意気な発言。今、日記を見ながら綴っていると恥ずかしくて全方位に謝りたくなるが、この時のOさんは「そうか~」と優しく受け止めつつ、

「でも、やっぱり似てる部分もあるかもしれない。例えばドビュッシーとかってすごく色彩的というか、あの、印象派?モネとかの。そういう感じの曲づくりしてるんだよね。私も、ドビュッシーを演奏するとき先生に『色を重ねるように』とか『モネの睡蓮を思い浮かべて』とか言われて、イメージはできるけど、なかなかそういうふうに吹け、って言われても、わからないんだよね~」
と、知的で思慮深い返答をしてくれた。

夢の会話実現。「やはり音楽をやる人は、人間が出来ている!!はちゃめちゃな美大生と全然違う!!!」と、勝手な憧れをまた勝手に増してしまった私だった。


消えた封筒

昨夜、眠りにつく前に玄関に行き、鍵をあけドアを開け、封筒を新聞受けにテープで貼った。そして再び鍵をかけ、すやすやと眠った。
今朝方6時半。トイレに起きたついでに玄関を見、すりガラス越しにあの封筒の姿を探したが、ちゃんとなくなっていた。代わりに今朝の朝刊が来ている。「よしよし」とふたたびベッドに戻りつかのま二度寝。が、7時過ぎ。中止になったはずの訪問者はなぜか約束通りにやってきた。
「すみません。○○新聞ですけどー。代金頂きに来ました」
「えっ?あの、…私、ここに貼っといたんですけど…受け取ってませんか?」
「は??」

早朝のミステリ。あらすじをご説明。



もしかしてクラスメイトで私だけだったかもしれないが、新聞好きな私は親元を離れひとり暮らしを始めて以降もしっかり新聞をとっていた。そして、支払い方法をなぜか引き落としにせず、毎月集金にしていた。
一昨日の夜。いつものように新聞屋さんがアパートへやってきた。
しかし、日中お金を使ってしまい財布の中身が足らなかった私は、集金の兄ちゃんに頭を下げた。
「じゃあ、明後日の朝7時くらいに伺ってもいいですか?」
本当はそんな朝早く来てほしくないが、こちらが悪いので仕方なく「大丈夫です」と答えた。そして翌日、さっそくお金をおろして準備を整えた私はふと、
「どうせなら、配達の時、外に封筒入りのこのお金貼っといて回収してもらった方が手間がはぶけるよな?」と思いつき昨夜、2,905円也の入った封筒を新聞受けに貼っておいた。無用心かな…とは思ったが、ここは2階だし、寝たのが深夜2時頃で朝刊配達まであと数時間しかないし、大丈夫だろうと思ったのだ。
しかし、集金係さんはその話を聞いて慌てた。
「え、ちょ…まずいなそれ。えー……」とまわりをきょろきょろする。
そう、私はすっかり配達の人と集金の人が同一人物だと思い込んでいたが(集金では顔を合わすが配達の時は寝ているので顔を確かめたことがなかった)、実は全然別の人だったのだ。一応、封筒の表に「○○新聞様」って書いたのだけれど、今のところ、集金係のこのお兄さんには連絡が来ていないらしい。

じゃああのお金はいったい、何処へ?

「とにかく、一度帰ってきいてみますが、…あの、もしなかった場合は…」
「いえ、まあ…そのような場合は私が勝手にしてしまったことなので、もう一度お支払いします」と言うとあからさまにほっとされ、
「そうですか。じゃあ、その場合はまた後日伺います」と新聞屋さんは手ぶらで帰って行った。

「――というわけなんだけど、これって私の無用心かなあ?」
大学で友に愚痴ってみると、「ん~、どうなんだろ……」「チップだと思って持ってっちゃったとか?」
「ここ日本だよ~?しかも2,905円ってそんなハンパな…」

謎である。

と思いきや。翌日心配で新聞屋さんに電話をしたら、お金はちゃんと届いていた。良かった~。
もう、ぜったい、お金なんか外に貼らないぞ!

世間知らず大学生、またひとつ、失敗から社会を学ぶ。





今週もお読みいただきありがとうございました。ほんとうに、最大の謎は私が新聞代を引き落としにしていなかったこと…。だって、大学生で不規則な暮らしだから留守とか、お風呂入ってて居留守使ったりとか(←アパートの階段をのぼる足音で新聞屋さんが識別できるようにまでなっていた。)この時みたいに、お金をちゃんと用意しておかなかったり…。
他のことではわりと生真面目だったはずなのに、なぜかあの頃、新聞集金だけはルーズだった自分。
集金のお兄さん、けっして感じイイ人ではなかったけれど、全面的に私が悪かったです、ごめんなさい。

◆次回予告◆
『ArtとTalk㊲』最近行った美術館の話

それではまた、次の月曜に。


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