祖父母と、夏休みのごちそう【10万円で思い出ごはん⑤】
小学生の頃、夏休みの昼ごはんにはいくつかのパターンがあった。
共働きだった両親。母が作り置きしてくれた日もあったと思うが、基本は私と弟が自ら用意することが多かった。家にある適当な冷凍食品を温めて食べたり、たまにお金を渡される日は、近所にあるコンビニか某ハンバーガーチェーンをローテーションで利用した。
ハンバーガー屋は、そんな昼食パターンの中で一番の「ごちそう」だった。
当時ウチの近所にあった「Mバーガー」。伏字にしてもバレバレな超有名チェーンである。私はいつもチーズバーガー。弟はたしか、てりやきバーガー。そして1階に降りていき、
「おじいちゃーんおばあちゃーん、Mバーガー注文するけど食べる?」
と、同居していた祖父母にも必ず声をかけた。
注文はまず電話で。そして、15分後くらいに歩いて取りに行く。すると、いい匂いのする温かい袋とともに、毎回、小さな紙包みを渡された。「お電話代」として10円玉が入っている袋。そういう丁寧なサービスが昔はあった。
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今はもう、当時利用していた店舗はなくなってしまい、距離的に一番近い場所のMバーガーは食べたいメニューの取り扱いがないお店だったので、仕事帰りに立ち寄れる店舗を訪ねてみた。
「海鮮かきあげと、ロースカツバーガーください」。
夜、お客もまばらな店内でゆったりしたシート席に座り、出来上がりを待つ。持たされたブザーが鳴り、カウンターへ。いつみてもわくわくする、このバスケット型の入れ物。そこに入った2つのバーガー。
ふだんはバーガーどれか1個とオニオンリングとポテトのセットにするけれど、今回は、祖父母がいつも頼んでいたメニューに挑戦したかったので2個ともバーガーである。……そういえば、昔の職場のパートさんが「私はMバーガーはセットにしないの。ハンバーガー2個派」とよく語っていたなあ……。
まずは祖母の大好きだったライスバーガー。
あの頃は「きんぴらライスバーガー」というのだった気がするが、今はメニューになく、似た感じの海鮮かきあげのライスバーガーにした。
実はライスバーガー初体験。
ふつうのバーガーとは包み紙がちょっと違う。ボコボコして、紙が分厚い。香ばしいかきあげ。エビも大きくてしっかり存在感がある。ほんと、「ごはん」だなー。天丼食べているみたい。
続いて、祖父の定番だったロースカツバーガー。
しっかりとソースに染まったロースカツと、まばゆく光る、シャキシャキの千切りキャベツ。あとほんと、Mバーガーのこの、バンズの焼き加減のうつくしさよ…。
豪快にがぶりとやる。うん、濃厚。ハンバーガーというより、カツサンドに近い味。まあ、パン部分以外は全く同じ具材なのだから当たり前か。おいしいけれど、せっかくMバーガーに来てこれを頼むというのは私は勇気がいるかも……。でもこれだけ長年生き残っているメニューだから、ファンが多いのだろうな。
おじいちゃんは一体、いつどこで、このメニューと出会ったのだろう?
母は、「途中から同居してぎくしゃくするよりは」と嫁いですぐ、父の両親と一緒に暮らした。結婚の翌年私が生まれ、その2年後に弟が生まれた。
1階の和室とサンルームが祖父母の生活スペースで、父母と私と弟は2階で主に生活していた。水回りは1階に集中していたので顔はしょっちゅう合わせるけれど、しっかりと一緒に過ごすのは夜ごはんの時くらいで、Mバーガーを買って帰っても、
「はい、おじいちゃんたちのぶんねー」
と袋を渡して、私と弟は2階で食べた。
程よい距離感だった。顔を見たければお互いにすぐ行き来できるし、でも、干渉はし過ぎない。子どもの頃はそれが当たり前でなんとも思っていなかったけれど、今考えると祖父母なりに、息子家族と同居するにあたって自制というか、孫を構い過ぎないようにしていたのではないだろうか。可愛がってもらった記憶は確かだが、甘やかされた感覚はない。
Mバーガーにも、弟とふたりで取りに行ったことは何度もあるが、祖父母が付いてきたことはなかったんじゃないかと思う。
おじいちゃんとおばあちゃんのごはんを買ってきてあげる。
夏休みのそんなひとこまは自分を少しおとなに思わせ、そして、ハンバーガーというハイカラなものを好んで食べる祖父母が何だか、嬉しかった。
Mバーガーのシャキシャキした生っぽい玉ねぎが苦手な母の影響で、父母との思い出だと圧倒的にもうひとつの超有名バーガー店となるのだが、手作りの味わいがいつまでもおいしいMバーガーは、食べるたびいつもちょっとだけ祖父母と夏休みを思い出せるのだった。
ご馳走様でした。
思い出ごはん⑤
・ライスバーガー(海鮮かきあげ)、ロースカツバーガー、カフェラテ
……1,280円(残金82,565円)
※金額は2024年現在のものです。
イラスト/©宇佐江みつこ
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今週もお読みいただきありがとうございました。あの夏休みの自由な昼ごはん、好きだったなあ。近所のコンビニの店長も親切なおじさんでした。
◆次回予告◆
今年の美術館、今年のうちに。『ArtとTalk』。
それではまた、次の月曜に。
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