ギターリスト好永立彦、55歳、永眠
バックミュージシャンは、後ろに控えて演奏する。
顔は出しているが、目立たない。
あたりまえのことだけれど。
一人のアーティストをずうっと追っかけていると、ミュージシャンも知らない間に顔なじみになっていることがある。
たとえば、
わたしは松山千春を追っかけている。
千春の後ろで演奏している人は、みんなそれぞれ長いからファンの間では、顔なじみ。
エレキギターを担当しているのが好永立彦。
舞台に立っていると、演奏をしていないときでもオーラーがある人がいる一方で、そうでない人もいる。
好永立彦は、ギターをもっていないときは目立たない。
千春に話を時々ふられても、受け答えはシドロモドロ。
もう何十年もキャリアがあるのに、素人っぽい朴訥とした感じがいつまでも残っている。
そこが彼の魅力でもある。
そんな彼が、演奏になると一変する。
特にギターソロが入る曲は、バックバンドの誰よりもキラキラ輝いていて、カッコイイ。
絶対的な存在感がある。
彼は最近、指が思うように動かないと悩んでいたらしい。
そのことでほかのバンドメンバーに迷惑をかけるのがイヤだったともらしていたらしい。
でも想像するに、思うような演奏ができないことが、ギターリストとして許せなかったのだろう。
そんな職人気質のギターリスト好永立彦。
彼が9月25日、急逝した。
享年55歳。
この訃報を聞きながら、私は
「月々8万円の養育費は終わったのだろうか? あと少しと言っていたから、きっと終わったのだろう」と呟く。
迷惑をかけることなく、一人のギターリストはすべての帳尻をあわせて旅立った。
シャイで、控えめ。
でもギターを弾かせたら、華があるミュージシャン。
人生の幕引きも静かにひっそりと、と思っているのだろうけれど、それではあまりにもったいないぐらいのギターリストだった。