『ミュージアムの女』という本
皆さんこんにちは、宇佐江です。
予告では最近行った美術館の話、をお送りする予定でしたが、書きたいことが出来てしまったので、内容を変えて配信いたしますことをお詫び申し上げます。
*
本の力ってすごいなあ~と痛感している今日この頃。というのも、最近勤め先の美術館に、
「『ミュージアムの女』を読んで来ました!」
と来館される方がとても多いのです。
このnoteから私の存在を知ってくださった方にあらためてご説明すると、『ミュージアムの女』とは、猫化した美術館監視係の日常を描いた4コマ漫画です。舞台となる岐阜県美術館でのエピソードを中心に、同館SNSで2016年から配信しています(現在も不定期で更新中)。
どういうきっかけで描き始めたの?とよく訊かれるのですが、
まず一番は、当時あまり盛り上がっていなかった美術館のSNSフォロワーを伸ばしたいという実務的な欲望から始めました。
ただ、形になるきっかけはそれだったのですが、内容をああいうものにした理由は、私自身が仕事中に感じていたさまざまな葛藤が、積もった結果だったなと思います。
「こんなに素晴らしい展示なのに、お客様が少ないのはもったいないな」
「美術館にふだん来ない人は、どうしたら来たい気持ちになるのかな」
「監視係が何か行動するたびに『注意された!』とお客様に悲しまれたり、怒られるのが切ない……」
「学芸員さんが展覧会を作るように、総務職員が縁の下の力持ちをしているように、毎日展示室で座っているだけに見える私たちにも、きっと、何か存在する理由があるはず」……等々。
仕事を始めて4年目。基本的な理解ができた分見えてきた難しさに悩むことが増えた時期で、その思いを正直に漫画にしました。
作品はありがたいことに、翌2017年に書籍化。
しかし、何の知名度もない作家のデビュー作であるこの本は、あっという間に書店から消え、重版もされず、大して売れていないはずなのに実物が手に入らないという謎の現象でAmazonの中古品ばかりがどんどん高額になっていきました。
電子書籍はその後も継続していたものの、紙の本が好きな自分としては、いったいあの9000冊(出版社さん情報)はどこに行ってしまったのか……と淋しく思っていました。
*
ところが、発売から何年経っても『ミュージアムの女』の本を持って岐阜県美術館に来てくださる方がいるのです。
ふだんは本当にごくたまにですが、今現在は本の中でもたびたび登場させたルドンの大型企画展を開催中なので、その数が急増。今週だけで、私の知る限りなんと5件もありました。
お仕事の出張時間を割いてわざわざ来てくださった方や、ニューヨークから旅行を兼ねて来てくださった方。
展示室で、とても熱心なお客様が作品リストの他に何かをずっと持っていて、それに目を落としながらご鑑賞されている……その手の中のものが、『ミュージアムの女』だと気づいたとき、本当は監視中の私語はご法度なのですが嬉しくて、思わず小声で御礼を述べてしまいました。
こうやって、何年経っても作品を覚えていてもらえるのは「本」という形を与えてもらったからこそだよなあと、今、あらためて感謝の気持ちでいっぱいです。
仕事中はなかなか短いご挨拶しか出来なかったりシフトがすれ違ってしまうことも多いので、この場を借りて、『ミュージアムの女』という作品を読んでくださった方と、それをきっかけに岐阜へ来てくださった方、また、岐阜以外でもどこかの美術館に「行ってみようかな」と思ってくださった全ての方に、心より御礼申し上げます。
これからも、あなたが美術館で素敵な時間を過ごせますように。
*
*
*
今週もお読みいただきありがとうございました。来週は通常回です。
◆次回予告◆
『ArtとTalk』51.
それではまた、次の月曜に。
*ありがたいことに、空席わずかです!詳細はこちら↓