タバコの種子の輸入について 前編
タバコの栽培をどうしてもやりたくなった。
「タバコの世界史」を読んだからだと思う。
タバコはカリブ海植民地に入植した人間が一番最初に栽培する植物であった。タバコは初期投資が他の農作物と比較して安く、播種から8ヶ月程度で収穫できるので資金回収効率が高い作物である。
タバコ栽培である程度元手を貯めた人間は、資本は必要だがより利益の出るサトウキビ、カカオ、インディゴ栽培に手を出すことになった。
タバコは入植者にとっての福音であり、植民地ドリームの一歩である。
ワイも植民地ドリームを狙いたい。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」とビスマルク宰相も言ってた。
ワイは賢者なので歴史から学びタバコ栽培で高収入を狙う。
そんなわけでまずはタバコの種子を探すことにした。
なお、日本においてタバコ栽培は合法だが製造は違法である。タバコを植物として育てるのはよいが、葉を乾燥させて吸えるようにすると違法になる。JTと契約しているタバコ農家がJTにタバコを売って、JTが全てを買い取るので契約農家以外の門外漢が栽培しても誰も買い手がいない。
ここでタバコ栽培を諦めるのは時期尚早である。たばこ事業法は人が作った法律である。法律というのは変えることだってできる。20XX年、タバコの製造がJT以外にも解禁されて誰でも自由にタバコの製造ができる未来が来るかもしれない。
その未来が来た時にただうろたえるのか?
経済アナリストが「老後の資金のためにタバコ栽培に参入しましょう!」と提灯記事を書いた頃にはもう遅い。
来るべき20XX年に備えてタバコ栽培を今するのが賢者の振る舞いである。
先の先を読むのが投資の基本だ。
種子の調達をしよう
品種にこだわらないのであれば、ハナタバコはたまに売っているのでそれを買えばいい。ただし、所詮は観賞用なので喫煙には向かない。タバコ栽培で高収入を狙うなら品種にこだわりたい。
農作物は遺伝子がものを言う血統ゲー。蛙の子は蛙、トンビはタカを産まない。由緒正しき品種を買うことにした。
国内のサイトを検索したが、タバコの種子は売っていないことが判明した。
ここで諦めるか?否…!
国内にないものは輸入すればいい
頭の中が大航海時代で止まっているので、すぐ個人輸入しようとするいつもの癖が出た。
早速、グーグル検索で調べてタバコの種子を扱っている業者に連絡を取ることにした。
ここで大事なのは植物検疫証明書を書いてくれる業者を探すことである。国外への輸出に慣れている業者なら植物検疫証明書を書いてくれるが、そうでない業者だと植物検疫証明書を書いてくれない。
業者の中には「植物検疫証明書?んなもん書かねーよ」とあらかじめ断っている業者もいる。植物検疫証明書の作成はその国の農林水産省の役人とやり取りをする必要があるのでめんどくさいのだ。
とあるタバコ業者にメールを送った。
要件は日本に輸出してくれるか、植物検疫証明書を書いてくれるかである。
返信が返ってきた。
「日本に輸出はできるよ。植物検疫証明書は40ドルだよ」とのこと。
植物検疫証明書が高い。もうわけのわからない高さである。高級チョコレートと書類代が同じ高さなのは理解できない。輸出の書類を作るのに40ドルもかかるとは思えない。
利権だ!
他国の行政について文句を言っても仕方がないのでお金は払うことにした。送料、手数料で90ドルもかかった。買い物かごに植物検疫証明書が含まれていないのが引っかかるが、手数料に入っているのだろう。送料もだいたい50ドルと考えれば妥当な金額である。
とりあえず輸出はされた。個人輸入で一番楽しいのは荷物が手元に届くまでトラッキングしている時間である。荷物が手元に届くと半分くらいは終わった感がある。開けるまでが楽しい。それがプレゼント。
日本に税関に到着してからやたら長かった。何度も検査中が表示される。
植物の種子の輸入は厳しいのはわかるが、そんなに時間がかかるか?
クリスマスシーズンで世界の物流が混雑している時期なのでまあそんなもんかと思いながら待つことにした。
荷物のトラッキングの表示が切り替わって植物検疫を通過したのがわかった。植物検疫を通過した瞬間が一番アドレナリンが出る。これがあるから個人輸入はやめられない。
荷物が手元に届いた。
注文した種子の量の割に大きい段ボールである。タバコの種子数グラムのためにこんなに大きい段ボールが必要か?
「植物検疫で開封しました」のシールを剝がして段ボール箱を開封する。
次の瞬間、声が出なかった。
なんと全部種子が廃棄されていたのである。
は!?
他の添付書類を探したが、植物検疫証明書がなかった。業者が植物検疫証明書を添付するのを忘れて、タバコの種子は全部廃棄されたのだ。種子以外にも書類があったので空の段ボール箱だけ送られてきた。
「90ドルも払ったのだから、手数料に植物検疫証明書代が含まれている」と勝手に思い込んだこちらの落ち度である。誰かのせいにしたいけど、自分の顔しか思い浮かばない。
業者に植物検疫証明書の添付を念押ししなかったこちらが悪い。
「メールで問い合わせたのだから植物検疫証明書は添付してくれただろう」は勝手な思い込みである。
クリスマスプレゼントとしては最悪だった。190ドルもかけて空の段ボール箱を輸入したのだから無理もない。これが5歳児だったら一生もののトラウマである。下手したらクリスマスが憎くなって、イスラーム過激派に身を堕としていた可能性がある。アラサーでよかった。アラサーにもなると理不尽な出来事も一応現実として消化ができる。
種子を廃棄した税関に八つ当たりをしたくなったが、彼らは自分の職務を全うしただけである。彼らに落ち度はない。
タバコ業者に八つ当たりしたくなったが、彼らはオーダー通りの仕事をしただけである。彼らにも落ち度はない。
190ドルをドブに捨てて呆然としていたが、タバコの種子の輸入を諦める気分ではなかった。
種子を廃棄した税関への逆恨みもあったが(何度も言うが植物検疫証明書の添付されていない種子を廃棄するのが彼らの仕事の一つである)、なんとしてでもタバコの種子の輸入をするという意思が強かった。半ば意地である。
年末年始になって業者も休みになるので年明けになってから作戦を考えることにした。
後編へ続く。
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