すずめのすず太郎
昔々あるところに、てんてこマート天国店という商店があった。
月に一度だけ開くというその店は大変な人気で、オープンするや否や客は商品をカートに入れ決済を無事遂行するためマンボを踊り、買い終わったらサンバを踊り、それはそれは大変なお祭り騒ぎなのであった。
人気商品、「頭に宝石をのせた成金しゅうまいのしんせき」の敷き物は、創業当時からハートのふ菓子と決まっていた。
ところが、てんてこマートの商品生産地であるおにんぎょう村でハートふ菓子の不作が続いた。
村のクィーン、ボロボロのリボンちゃんはふ菓子に代わる良い敷き物はないかと、山へ探しに出たのだった。
「意味わからん山だから、梅よろしあるわ」
リボンちゃんは自動販売機で梅よろしを買い、喉を潤して、右へ左へ、上へ。良い敷き物はなかなか見つからない。
「スズメがいちに、サンバ🎵楽しく踊っているよ🎵」
リボンちゃんが山の中腹にある茶屋であぶり餅をほおばっていると、つづらを背負ったすずめが歌いながら通りかかって、
「あー、お腹空いた。お腹が空いたし、何をしていいのかわからないし」
そうぼやくすずめのために、お茶汲みリーダーのハムスターがお茶とおもちをおぼんに乗せて、
「すずめさん、うちのあぶり餅は絶品ですよ」
「そうなんですか?ではひとつ、いただきます」
「どうぞ、どうぞ」
「あまままま」
「あぶり餅、お好きですか?」
「食べ物はなんでも好きですけど、とくに好きなのはぽぽちパンとしゅうまいです、あまままま」
「というかあなた、どこかで見たことある顔ですね」
「あまままま、ああおいしい」
「見たことあるなあ」
「あのー、うっかり食べてしまったけども、おかね持ってきてないんですよね、すみません本当に。あまままま」
「え!」
「すみません、本当に」
「ダメですよあなた、無銭飲食ですよ」
「たしかにそうですけれども、あまままま、わたくし根っからのスラム街育ち、お弁当屋さんで床に落ちたご飯を拾い食いしたり落ちてるパン食べたりして生活してましたから、あまままま」
「だから何なんですか?」
「あー、どうしよ。一時半から歯医者さん予約してるし、あー、あのお店にも行かなあかんし、買うもんもあるし、あ、あれ救急車やし、あー、何考えてたっけ、あー、どうしようかな、今から出たら変な時間になってしまうし、あー、猫も襲ってくるし、もうわからへん、雨やから、わからへんようになってきたから、一旦寝るかー」
「寝ないでもらっていいですか?」
「すみません、本当に」
「あぶり餅のお金、はらってください!」
お茶汲みリーダーのハムスターに詰め寄られ、あぶり餅をごくりと飲み込み、
「あーじゃあ、鳥の巣で、はらえませんかな?」
「なんですか鳥の巣って、はらえませんよ」
「わたしはすずめのすず太郎、鳥の巣を売って歩いているんですよ、副業という、やつです。鳥の巣〜、鳥の巣は、いらんかね。こんなふうにね」
「はあ」
「寝るときの、敷き物にしたりすれば、よく眠れますよ」
それまであぶり餅を味わいながら、すずめとハムスターのやりとりを何ともなく眺めていたリボンちゃんの目がぎらりと光り、
「敷き物?」
「おや、お嬢さん興味ありますか」
「お嬢さんじゃありません、リボンちゃんです」
「そうですか、わたしはすずめのすず太郎、どうです、見てくださいこの敷き物。すずめが丹精込めて作った、天然の鳥の巣ですよ。」
「へー、いいやん」
リボンちゃんは鳥の巣をたいそう気に入り、大量に仕入れる事にしました。
「ありがとうございます、これで無銭飲食せずにすみます。でもね、だいじなだいじな鳥の巣を卸すんだから、新規の顧客には簡単なテストをしていましてね」
「テスト?」
「簡単なものですよ、どっこらしょ」
すず太郎はつづらからおもむろにしゅうまいを2つ取り出して、
「おおきいしゅうまいと、ちっこしゅうまい、どちらのしゅうまいを選びますかな?」
リボンちゃんは言いました、
「これって有名なテストですよね?」
「ちがいますけど」
「大きいほうって言ったら、欲のやつでなるやつですよね?」
「ちがいます」
「じゃあ、どっちもって言ったら、やっぱりなるやつですよね?」
「なりませんよ」
リボンちゃんはしばらく考えて、
「私はどちらも選ばない、なんなら選択肢をひとつ増やしたい」
「それでそれで?」
「選ぶんじゃなくて、ハーフサイズのしゅうまいという、選択肢を、足す」
リボンちゃんがそう答えると、山のすずめたちがわーっといっせいに飛びたって、羽が舞いおちるなか、陽気なサンバのリズムにあわせておしりをふりふり、ラインダンスをはじめた。
電信柱の上で🎵
スズメがいちに、サンバ🎵
楽しく踊っているよ🎵
スズメが3羽踊ってる🎵
スズメがサンバ🎵
スズメが3羽🎵
スズメがサンバ🎵
楽しく踊って🎵
サンバ🎵
「大当たりー!あなた、大当たりです」
リボンちゃんを取り囲んで祝福する、すず太郎と山のすずめたち。
「あなたは、なりました。
わたしの副業であるだいじな鳥の巣をよろこんで卸しましょう。
あなたの商人魂には光るものを感じざるを得ません。
わたしは庶民的な鳥、すずめのすず太郎。鳥は巣を作りたい、それが本能なんです。
つい作りすぎてしまった鳥の巣で、しゅうまいのおなかを温めることができるのならば、こんなに嬉しいことはありません」
すず太郎とリボンちゃんが手を取り合い、お金問題が解決したハムスターが安堵の表情を浮かべていると、遠くから吉とくのひよこが焦りながらやってきて、
「ちょっとすず太郎!もうすぐ出番だよ!副業はそれくらいにして、本業のほう、たのむよ!」
ハムスターがひよこを指差して、
「あ!まるのひよこだ!」
「はい、わたくしまるのひよこです」
「わたくし相方のすず太郎です」
「やっぱり〜どっかで見たことあると思った〜!」
「お茶汲みリーダー、この2人知ってるの?」
リボンちゃんが聞くと、
「大人気漫才コンビ、まるめくちばしだよ!やっぱり漫才師って、2人揃わないと誰だかわからないよね!」
ハムスターは有名人が来たときのための色紙とペンをすばやく用意して、
「サインください!茶屋に飾って客寄せをしたいんです!ファンなんです!」
「もちろん、いいですよ」
「ハムスター茶屋さんへ、まるめくちばし、まるのひよこ、」
「すず太郎、と、はいできた」
「ありがとうございます!」
ハムスターはさっそく色紙を茶屋のいちばん良いところに飾って、
「ありがとう、まるのひよこ、すず太郎!ありがとう、まるめくちばし!」
「じゃあ、すべてまるく収まったところで、わたくしたちそろそろ漫才の出番です、行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい!」
その後、すず太郎の敷き物はいっときしゅうまいの下の敷き物に使われたといいます。
今はSDGSのやつなどで、敷き物はあったり、なかったり、するようです。詳しいことはわかりません。
2022年くらいにてんてこマートで通販したわたしのしゅうまいの敷き物、鳥の巣でした!という村のものは、ぜひ画像をあげてください。それではこのへんで、止めさしてもらいます。
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