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ビビリ・セルフうどん【10万円で思い出ごはん③】

20代の頃、その日初めて知り合った数人のグループで遠出した帰り、「ついでに軽くご飯食べて行きます?」という流れになり、全国展開している某セルフうどんチェーンに入った。
注文方法がわからず挙動不審な様子の私を見て、
「え、ひょっとしてセルフうどん初めて?お嬢さんですね~」
なんて言われたりしたのだが、私の知っているセルフうどんは地元限定のチェーン店一択で、頻繁に利用していたのもはるか昔の小学生時代。だいぶブランクがあったのである。

「思い出ごはん」のリストを作った時に、そういえばあの店、今もあるのかな~と一番気になったのが件の地元セルフうどんチェーン「DD庵」だった。当時通っていた近所の店舗はとっくの昔に閉店しており、他店舗も最近はめっきり姿を見ない。しかしネットで検索してみると、ちゃんとまだ複数店が存在していた。
ある日、映画を観たついでにちょうどそのチェーン店近くを通りかかったので「行ってみるか」と前まで行ったのだが、蘇る、あの日知人たちと訪れた時のセルフうどん・ブランクの恐怖心。昼時を過ぎていたが店内はいかにも常連ふうのサラリーマンばかりでとても入りづらい雰囲気…。結局勇気が出ずにその場を立ち去ってしまった。

だが後日、偶然にも職場の近くにそのチェーンの店舗があることがわかった。「DD庵って行ったことある?」と後輩ちゃんに訊いてみると、その店舗には行ったことはないが彼女も地元の店は昔行っていたという。話の流れで「じゃあ、今度仕事帰りに一緒に行きましょう!」
となり、セルフうどんへのビビリ心を不安に思っていた私に救世主が現れた。

さて、いざ当日。
後輩ちゃんも久しぶりだそうでふたりで恐る恐る、前のお客さんの動きを真剣に追いながら列に並んだ。まずは、うどん・そば・きしめん(さすが東海地方のチェーン店)を選ぶ。この時点で温かい・冷たいも選ぶ。ぶっかけを選んだ後輩ちゃんはすでに汁に浸ったうどんがどんぶりに乗せられ、温かいきしめんを選んだ私には白い麺のみが丼にドンと乗って渡された。たしか、昔はお湯にこの麺をつっこんで自分で湯がくみたいな作業があった気がするが…この店舗にはそのシステムはないらしい。

続いて、トッピングを選ぶ。

この時間が小学生の頃も一番楽しかった。今日はどれにしようと迷いに迷う至福の時間。私も後輩ちゃんも事前に「ちくわだけは外せない!」「磯辺かな?磯辺だといいですね!」とわくわくしていたのだが、そこに陳列していたのはまごうことなく、青のりを纏った美しきちくわの磯辺揚げ。それを見て「あっ宇佐江さん!磯辺ですよ!!」と興奮する後輩ちゃん。かわいすぎる…。欲張りな私は結局ちくわ天、海老天、れんこん天に加えておにぎりもつかんでしまった。
お会計に進み、あれっ、そういえば私の汁はいったいどの時点で?と、まだ裸ん坊のきしめんを見下ろし店員さんに尋ねると、「こちらでどうぞ」と懐かしい、蛇口がふたつ並んだ機械を示された。

あああー!これーーー!まだあったんだ!!!

この店では汁は自分で注ぐシステム。大きく「赤」「白」と書かれた機械。私は濃いめの赤の蛇口をあけ、ドバーと汁を丼に放流。ちなみに白というのは関西風らしい。
揚げ物が多すぎてれんこん天が乗らないほど豪華などんぶりの完成。「いただきます」。食べると、記憶の中ほどガツンと濃い味というより、やさしい味のする汁だった。
一時期、ほんとによく食べていたな~このきしめん。

DD庵は、習っていたスイミング教室の帰りに親が連れて行ってくれた定番コースだったのだ。



5歳の時に中耳炎の手術を経験した私は、耳に入る感じが嫌で、水が怖かった。しかし、小学校に上がれば夏は必ず水泳の授業がある。嫌だと言って避けるわけにも行かぬので親は少しでも水に慣れさせるため私にスイミングを習わせた。
ところが、どうしたことかここで私の思わぬ才能が開花する。

ぐんぐんと昇給テストを合格していった私はクロールや平泳ぎどころかバタフライまでこなし、ついには1000メートルも余裕で泳げるようになった。親は2階から1階のプールを見下ろして見学をしていたが、
「上から見てるとよくわかる。あんただけ、他の子とは動きが全然違う。すいーってすごく簡単に泳いでるようにみえる」
とベタ褒めされた。あまり親バカを言うタイプではないウチの母が言うのだからまんざらでもないのでは、と自分も悪い気はしなかった。当時、私は身長が他の子よりも大きくて小5ながら150センチ以上あったので、余計に動きが大きくのびのびして見えたのかもしれない。
だが結局、中学に上がる前に通うのが面倒くさくなってスイミングは辞めた。そしてその引き換えみたいに私の成長も153センチでピタリと止まった。社会人以降は立派に「オチビ扱い」の部類である。

おとなになってからも時々思い出したように母が、
「あんたは、水泳だけはもし続けていたら、なかなかいい線行ってたかもしれないって思うんだけどね…」としみじみつぶやいていたが、私が本格的に作家活動をし始めてからはそれも言われなくなった。
ひさびさのDD庵のきしめんに、母の期待したそんな儚い夢をふと、思い出した。

お父さんお母さん、今回もおいしかったよ。ご馳走様でした。


思い出ごはん③
・きしめん並、天ぷら3つ、こんぶおにぎり
…合計1,160円(残額85,660円)

※金額は2024年現在のものです。

イラスト/©宇佐江みつこ



今週もお読みいただきありがとうございました。思い出ごはんはなんか、いつも0時を超えてしまうな…母に怒られたいのかなあ…(言い訳)。

◆次回予告◆
(短編エッセイ)お寺様とお茶する。その他一編

それではまた、次の……月曜に。


*思い出ごはん。10万円の経緯はこちら↓

*その他のごはんはこちら↓


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