運動会と作文
アカウントを取ったものの放ったらかしているのもどうよ、と思いはじめたのでとにかく書いてみることにした。
子供の頃は作文が苦手でなかなか文章が書けなかった。大人になった今では理由が分かる。作文の時間は道徳の時間でもあったからだ。運動会は大変だけど楽しくなければならないし、学芸会はみんなで一つのものを作り上げた達成感がなければならない。
私はといえば、「昨日は運動会がありました。とても楽しかったです。」と書いたらもう何も書けない。インドア派の私は全然楽しくなかったからだ。
小学校の運動会で、変なおじさんが現れたことがあった。おじさんは応援団の大きな旗を見て、こんないい旗があるのに何で使わないんだ、と怒り始めた。旗は決まった種目で決まった振り方をしなければならならず、ちょうど使わない競技の時だったのだ。応援方法も決まっていて「イエーイ」や「ヤッター」は言ってはいけなかったと記憶している。色々な禁止ワードがあったのだ。
おじさんは当然そんなルールは知らないので、勝手に旗をぶんぶん振り回し始めた。旗はおじさんの背よりもかなり大きく、小学生だとかなり体格の良い高学年でも振るのがやっとという大きさだったが、さすがに大人なので派手に振り回してもよろけたりすることはない。おじさんは、それを見ている子どもたちにももっと応援しろ、と言いながら禁止ワードをバンバン連呼した。
私は「先生に怒られるかなあ」と思いつつ控えめに応援を始めたが、その場に教師がやってくることはなかった。
おじさんはその後も近くにいる子供に結構疲れるなあ、等と言い、時々休みつつも旗を振り応援し続けた。違うチームを応援してるよ!と小学生に突っ込まれても、おおすまんすまん、と機嫌よく相手をしていた。
小学生の子供がいるような年には見えなかったので、近所の人か卒業生の親だったのか。昔は管理がゆるかったから、運動会をやっている様子を見てふらりと立ち寄ったのかもしれない。
運動会も終盤になり、旗を閉会式の規定場所に戻さなければならなくなったのだろう。ある教師が上級生にヒソヒソと耳打ちし、その上級生はおじさんに旗を返してほしいと言いに行った。おじさんは、おおそうか、がんばれよ、とか言いながら上級生に旗を渡した。旗がなくなったせいかおじさんはその場からいなくなり、普段通りの運動会になった。
次の日、作文の時間に運動会について書かなければならなかったが、私はおじさんのことを書かなかった。書いてはいけないことのような気がしたからだ。
その年の作文集にもおじさんのことを書いている子供はひとりもいなかった。