政策開発の新たな可能性、英国ポリシーラボの実験的デザインツール
英国のポリシーラボ(Policy Lab)は、2014年に英国政府の政策革新のために設立された組織であり、デザイン思考やユーザー中心のアプローチを通じて、政策問題の解決に革新的な方法を試みています。この機関は、政策開発の過程で創造的かつ革新的な方法をテストし、その結果を政策基準に反映することで、英国政府内の政策開発文化を変革する役割を果たしています。
ポリシーラボは、2022年5月に「実験的政策デザイン方法カード」と題した11の方法を発表しました。これらのカードは公共政策の開発において新たなアプローチを提案し、従来の政策開発手法から一歩進んで、より効果的で人間中心の問題解決を目指す取り組みを示しています。これにより、複雑な社会問題を創造的かつ協力的な方法で解決するための様々なツールを提供します。
11の実験的な方法カード
ポリシーラボが提示した11の実験的政策デザイン方法カードには、以下のようなものがあります。
スーパー予測(Superforecasting): データに基づいて専門家が将来の出来事を予測し、それを政策設計に反映する方法。これにより、政策決定をより正確かつ効率的に行うことが可能です。
シリアスゲーム(Serious Games): 政策の利害関係者が参加し、複雑な政策問題をシミュレーションするゲーム形式のアプローチ。ゲームを通じて政策の影響をシミュレーションし、さまざまなシナリオを実験して政策開発に必要な洞察を得ることができます。
立法演劇(Legislative Theatre): 政策決定者と市民が演劇を通じて政策問題を体験し、共感を引き出し、現実的な解決策を模索するアプローチ。特に社会的弱者を含む多様な参加者の経験を反映するのに効果的です。
メタバースによる参加(Engaging through the Metaverse): メタバースのような仮想空間で政策決定者と市民が対話し、政策の未来像をシミュレーションします。これにより、公共の参加が促進され、政策開発の透明性が向上します。
デジタルツイン(Digital Twins): 物理的なシステムやプロセスをデジタルで複製し、政策の効率性をシミュレーションする手法。これにより、政策が実際の環境でどのように機能するかを予測し、改善することが可能です。
ボディストーミング(Bodystorming): 特定の状況を実際に演じながらアイデアを発展させ、政策のユーザー体験を改善するための直接的なフィードバックを得る方法です。
道徳的想像(Moral Imaginings): 政策決定者が倫理的な視点から未来を想像し、政策の長期的な影響を考慮する方法。未来の世代や非人間的な生態系への配慮を含めて、政策の包括性を高めるのに寄与します。
分散型自律組織(Decentralised Autonomous Organisations, DAO): ブロックチェーン技術を基に、参加者が直接投票し決定を行う組織運営方式を政策に適用する方法。これにより、参加者により大きな自律性と責任が与えられ、政策開発の民主性が向上します。
政策の中のアート(Art in Policy): アートを活用して政策問題に対する感情的な反応を引き出し、複雑な問題を視覚的に表現して理解を助ける方法。特に社会的な認識を高め、公共の問題に対する関心を引き出すのに効果的です。
市民会議(Citizen Assemblies): 無作為に選ばれた市民が特定の政策問題について議論し、政策決定に参加する方法。これにより、さまざまな市民の声が反映され、政策の代表性と受容性が高まります。
再生デザイン(Regenerative Design): 持続可能性を超えて、エコシステムを回復し再生することを目指す政策設計の手法。環境問題を解決し、長期的に持続可能な社会の構築に貢献します。
実験的政策デザイン方法の活用事例
ポリシーラボは、ロンドンで開催された政策ネットワークセッションで、これらのツールが実際にどのように適用されているかを紹介しました。その中で、「シリアスゲーム(Serious Games)」と「立法演劇(Legislative Theatre)」が代表的な事例として取り上げられました。
特に「シリアスゲーム」では、政策の利害関係者が安全な環境で政策問題をシミュレーションし、さまざまなシナリオを実験することで、政策の効果を直接確認できました。この結果は、正式な政策開発プロセスに反映されています。「立法演劇」では、ホームレス問題の解決を目指し、ホームレスを経験した市民と政策決定者が共に問題を議論し、現実的な解決策を模索しました。
政策デザインツールが提供する示唆
ポリシーラボの実験的政策デザイン方法は、日本のサービスデザインや公共政策開発にも多くの示唆を与えます。
「ボディストーミング」と「立法演劇」 は、サービスデザインでよく使われる参加型ワークショップに似ており、実際の状況を演じながら問題を探り、政策をデザインするアプローチです。この手法は、参加者間の共感を引き出し、複雑な問題を理解しやすくする効果があります。
「デジタルツイン」と「再生デザイン」 は、システム思考とデータに基づくアプローチを政策に適用する方法で、サービスデザインが目指す持続可能性とシステム転換の方向性と一致します。
メタバースや分散型自律組織(DAO) といった技術的アプローチは、サービスデザインが公共領域でさらに革新的に応用される可能性を探るものです。
実験的政策デザイン方法の実用的な意味
ポリシーラボの実験的政策デザインツールは、現在の日本の公共政策開発にも十分に応用できる可能性があります。「立法演劇」を活用することで、市民が直接政策開発のプロセスに参加し、政策の現実性を高めることができます。これにより、政策決定者と市民の信頼関係が強化され、政策の実効性が向上するでしょう。また、「シリアスゲーム」を通じて、多様な利害関係者が政策シナリオをシミュレーションし、その結果に基づいてより良い意思決定を行うアプローチは、複雑な社会問題を解決する上で有用なツールとなり得ます。
サービスデザイナーとして、これらの実験的な方法を参考にしながら、日本の公共サービスの革新に向けた政策デザインの新たな可能性を探ってみてはいかがでしょうか。
ファイルはポリシーラボのリンクからダウンロードすることをお勧めします。
ポリシーラボの実験的政策デザインツール紹介動画…
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