ギターは自然の揺らぎの中で
楽器の持つ個性は、演奏者の精神にも様々な影響を与えると思う。
クラシックギターは、ほかのクラシック楽器と比べてかなり音が小さい。巨大なコンサートホールにびんびんと豊かな音量を響かせることは不可能な楽器だ。
けれども、だからこそ、その楽器の創り出す音響空間が他と異なっていて面白い。クラシックギターの演奏で、僕が心地よいと感じるのは20~30人くらいの空間だ。雰囲気も、もっとゆるい感じ。クラシックコンサートというとどうしても真剣に静かに聞くことになるけれど、クラシックギターはゆったりとした気持ちで「耳を傾ける」感じで聞きたい。
弦の響きが円く、素朴で、温かいのだ。
イタリアの心地いい風を感じながら、ワインとチーズを食べつつ、ポロポロとギターの音が聞こえてくるとか。
フランスの田舎で、葉っぱの擦れる音や鳥たちのさえずりとともに、さりげなく聞こえてくるギターの音とか。
そんなイメージ。
主張しない音楽なのかもしれない。独り言のような。風がどこかからやってきてどこかへと過ぎていくように、ふわりと通過していく。そういう音楽。
三つの演奏を紹介してみたい。
(音質が全然変わるので、ヘッドフォンで聞くのをお勧めします)
一つは、徳永真一郎さんの演奏で、タレガ作曲のラグリマ(涙の意)
徳永さんは、実際にコンサートを聞きに行って、その音色の幅の豊かさで一気に好きになり、ふわふわとした人柄も大好きなギタリスト。フランス仕込みで、音の世界観が豊か。お師匠さんのステファノ・グロンドーナさんも、とても味わい深い演奏をされる巨匠。
もう一つ。岡本拓也さんの演奏で、バッハ作曲、カンタータ「Wachet auf, ruft uns die Stimme (目覚めよと呼ぶ声が聞こえ)」BWV645
クラシックギターで、バッハの対旋律の動きを楽しめる見事な演奏。眠るときに、横で静かに弾いてもらったら昇天しそう。岡本さんといい、徳永さんといい、ほれぼれとする演奏姿だ。男だけど惚れちゃう。岡本さんはオーストリアのウィーン仕込み。
最後は、オーストラリア出身の女性のギタリスト。ステファニー・ジョーンズ。もう…この方は、音色といいリズムといい、本当に生き生きとした音楽が自然に流れていることにいつも感動する。
髪の色を派手に染めていたので傷んでしまい、一度ベリーショートにした期間があり、その間に録画された動画。それがまた、どこか森の妖精のようで不思議だ。洋服も自由でお洒落。
曲はブラジルの作曲家ペルナンブーコによる「鐘の響き」。ブラジルらしい、ボサノバのようなリズムが楽しい曲。
クラシックギターのソロコンサートは一時間から二時間程度なのだけれど、ほかのクラシック・コンサートと比べて圧倒的に聴衆と距離が近く、そして演奏者がたくさんしゃべってくれるのが楽しい!人柄に触れて、その人の曲のイメージを話してくれるのはとっても嬉しいのだ。
コンサートが単調にならないようにする工夫かもしれないけれど、そういう人懐っこい演奏会になるも、クラシックギターの好きなところ。
もし上の三つの動画を見て、クラシックギターのコンサートに興味がわいた方には、おまけで二つの動画を紹介します。こんな感じのアットホームな雰囲気だというのが伝わってくる動画になっています。(厳密にはコンサート収録ではなく、配信録画です。)長いので、作業しながらなんとなく聞いて、楽しんでもらえたらうれしいな。
岡本拓也さんのホームコンサート
バッハ「主よ人の望みの喜びよ」から始まり、すぐに温かい音色に満たされます。
ステファニー・ジョーンズさんのコンサート
バッハの無伴奏バイオリンで有名な旋律が聞こえてきます。実は同じ曲をバッハ自身がリュートのために編曲したものです。(バッハはしばしばこういうこと: transcriptionをしています。)
クラシックギターの定番曲から現代曲まで、どれも彼女らしく素敵に弾きこなしています。圧巻です。
実は、クラシックギターは、自分が弾き始めるまでそんなに魅力を知らなかった。最初はアコギを学びたくて、たまたま通い始めた教室がクラシックギター教室だったのがきっかけで、先生にクラシックギターを借りて弾いているうちにはまってしまった。
人生は出会いで変わる。
皆様にも良き出会いがありますように…♪